咲かない桜

御伽 白

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3章

Part 115『異世界ツアーに行きません?』

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 「僕達の世界とは違う異世界に行ってちょっと泥棒をしてきてくれないかなって言ってるんだよ。」

 リューの唐突な話に俺達は言葉を失った。異世界、そんなものが本当にあると言うのか・・・そして、何より、俺たちに泥棒をしてこいとはどういう事だ。

 「まあ、そういう反応になるのは仕方ないか。僕達は、今、この世界に存在している。まあ、仮にこの世界を人間界としよう。人間界は言ってみれば、実体を持った存在の世界だ。実体のない妖怪達は、人間界に存在しているだけで認められてはいない。生き物が優先されるんだ。優先されるというのは、生き物の主観が大きく妖怪達の行動を制限しているということだよ。サクヤが人目のないところでなければ、食べ物を食べれないように、実体のない存在は、自由に行動できないのさ。まあ、サクヤの場合は精霊だから少し根本の部分が違うんだけど、とりあえずは置いておこう。」

 確かに実体のない妖怪達は、物体に干渉する際に見えない人間がその物体を見ていれば触れることが出来ない。

 けれど、俺のように妖怪の存在が見える人間が妖怪の行動を見ていたとしても強制力はないのだ。

 「そう。つまり、見える人間しかいない世界なら、妖怪達は、普通に暮らして普通に生活出来るという事になる。そんな世界が」

 「異世界って事なのか。」

 「正解だよ。向こうは見えない人間がそもそもいないからね。妖怪達の存在も日常的だ。もしかしたら、峰も向こうの方が生きやすいかもしれないね。」

 たしかに、それならば、妖怪の見ることが出来る俺も向こうならば標準的という事だ。認識的には暮らしやすいのかもしれない。まあ、勿論、こちらの世界では友人も多いので住みたいとは思わないが・・・

 「それで妖怪達が日常的に存在する世界で盗みを働けと? 随分今までとは系統が違うな・・・」

 「安心しておくれ。危険がないとは言わないが、ある程度安全は保証するさ。護衛も付ける。それに向こうの世界に行くのは君にとっても重要な事なんだよ?」

 「重要?」

 「うん。君が求めている力を封じる道具の原料は、この世界にはない。どのみち、入手に関しては向こうに行かなければいけないのさ。」

 「・・・・・・それ込みの依頼じゃないのか?」

 それに関してはそちらの責任ではないのだろうか。そういう契約のはずだ。

 「そんなに目くじら立てないでくれよ。その材料は魔力を抑える効果があるから魔法が効きづらい。専門の業者に頼むのが一番効率的だよ。代金に関しては、もう向こうには払ってある。それ自体はおつかいみたいなものさ。」

 「・・・・・・分かった。どのみち、拒否できる立場にはないんだろうしな。それには納得してやる。けど、泥棒は犯罪だぞ。」

 「あの世界は異世界だ。盗みなんてこっちの世界のルールじゃ、たいして関係がないよ。」

 「倫理観の問題だろ。」

 「倫理観ね・・・なら、なおさら、問題ないね。盗む相手は、悪党からだからね。」
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