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稲荷堂
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玲子は少女と出会うのに必要であるとされる特大油揚げを買うためにスマホで稲穂堂を検索した。検索結果はすぐに表示され、駅の近くの商店街の豆腐屋がヒットする。老舗の豆腐屋らしく、特大油揚げの評判も良いようだった。口コミサイトの情報を見ていると店に置いてあるオススメの商品が紹介されている。
「八百円? 高い・・・・・・」
特大油揚げの紹介には、八百円と油揚げの金額とは思えない額が書かれており玲子は思わず呟いた。
スーパーの物で誤魔化せないだろうか。そんな邪な考えが脳裏に浮かぶが、すぐに相手は縁を結ぶ人間だということを思い出し、考えを振り払った。
縁を結ぶのなら逆もあり得る。良縁を結ぶことが出来る相手が悪縁を結べないとは限らない。下手なことはしないのが吉だ。玲子はそう思いなおして、スマホの案内を頼りに稲穂堂へ向かった。
やや寂れた印象を受ける商店街を通り、稲穂堂へ訪れた時、その盛況ぶりに玲子は目を丸くした。
「行列が出来てる。」
商店街の寂れ具合が嘘のように店は繁盛していて、列が出来ている。出不精な玲子は、身近にここまで人気の店があることを知らなかった。
どうやら、いなり寿司が人気らしく凄い勢いで売れている。豆腐屋だと言うのに豆腐よりもいなり寿司が売れているのは、経営者としては、どういう気持ちなんだろうか。
玲子はそう考えながらも陳列されている商品に目を向ける。豆腐や厚揚げ、いなり寿司などが置かれており、全体的に安価で手頃な価格の印象を受けた。しかし、その中でも異様な存在感を出しているのが、全体の中で一番価格の高い特大油揚げだった。いなり寿司は一貫が百円程度である。にもかかわらず八百円というのは、逆にどんな味なのか気になった。
玲子は自分の財布と相談する。玲子もそこまで裕福という訳ではない。縁結びの女の子と自分の分、合計千六百円は痛い出費である。
(後で経費で香穂から落とそう)
自分の番が来ると玲子は、特大油揚げを二つ買い、ついでにいなり寿司も二つ購入した。
「はい。毎度、ありがとうね。全部で千八百円ね」
愛想の良い年配の老人にそう言われ財布からお金を取り出す。
「二千円で。この油揚げって人気なんですか?」
「まあ、毎日、何枚かは出るね。どっちかっていうと、普通のいなり寿司の方が人気だな。特大の方は高いからなぁ」
そう言って、老人は商品の入った袋とお釣り、そして、四枚のカードを玲子に渡した。カードにはくじ引き券と書かれてあり、商店街で企画している福引の券の様だった。
「二枚で一回引けるからね。一枚サービスしてやるから、ガラガラやってくると良い。」
そう言って老人は、玲子にそう笑いかける。その様子を見ていた周囲の常連客が「すぐ可愛い子に良い顔するんだから」とからかう。
「だから、お前さんらにもサービスしてるだろうが。」
そう言って盛り上がる姿に少し微笑ましさを感じながら、玲子は「ありがとうございます。」と頭を下げてその場を去った。客と店の人との距離の近く親しげで、店主との語らいを求めて客もやってきているのだと感じた。
商品の質も確かに人を寄せ付ける魅力ではあるが、それを販売する人間も魅力の一つである。多少高くても魅力的な人間から買いたいと思ってしまうのも人と人との商いの魅力である。
品揃えや値段の安さを求めるのならスーパーに行けば良い。それでも商店街で個人の店にこれだけ人が集まるのは、それだけの理由があるのだ。
せっかく、好意でくじ引きを貰ったので引いていこうと、くじをやっている商店街の中央の広場にやってくる。それほど、大きなスペースは取っていなかったがかなり張り切ったイベントのようで、飾られた大きなポスターには、A賞からF賞までの景品の写真が載っている。温泉のペアチケットやミシンなどがある中で、玲子の目を引いたのは、ふわふわかき氷機であった。普通のかき氷機と異なり、まるで新雪の様な柔らかなかき氷が作れるという代物で、一時期、ネットで話題に上がりながらも、夏しか使わない。そのうえ普通のかき氷機よりも明らかに高価な品である。自分で買うのは躊躇するが、プレゼントで貰うならそれなりに嬉しい商品である。景品としてもC賞と現実的なレベルであり、夢が膨らむ。
「二回お願いします。」
受付の女性に券を渡し、深呼吸をして、くじを回す。ガラガラと弾ける音を響かせながら回すと勢いよく白い球が飛び出す。受付の女性は、すぐにダンボールから景品を取り出すと玲子に差し出した。
「F賞の商店街限定ハンカチです。」
渡されたのは、商店街のキャラであろう二頭身のキャラクターが小さくプリントされたハンカチだった。牛モチーフのデフォルメされたデザインは、可愛らしいというには無愛想で筋肉質だった。どうやら、人気が出なかった様で背後にいくつもの段ボールに仕舞われたハンカチの山から見ても、間違いなくハズレだった。
落胆する気持ちを抑え、もう一回あると気持ちを切り替える。
(私ならやれる。イメージ、イメージ)
玲子は手に力を込め勢い良くハンドルを回す。回転するくじからすぐに玉が飛び出す。白ではない。その玉は茶色だった。
「おめでとうございます! D賞の商店街限定饅頭です。」
そう言って受付の人から手渡される牛のキャラクターの絵の付いた饅頭を見ながら、玲子は何も言わずに商店街を立ち去った。
意外にも牛が全く関係ない商店街饅頭は餡子がしっかり入っていて美味しかった。
「牛のくせに・・・・・・美味しい」
恨みがましく玲子はパッケージに描かれた牛をじとっとした目で見つめた。
「八百円? 高い・・・・・・」
特大油揚げの紹介には、八百円と油揚げの金額とは思えない額が書かれており玲子は思わず呟いた。
スーパーの物で誤魔化せないだろうか。そんな邪な考えが脳裏に浮かぶが、すぐに相手は縁を結ぶ人間だということを思い出し、考えを振り払った。
縁を結ぶのなら逆もあり得る。良縁を結ぶことが出来る相手が悪縁を結べないとは限らない。下手なことはしないのが吉だ。玲子はそう思いなおして、スマホの案内を頼りに稲穂堂へ向かった。
やや寂れた印象を受ける商店街を通り、稲穂堂へ訪れた時、その盛況ぶりに玲子は目を丸くした。
「行列が出来てる。」
商店街の寂れ具合が嘘のように店は繁盛していて、列が出来ている。出不精な玲子は、身近にここまで人気の店があることを知らなかった。
どうやら、いなり寿司が人気らしく凄い勢いで売れている。豆腐屋だと言うのに豆腐よりもいなり寿司が売れているのは、経営者としては、どういう気持ちなんだろうか。
玲子はそう考えながらも陳列されている商品に目を向ける。豆腐や厚揚げ、いなり寿司などが置かれており、全体的に安価で手頃な価格の印象を受けた。しかし、その中でも異様な存在感を出しているのが、全体の中で一番価格の高い特大油揚げだった。いなり寿司は一貫が百円程度である。にもかかわらず八百円というのは、逆にどんな味なのか気になった。
玲子は自分の財布と相談する。玲子もそこまで裕福という訳ではない。縁結びの女の子と自分の分、合計千六百円は痛い出費である。
(後で経費で香穂から落とそう)
自分の番が来ると玲子は、特大油揚げを二つ買い、ついでにいなり寿司も二つ購入した。
「はい。毎度、ありがとうね。全部で千八百円ね」
愛想の良い年配の老人にそう言われ財布からお金を取り出す。
「二千円で。この油揚げって人気なんですか?」
「まあ、毎日、何枚かは出るね。どっちかっていうと、普通のいなり寿司の方が人気だな。特大の方は高いからなぁ」
そう言って、老人は商品の入った袋とお釣り、そして、四枚のカードを玲子に渡した。カードにはくじ引き券と書かれてあり、商店街で企画している福引の券の様だった。
「二枚で一回引けるからね。一枚サービスしてやるから、ガラガラやってくると良い。」
そう言って老人は、玲子にそう笑いかける。その様子を見ていた周囲の常連客が「すぐ可愛い子に良い顔するんだから」とからかう。
「だから、お前さんらにもサービスしてるだろうが。」
そう言って盛り上がる姿に少し微笑ましさを感じながら、玲子は「ありがとうございます。」と頭を下げてその場を去った。客と店の人との距離の近く親しげで、店主との語らいを求めて客もやってきているのだと感じた。
商品の質も確かに人を寄せ付ける魅力ではあるが、それを販売する人間も魅力の一つである。多少高くても魅力的な人間から買いたいと思ってしまうのも人と人との商いの魅力である。
品揃えや値段の安さを求めるのならスーパーに行けば良い。それでも商店街で個人の店にこれだけ人が集まるのは、それだけの理由があるのだ。
せっかく、好意でくじ引きを貰ったので引いていこうと、くじをやっている商店街の中央の広場にやってくる。それほど、大きなスペースは取っていなかったがかなり張り切ったイベントのようで、飾られた大きなポスターには、A賞からF賞までの景品の写真が載っている。温泉のペアチケットやミシンなどがある中で、玲子の目を引いたのは、ふわふわかき氷機であった。普通のかき氷機と異なり、まるで新雪の様な柔らかなかき氷が作れるという代物で、一時期、ネットで話題に上がりながらも、夏しか使わない。そのうえ普通のかき氷機よりも明らかに高価な品である。自分で買うのは躊躇するが、プレゼントで貰うならそれなりに嬉しい商品である。景品としてもC賞と現実的なレベルであり、夢が膨らむ。
「二回お願いします。」
受付の女性に券を渡し、深呼吸をして、くじを回す。ガラガラと弾ける音を響かせながら回すと勢いよく白い球が飛び出す。受付の女性は、すぐにダンボールから景品を取り出すと玲子に差し出した。
「F賞の商店街限定ハンカチです。」
渡されたのは、商店街のキャラであろう二頭身のキャラクターが小さくプリントされたハンカチだった。牛モチーフのデフォルメされたデザインは、可愛らしいというには無愛想で筋肉質だった。どうやら、人気が出なかった様で背後にいくつもの段ボールに仕舞われたハンカチの山から見ても、間違いなくハズレだった。
落胆する気持ちを抑え、もう一回あると気持ちを切り替える。
(私ならやれる。イメージ、イメージ)
玲子は手に力を込め勢い良くハンドルを回す。回転するくじからすぐに玉が飛び出す。白ではない。その玉は茶色だった。
「おめでとうございます! D賞の商店街限定饅頭です。」
そう言って受付の人から手渡される牛のキャラクターの絵の付いた饅頭を見ながら、玲子は何も言わずに商店街を立ち去った。
意外にも牛が全く関係ない商店街饅頭は餡子がしっかり入っていて美味しかった。
「牛のくせに・・・・・・美味しい」
恨みがましく玲子はパッケージに描かれた牛をじとっとした目で見つめた。
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