咲かない桜

御伽 白

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3章

Part 118『そして、異世界へ』

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 俺とサクヤは夜に合流してリューのいる店へと来ていた。リューはもう完全に覚醒しているようで、「よく来たね。待ってたよ。」と俺達を出迎えた。

 店の中には、真冬さんとツララ、リドの姿、そして、姿形のそっくりな俺がそこにはあった。

 「は?」と思わず声が出る。というか、出ない訳がなかった。

 まるで鏡を見ているようにそっくりな自分の姿である。なんというか気味が悪い。

 「ふふん、驚いたようだね。そう、これが僕の魔法具の1つ、『ドッペルゲンガー』だよ。効果はシンプルで人形に対象の関わりのあるものを入れて人柄を設定する事で自律行動する。 とある秘境に眠っていたスーパーアイテムだよ。」

 リューは俺の反応に満足したのか自慢げに胸を張る。つまりは、俺の異世界でいない間の対策はつまりは、これの事らしい。

 「ツララ・・・アイシテル・・・」

 「明らかに俺じゃないぞ、こいつ!?」

 片言で呟くドッペルゲンガーは明らかに俺の言動とは違う。俺は、リューを軽く睨むと不思議そうな表情を浮かべるリューは「ふむ、ツララに性格はインプットをお願いしていたはずなんだけどね。」と答えた。

 ツララの方は「あれ? お兄ちゃん、こんな感じじゃなかった?」と笑って誤魔化していた。

 「どこに俺、要素があるんだ? 言わないよ。ツララ、アイシテルとか!」

 「えー! 冷たい!」

 「とにかく! 直しといてくれよ?」

 「えー、せっかく、超理想お兄ちゃんを作ったのにー」

 「直しておけよ?」

 俺が念を押すと流石に納得したようで「ちぇー、分かったよ。」と不満げではあったが頷いた。

 「サクヤの方の対策も万全だ。サクヤが1日以上、桜の木から離れられない。これは、精霊の加護がない植物は、基本的に朽ちてしまうからだ。なのでこちらも簡易の精霊を用意しておいた。」

 そう言ってリューは右腕を前に出して手を広げる。するとそこから小さな光が現れた。

 「サクヤから少しだけ魔力をもらって作り出したんだ。ああ、勿論、大した量じゃないから安心していい。意思もないただの維持装置の役割しかないものだけど、こちらはこれで十分のはずだ。」

 「魔女ってとんでもないのな。精霊を自分で作り出すなんて・・・」

 「あくまで、機能を模しただけの代物だよ。僕ぐらいになれば、このぐらいは大した手間じゃない。というわけで、これで心置きなく君達も異世界へ行けるって訳さ。後、真冬、君に渡したその刀、大事にしておくれよ。」

 そう言ってリューは真冬さんに声をかける。よく見ると真冬さんの手元には、ウチガネさんの最期に打った日本刀『真冬』が握られていた。

 どうやら、真冬さんに護衛をお願いすることを考えて日本刀を渡しているのだろう。という事は、真冬さんは、日本刀が扱えるのだろうか。

 「私が、好きな人の生涯最高の一振りをぞんざいに扱うと思いますか?」

 「いや、一応だよ。一応、おっかない女だよ。君は・・・」

 リューは少し冷たい声を放つ真冬に対して呆れたような表情を浮かべる。

 「とりあえず、君達には、この人形を渡しておくよ。僕のお手製だ。無くさないでおくれよ。」

 そう言ってリューは、俺達、3人にリューの姿を模した人形を渡してくる。

 「それは、異世界での帰りの切符だよ。強く握れば、どこにいてもこの店に転移出来る。1回限りのアイテムだからね。あと、峰はこれを持って行って、地図とかその他諸々ね。」

 「分かった。」

 俺は小さな巾着袋を受け取る。受け取って見ると想像以上の重さを感じる。他にも色々と入れてくれているらしい。

 「じゃあ、送るからね。気をつけて盗んできておくれ! こっちでの処理は全て済ませておくからさ!」

 そういうと俺達の足元に魔法陣が出現する。そして、次の瞬間、床が抜けた。

 「なっ!?」

 突然、足場を失った俺は重力に吸い込まれる様に下へと落ちていく。

 リューが思い出した様に「あ、地面抜けるから気をつけて」と俺に向かってそう言った。

 「遅いんだよおおおおおおお!」

 落下しながら俺は誓った。必ず、報いを受けさせてやると・・・
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