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6章

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 夜叉は学校指定の長袖長ズボンのジャージに着替えて農園へ向かった。帽子と軍手も準備している。

 強い日差しの中先に農園で道具を用意していた三森は、”ふーやれやれ”と腕で日差しを遮った。そんな彼女はツバの大きいハットをかぶり腕には長い手袋。顔にはゴツいサングラスをかけている。紫外線対策はバッチリだ。

 学校が所有しているこの農園では季節ごとに様々な野菜を育てており、それを文化祭で売ったり食堂で使っている。

「今日は何をするんですか?」

 首にかけたタオルの両端を持った夜叉が近づくと、三森はサングラスを外した。

「雑草抜いて夏野菜の収穫。収穫したのは合宿所で使っていいよ」

「おーありがとうございます」

 その後は雑草を除去しながら雑談し、時々日陰で休憩を取って作業を進めた。

「ふー暑い…」

「暑いって言ってるともっと暑くなりますよ」

 冷静に返した夜叉は無心に草むしりを続けている。その白い肌は汗がじんわりとにじんでいた。三森は一旦手を止め軍手を外し、首にかけたタオルで額を拭った。

「桜木さんにはここんとこよく手伝ってもらってるけど、全く焼けないね。いい日焼け止め塗ってそう」

「別に普通ですよ? よく皆が使ってるような300円ちょっとで買える+50のヤツです」

「そうなの? それにしても白いよねー。まさに色白美人って感じ」

「母も肌が白いから…。紅の髪が映える人なんです。遺伝かもしれません」

 赤い着物と浅葱色の打掛をまとい、鮮やかな紅の髪をなびかせる舞花。こうして改めて彼女のことを人前で”母”と呼んだのは初めてかもしれない。少し照れ臭かった。

「はへー。桜木さんのお母さんなら相当美人なんだろうね。保護者会の時に会わせてよ」

「いいっすよ…機会があれば…はは……」

(しまった、保護者会に来るのは母さんの方だった!)

 できないことを約束しまい、夜叉は心の中で冷や汗をかいた。これ以上母親について変に聞かれないように、雑草をむしる手のスピードを上げて隣に小さな山を作り上げていく。

 それに感心したらしい三森はサングラスを押し上げ、軍手をはめ直して張り切った。

「早いな~…若いっていいよね。その調子で今日中に終わらせるかー」

 再び雑談をしながらひたすら手を動かす。

 夏休みが始まってすぐに地震があったよねと、三森の家のカメが自信で揺れる直前に突然水槽の中で溺れた話をした。犬も飼っているが犬は特に変わった動きはなく彼女の隣でうとうとしていたらしい。

「ミドリちゃんっていうんだけど桜木さんいらない? 特技は噛みつくことで、ミドリガメだけど甲羅は真っ黒。水槽の掃除をしても1時間で水が汚れます」

「いや、カメはねぇ…てか仮にも飼っているカメになんてこと言うんですか」

「ん? 実を言うと望んで飼ってるわけじゃないのさ。ウチの子どもが学校から帰ってきた時に同時に家に入ってきたのよね…。いらない? 地震の前に役立つよ」

「そんなすごい亀ならむしろ、手放さない方がいいのでは…」

 というか人と同時に家に侵入するカメって何…ともっと詳しく聞いてみたくもなったが、これ以上ミドリガメを押し売りされるのは困る。

「先生、私はありふれたカメよりウミガメの方がいいです」

 キリッと顔を引き締めた夜叉は壮大な夢を語ったが、三森は隣で崩れた。

「飼うの? それこそ無理でしょ! 一般人は飼っちゃいけないの」

「え~やっぱりか~…。あ、金魚もいいな。小赤とか出目金とか…最近ホームセンターのペットコーナーにピンポンパールっていう可愛い丸っこいのを見たんですよ」

「うんうん、そっちの方がいいよ。桜木さんは何か飼っているの?」

「昔、祖父母の家で犬なら。そういえば小学生の頃におたまじゃくしも飼ってたなぁ」

 夜叉は小石で地面におたまじゃくしを描き始めた。丸い胴体に細長い尻尾。上から見たような図だ。ちょっと目を描いたりして可愛い。

「小さい水槽に一匹だけですけど。住んでいるところが割と街だったので、田んぼがあるところに行った時に捕まえたんですよ。パンくずをあげてました」

「おたまじゃくしにー? それ”しょーがない…”って食べてたんじゃないの…」

「そんなことはない! ちみちみ食べてましたもん!」

 そろそろまた休憩を挟むかと2人は水分補給をし、涼しくなった夕方に農園の水やりも一緒にやろうかとホースを指さした。
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