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8章

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 合宿の全行程が終了し、夜叉と和馬は久しぶりに自宅へ帰ってきた。数週間だけ空けていたが家のにおいがひどく懐かしく感じられた。

「合宿の前に冷蔵庫の中を空っぽにしておいたけど、さくらのおかげで慌てて買い物に行かなくて済んだよ」

「あら、そう?」

 夜叉は荷物を詰め込んだキャリーケースと反対側の手に持ったビニール袋を掲げた。こっちにも袋いっぱいに野菜が詰め込まれている。これは帰り際に三森に渡されたものだ。

────あ、まだいるね桜木さん!

────三森先生?

────合宿の間よく農園の手伝いしてくれたでしょ? これ持って帰ってよ。

────おぉー、こんなにいいんですか?

────うん。夏の間はボロボロ収穫できるからいいのいいの。きゅうりなんておばけサイズになっちゃうからどんどん収穫しなきゃなんないの。

────それでは遠慮なく。

 こうして持って帰ってきたのは夏野菜の詰め合わせ。きゅうりやなすやトマトにピーマンにオクラ。そういえば小学生の時に授業で育てた野菜ばかりだなとふと気づく。

 リビングにキャリーケースを置いた和馬は、買って来たペットボトルの麦茶を飲んで一息ついた。夜叉は顔を洗ってきてフェイスタオルで拭っている。毛先を濡らした彼女は首を傾げた。

「晩御飯どうする? 家には調味料と米しかなくね?」

「野菜炒め丼でも作るかな~」

「肉が食いたい」

「野菜こんなにあr」

「肉を食わせろ」

「分かったよ! その代わりさくらも買い物に付き合ってよ。まずは荷ほどきから…」

 夜叉の圧に耐えられずに折れた和馬は苦笑いしながらキャリーケースを広げた。

 まずは洗濯機を動かすところから始めねば。合宿所に洗濯機が設置されているとはいえさすがに昨日着替えた分は洗濯していない。今夜洗濯する分が増える前に2回に分けたいところだ。

「また樫原かしはら君に会いそうだね。夏休みでバイトのシフトたくさん入れてそう」

「そうねー」

 夏休み自体はもうしばらく続く。これからはほぼ自宅で過ごすことになるだろう。

 今回の合宿で少し挑戦した料理をこれからは自宅でもやってみようかという気になってきた。案外自分でもできるものだと自信がついた。あまり難しいことを考えずにもっと早くから取り組めばよかった。

 夜叉は和馬のように広げたキャリーケースのそばにしゃがんで、洗う物を選び始めた。

「夏休みだし、あーちゃんをまた呼んだら?」

「それはどうかな…」

「どして? ケンカでもしたの?」

「それは無い」

「だと思った。あーちゃんはさくらのことが1番好きみたいだもん」

「そうなの?」

 洗濯機に放り込むものをまとめた和馬を見上げると、彼はうなずいて笑った。

「さくらに一直線って感じじゃない。さくらにぴったりだし俺よりも長いこと一緒にいるでしょ」

「そうだっけかな…」

 守ってもらうという名目があるから、というのは当分弟には話せそうにない。いつか話す時が来るのかも今の所謎だ。

「さくらもさ、もっとあーちゃんに目を向けたら? 大事にしてくれる人には感謝しなよ」

「ん…?」

「傍から見ててあーちゃんはさくらのことを宝物みたいに思ってるような気がするんだ。早瀬君が口説こうとした時でさえ前に出るじゃん。ただの友だちにはあんなことしないんじゃないかな」

「はぁ…」

 真面目に語っていたことに気づいた和馬は顔を真っ赤にさせて手を顔の前で振った。

「…ってこれは俺の単なる勘違いかもしれないわ! 頭半分で覚えといて!」

「いや、あんたのは正しい」

 夜叉は目を細めて首を振り、和馬の横に立って肩に手を置いた。

(ずっと守ってもらってたのは真実だから…私はいつの間にかそれを当たり前だと思ってのうのうと暮らしてた。阿修羅にちゃんとありがとうって言わなきゃ)

 また連絡を取ろうかと思ったがそれはやめた。

 彼女は洗濯物のかたまりを洗濯機の中へ放り投げ、電源をつけた。”ちょっと”と、和馬も遅れて洗濯物を運んできた。

(今阿修羅がどうしてんのかは知らないけど…ありがとうくらいちゃんと直接伝えるわ。次会う時はあんたに守られなくても強い私にな…なr…とりあえず自主練するわ!)

 夜叉は勢いよく洗濯機のフタをしめて液体洗剤を取り出した。”壊れるといけないからもっと丁寧に扱って!”と和馬に怒られながら。

「もう…とりあえず洗濯機はセットしたし買い物行くよ!」

「ほーい」

 夜叉は髪をポニーテールにし、エコバッグを持った和馬の後を追った。


Fin.
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