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家に帰ると悪魔が必ず客をもてなしています

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 自然豊かな田舎。大きなエコバッグを肩にかけた彼女は、土がむき出しの道を歩いていた。

 昼下がりをとうに過ぎたが夕方ではない時間帯。太陽の位置は徐々に低くなっているが、まだまだ明るい。

 歩き進めると鉄製の装飾で彩られた門が現れ、彼女はそれをくぐった。

 大きい門の先にはカーブを描く道に小石が敷かれ、家まで続いている。道の両脇にはびっしりと生えたクローバーが風で揺れていた。

 家は洋風な造りで白い壁にオレンジの屋根。庭と家は塀で囲われ、塀には蔦が張り付いてる。塀の内側には青々とした葉を茂らせた木が何本も生えていた。

 玄関周りには様々な植物の鉢植えが並べられている。これは祖父母の代から使っている鉢植えたちだ。

 彼女が小さなショルダーバッグから鍵を取り出すと、カチャンという音と共に鍵穴が回転した。

 家の内装も洋式で、木製の床の色には温かみがある。

「おかえり、つばさちゃん」

「ただいま」

 中から現れたのは金髪碧眼の男。喉に引っかかる少し低い声に出迎えられ、彼女────翼は広い玄関でスニーカーを脱いだ。自然に彼が重たいエコバッグを受け取る。

 彼は美しい碧眼を細め、リビングへ案内した。

「今日のお客さんはこちらのお嬢さんだよ」

「え、もう来てるの?」

 この家には突然の来客が多い。その時間は大抵夕方だが、今日はいつもより早い。

 リビングの壁には多くのウォールシェルフ。そこには小さな木箱や、色とりどりの透き通った小瓶にドライフラワーがいけられ飾られている。これも祖父母が生前に作ったもの。翼じゃ名前の分からないものも多くある。

 部屋の中央には木製の丸いテーブルと背もたれつきの丸椅子。テーブルの上では皿に入った苺色のポプリがよい香りを放っている。

 丸椅子の一つには萎縮して座る、制服姿の少女がいた。

 見るからに二人より歳下の彼女。小さな三つ編みを肩の上で揺らし、新たに現れた翼に向かって頭を下げた。

「なんかすみません……」

「いえこちらがごめん……」

 翼は口を手で押さえ、言い方が悪かったと反省した。彼女に”気にしないで”と片方の手を振る。

「いいのいいの。このあk……彼は話好きだからあなたが来てくれて嬉しかったと思うし」

 翼はうつむく少女の前に座った。翼の言葉に男は最もだと言いたげに大きく何度もうなずく。

「そうそう。いつもかわいげのない女と顔を突き合わせているから、今日は天使が来た記念日だな……」

「さっそく依頼人を口説くのやめなさい。高校生相手は社会的にもアウトだぞ」

「こういうところだよ……愛があれば歳の差なんて関係ないよねー」

 男は少女の近くに座って、彼女の横顔に”ねー”と笑いかけた。

「ま、まぁ暗い顔をするのはよしてよ。そうだ、お茶を淹れるわ。それともジュースがいいかしら」

「お茶でお願いします」

「分かった。すぐに淹れるからね」

 もう口説くんじゃないよと男に釘を刺し、翼はリビングとつながっているキッチンに移動した。

 電気ケトルに浄水器を通した水を流し入れ、セットする。その間に棚からガラスのティーポットやほうじ茶の入った筒とお茶のパックを取り出した。





 この家は元々、翼の祖父母が住んでいた。二人が亡くなってからは翼の両親が住んでいるが、今彼らは海外に旅行中である。

 そして翼と言うと、都会での仕事に疲れて休暇をもらいこの田舎に帰ってきた。

 実家からも一人暮らしの都会からも遠いが、ここには昔からよく通っていた。

 道行く人は皆のんびりと自分の時間を過ごし、せかせかと焦ってる人はいない。慌ただしい都会での仕事に携わってきた身としては、彼らの姿に”もっと気を抜いていいんだ”と心がほぐされる。

 あの金髪男はしれっとこの家に暮らしているが、親類でも恋人でもない。

 彼は翼の両親が海外旅行に出かけている間にこの家に住み着き、翼をのパートナーとして任命した。
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