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7章
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黒髪で真っ黒な燕尾服をまとった男が、質素な木製の椅子の上で眉間に指を当てていた。周りには背の高い本棚が部屋の壁を覆うように立ち並び、その中には表紙が紙というより布製で随分古びた本も混ざっている。
男は難しい顔をしているがその顔は彫刻のように整っており美しい。立ち上がると細身の長身が際立ち、腕を組んでできた服のシワさえ計算されたような美しさだ。
「…やはりそれについては申し訳ありません」
「どんだけ請求しても無駄だってことね」
彼の向かい側に座っている金髪の白いワンピースの少女は、仏頂面で鼻をならして顔をそむけた。
「あれは不可抗力ですよ…いたずらな魂が天界の幼稚園からこんなところへ忍び込んでいたなんて予想できませんよ…」
「男なら言い訳するな」
「返す言葉が無い…」
長身の男────死神は、額に手を当ててため息をついた。その計算されていないため息には艶があり、少女────運命の怒りはヒートアップしそうだった。
「あなたが時を越えるのを手伝う代わりに頂いたあの金髪、一体どこの誰が持っていったのやら…。残念ながら皆目見当もつきませんよ。それまでに転生していった魂は数知れず。特定は半永久的に不可能ですね」
「少しは探そうとしなさいよ」
「あだだだだだ」
死神の隣に立った運命は彼の脇腹を怒りに任せてつねった。涙目で体をひねらせながら彼女の顔をのぞきこみ、やっと開放されると”ふ~っ”と息を吐いて額を拭った。
「なぜ急にそれを? 一房の金髪が消えた直後に謝ったでしょう」
「この間、青龍と話していて思い出したのよ」
「青龍さんと? そういえば私は最後にお会いしてから久しいな」
「最近は朱雀の娘を次期頭領にって考えてるそうよ。能力の訓練もさせてるみたい」
「ほぉ。あの舞花花魁の娘さん? 相当美人に育ったんでしょうね。それなのに次期頭領になってしまうのはいささかもったいないように思いますがね」
死神は椅子に座り直し、運命は立ったままあごを上げて腕を組んだ。
「あら。じゃあどうするっての」
「将来、私の元で働くというのはどうでしょう」
「美女に目がないんだから…」
彼女は若干得意げな顔をしている死神のことをにらみつけたが、”最後のは冗談ですよ…”と彼は苦笑いで返した。
運命はお手上げと言わんばかりに両手を上げて首を振った。立ち上がって出入り口へ向かうと死神の方を振り返って片手を挙げた。
「それじゃあ私は天界の幼稚園でものぞいてこようかしらね…」
「えぇ、お気をつけて」
「あっ、ちょっと待って」
彼女は立ち止まってワンピースのポケットからスマホを取り出し、画面を注視したのちに顔を上げた。死神がどうしたのかと聞く前に、彼女は口の端を上げてにんまりと笑った。
「戯人族のとこへ行くわよ! あなたのお目当ての親子もいるわ」
「なんですって?」
死神は腰を浮かしかけ、たった今噂したばかりの2人の話に食いついた。
「相談があるとかで青龍に呼ばれたわ。娘が救いたい人間がいるとかで来てるみたい。魂関係はあんたの専門でしょ?」
「そうですね。それならばすぐに出立しましょう」
死神は妙にやる気を出して笑みを浮かべ、2人そろって部屋を出た。
男は難しい顔をしているがその顔は彫刻のように整っており美しい。立ち上がると細身の長身が際立ち、腕を組んでできた服のシワさえ計算されたような美しさだ。
「…やはりそれについては申し訳ありません」
「どんだけ請求しても無駄だってことね」
彼の向かい側に座っている金髪の白いワンピースの少女は、仏頂面で鼻をならして顔をそむけた。
「あれは不可抗力ですよ…いたずらな魂が天界の幼稚園からこんなところへ忍び込んでいたなんて予想できませんよ…」
「男なら言い訳するな」
「返す言葉が無い…」
長身の男────死神は、額に手を当ててため息をついた。その計算されていないため息には艶があり、少女────運命の怒りはヒートアップしそうだった。
「あなたが時を越えるのを手伝う代わりに頂いたあの金髪、一体どこの誰が持っていったのやら…。残念ながら皆目見当もつきませんよ。それまでに転生していった魂は数知れず。特定は半永久的に不可能ですね」
「少しは探そうとしなさいよ」
「あだだだだだ」
死神の隣に立った運命は彼の脇腹を怒りに任せてつねった。涙目で体をひねらせながら彼女の顔をのぞきこみ、やっと開放されると”ふ~っ”と息を吐いて額を拭った。
「なぜ急にそれを? 一房の金髪が消えた直後に謝ったでしょう」
「この間、青龍と話していて思い出したのよ」
「青龍さんと? そういえば私は最後にお会いしてから久しいな」
「最近は朱雀の娘を次期頭領にって考えてるそうよ。能力の訓練もさせてるみたい」
「ほぉ。あの舞花花魁の娘さん? 相当美人に育ったんでしょうね。それなのに次期頭領になってしまうのはいささかもったいないように思いますがね」
死神は椅子に座り直し、運命は立ったままあごを上げて腕を組んだ。
「あら。じゃあどうするっての」
「将来、私の元で働くというのはどうでしょう」
「美女に目がないんだから…」
彼女は若干得意げな顔をしている死神のことをにらみつけたが、”最後のは冗談ですよ…”と彼は苦笑いで返した。
運命はお手上げと言わんばかりに両手を上げて首を振った。立ち上がって出入り口へ向かうと死神の方を振り返って片手を挙げた。
「それじゃあ私は天界の幼稚園でものぞいてこようかしらね…」
「えぇ、お気をつけて」
「あっ、ちょっと待って」
彼女は立ち止まってワンピースのポケットからスマホを取り出し、画面を注視したのちに顔を上げた。死神がどうしたのかと聞く前に、彼女は口の端を上げてにんまりと笑った。
「戯人族のとこへ行くわよ! あなたのお目当ての親子もいるわ」
「なんですって?」
死神は腰を浮かしかけ、たった今噂したばかりの2人の話に食いついた。
「相談があるとかで青龍に呼ばれたわ。娘が救いたい人間がいるとかで来てるみたい。魂関係はあんたの専門でしょ?」
「そうですね。それならばすぐに出立しましょう」
死神は妙にやる気を出して笑みを浮かべ、2人そろって部屋を出た。
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