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5章
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晩御飯とその片付けを終え、入浴までのんびりと読書でもしようかと本を開いた時、夜叉は両脇を彦瀬と瑞恵で固められた。
「へ? 何々? もしかしてさっきの秘密とやら?」
何が始まるのだと2人の顔を見ていたが何も答えてもらえず、強制的にグランドへ連れ出された。
そこには合宿に参加している生徒が集結しており、皆一様に何が始まるのか分からないという顔で雑談しているようだ。その中には昴や和馬もいる。
「じゃあ、あーちゃん。やーちゃんのことよろしくね」
「了解しました」
阿修羅は胸に手を当てて軽く頭を下げた。彦瀬と瑞恵は他のクラスの実行委員の元へ走り去り、何も知らされずに残された夜叉は不満げに頬を膨らませて阿修羅の肩に手を置いた。
「ちょっと。阿修羅は何か知ってるワケ?」
「いやその…はい」
「今から何が始まるの?」
「それはちょっと…」
詰め寄ると阿修羅は両手で夜叉を落ち着かせるように押さえたが、彼女は目を細めてじりじりと距離をつめていく。彼は今までに見たことのない焦った表情で後ずさり始めた。
「言わなきゃ阿修羅は人間界で仕事せずに遊びまくってるって青龍さんに言うよ?」
「それは勘弁してください…。それにもうすぐ分かりますから」
「今言ってくれてもいいじゃん。予定より早く帰ってきて合宿に参加したりだまっていることがあるとか、阿修羅らしくないよ」
彼女は膨れっ面のまま腕を組んで阿修羅のことをにらみつけたが、その姿すら阿修羅にとっては可愛くてしかたがないものだ。隠し事のせいで罪悪感があるがありがたく拝ませてもらうことにする。
生徒の輪の外には2年生の担任がそろっており、その中で神崎は退屈そうにあくびをしていた。
やまめも夜叉と阿修羅に合流し、神崎にパシられたのは面倒だったがジュースをおごってもらえたのでまぁいいかなーと満更でもない表情をしている。
『ちゅーもーく。今からー、肝試し大会を始めまーす』
「は?」
神崎とやまめはやっぱりお似合いだよねと夜叉はからかっていたが、拡声器を使って話し始めた実行委員の言葉に耳を疑った。
『まずはぁー、くじ引きでペアを決めて、順番に校舎に入ってもらいまーす。校舎内の電気は一切つけてないので、それぞれスマホのライトを頼りに本館の3階まで登ってください。図書室に箱が置いてあるのでその中から紙切れを回収し、行きとは反対の端っこにある階段を降りて戻ってきてください』
「何々何々知らんよそんなん! 私は不参加だ!」
「やー様、これも学校行事です。せっかくなので参加して楽しみましょう。舞花さんもそれを望んでいると思いますよ」
1人で合宿所に戻ろうとした夜叉を止め、阿修羅は静かに首を振った。
「やだやだ帰ってやる! 舞花だって無理しなくていいって言うと思うもん!」
じたばたと暴れ出した夜叉をなだめて阿修羅は顔を近づけ、指を立てた。目と目の間にしわが寄っている。
「やー様、今戻ったところで合宿所ではお1人です。肝試しより怖い思いをするかもしれませんよ…」
「ひぃっ…!」
目の下にクマを作って凄む阿修羅からは何としてでも夜叉を参加させたいという気迫に満ちていた。凄まれた夜叉は涙目になり、確かに独りぼっちで旧校舎にいる方が不安だ。そういう時こそちょっとした物音にいちいち反応してしまう。
「うぅっ…分かったよ…なんか今日の阿修羅こわ…」
『校舎内には実行委員じゃないけど協力してくれる人がいて、お化け役をやってもらいまーす。今、校舎内で絶賛待機中なのでどんな風におどら…おど…驚かされる? か、お楽しみにー』
「うわぁぁぁん!!」
噛み噛みの司会に笑い声が上がる中、夜叉は気にも留めず涙を跳び散らせて阿修羅にしがみついた。
夏の夜空にちりばめられた星が輝く中、夜叉の鳴き声が駆けた。
「へ? 何々? もしかしてさっきの秘密とやら?」
何が始まるのだと2人の顔を見ていたが何も答えてもらえず、強制的にグランドへ連れ出された。
そこには合宿に参加している生徒が集結しており、皆一様に何が始まるのか分からないという顔で雑談しているようだ。その中には昴や和馬もいる。
「じゃあ、あーちゃん。やーちゃんのことよろしくね」
「了解しました」
阿修羅は胸に手を当てて軽く頭を下げた。彦瀬と瑞恵は他のクラスの実行委員の元へ走り去り、何も知らされずに残された夜叉は不満げに頬を膨らませて阿修羅の肩に手を置いた。
「ちょっと。阿修羅は何か知ってるワケ?」
「いやその…はい」
「今から何が始まるの?」
「それはちょっと…」
詰め寄ると阿修羅は両手で夜叉を落ち着かせるように押さえたが、彼女は目を細めてじりじりと距離をつめていく。彼は今までに見たことのない焦った表情で後ずさり始めた。
「言わなきゃ阿修羅は人間界で仕事せずに遊びまくってるって青龍さんに言うよ?」
「それは勘弁してください…。それにもうすぐ分かりますから」
「今言ってくれてもいいじゃん。予定より早く帰ってきて合宿に参加したりだまっていることがあるとか、阿修羅らしくないよ」
彼女は膨れっ面のまま腕を組んで阿修羅のことをにらみつけたが、その姿すら阿修羅にとっては可愛くてしかたがないものだ。隠し事のせいで罪悪感があるがありがたく拝ませてもらうことにする。
生徒の輪の外には2年生の担任がそろっており、その中で神崎は退屈そうにあくびをしていた。
やまめも夜叉と阿修羅に合流し、神崎にパシられたのは面倒だったがジュースをおごってもらえたのでまぁいいかなーと満更でもない表情をしている。
『ちゅーもーく。今からー、肝試し大会を始めまーす』
「は?」
神崎とやまめはやっぱりお似合いだよねと夜叉はからかっていたが、拡声器を使って話し始めた実行委員の言葉に耳を疑った。
『まずはぁー、くじ引きでペアを決めて、順番に校舎に入ってもらいまーす。校舎内の電気は一切つけてないので、それぞれスマホのライトを頼りに本館の3階まで登ってください。図書室に箱が置いてあるのでその中から紙切れを回収し、行きとは反対の端っこにある階段を降りて戻ってきてください』
「何々何々知らんよそんなん! 私は不参加だ!」
「やー様、これも学校行事です。せっかくなので参加して楽しみましょう。舞花さんもそれを望んでいると思いますよ」
1人で合宿所に戻ろうとした夜叉を止め、阿修羅は静かに首を振った。
「やだやだ帰ってやる! 舞花だって無理しなくていいって言うと思うもん!」
じたばたと暴れ出した夜叉をなだめて阿修羅は顔を近づけ、指を立てた。目と目の間にしわが寄っている。
「やー様、今戻ったところで合宿所ではお1人です。肝試しより怖い思いをするかもしれませんよ…」
「ひぃっ…!」
目の下にクマを作って凄む阿修羅からは何としてでも夜叉を参加させたいという気迫に満ちていた。凄まれた夜叉は涙目になり、確かに独りぼっちで旧校舎にいる方が不安だ。そういう時こそちょっとした物音にいちいち反応してしまう。
「うぅっ…分かったよ…なんか今日の阿修羅こわ…」
『校舎内には実行委員じゃないけど協力してくれる人がいて、お化け役をやってもらいまーす。今、校舎内で絶賛待機中なのでどんな風におどら…おど…驚かされる? か、お楽しみにー』
「うわぁぁぁん!!」
噛み噛みの司会に笑い声が上がる中、夜叉は気にも留めず涙を跳び散らせて阿修羅にしがみついた。
夏の夜空にちりばめられた星が輝く中、夜叉の鳴き声が駆けた。
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