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5章
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本来、阿修羅が参戦する前日に彼は登校した。
他の生徒と比較的少ない荷物で現れ、合宿所に入るなり深々と頭を下げた。
「お久しぶりです、皆さま。お変わりないようで何よりです」
「久しぶりー!」
入り口では夜叉と和馬と神コンビで出迎えた。特に神七と神児は再会を喜んで阿修羅の手を握っている。涙ぐんでいるようにさえ見えた。
2人の背中越しに夜叉は、1つに束ねた髪の毛先をいじりながら首を傾げた。
「それにしても急にどうしたの? 仕事が…あ、えっと用事がそんなに早く片付いたの?」
「…そんなところです」
阿修羅は若干不審に目をそらし荷物を持ち直した。夜叉は特に気にすることは無く、和馬は阿修羅の荷物を持って荷物置き場へ向かった。
その日は午後から夜叉のクラスが長机のある和室に集められ、神崎の元で集会が行われた。相変わらず気楽な格好で、水色のポロシャツのボタンは1つしか留められていない。何枚かのプリントをホチキスで留めたものを生徒に配り、自分も同じものを持って頭をかいた。
「え~…この合宿が始まってから早一週間ほど過ぎたが、これでコンサートや旅行から帰ってきたヤツがいるので今日からが本番だ。羽目を外し過ぎんように楽しんでくれ。あと宿題は計画的にな」
彦瀬が夜叉の隣で顔を青くした。さらにその隣のやまめも。心なしか神崎の最後の一言がこちらに強く向けられていたように思う。
2人の宿題の進度は知らないが予想はついている。おおよそ期待できるものではないだろう。
彦瀬は普段バイトで忙しくてなかなか時間を割けない音ゲーにのめり込み、やまめは日頃授業中にノートに執筆している小説をサイトへ清書している。
「これからいろんな先生がここにみえるから挨拶はしっかりするようにな。差し入れを頂いたらお礼を言うのも忘れんように…って人生の基本だな。それと桜木姉、三森先生が農園に来てほしいって言ってた。以上」
他にも緊急連絡先の確認や、間違っても飲酒や喫煙など見つかったらまずいことはするなよと釘を刺して解散となった。
解散してからも夜叉たちはそこに残ったまま話し続けていた。やまめは持ち込んでいたパソコンを開いて長机の前であぐらをかいたが、そこへ通りかかった神崎に首根っこを掴まれて悲鳴を上げた。
「ふぎゃっ!?」
「お前はここに来てからというものいっつもパソコンをさわっているらしいな。タイピングが得意なら俺の仕事を手伝いに来てくれ」
「嫌だ! 夏休み前で内容が薄い授業ばっかだったから、めっちゃノートに下書きたまってんの!」
「またお前は授業サボってたのか…この際罰として職員室に来いや」
「ああああああ助けてぇぇぇぇぇ」
「そうだ原田。会議はどうだった。今夜のはうまくいきそうか」
手帳は小脇に抱え、やまめを肩に担いだ神崎は去り際に瑞恵の近くで立ち止まった。
前回の会議を指していると察した瑞恵と彦瀬は急に慌てたような仕草で、神崎を追い払おうとした。
「大丈夫ですよぉもう完璧! だからここでは何も言わないでくださいね…本番までは実行委員の秘密ですから…」
「分かった…分かったからその圧のまま顔を近づけんな…」
立ち上がって凄む彦瀬と瑞恵を押し返し、神崎は”じゃあな”と振り返りざまに引きつった頬で片手を挙げて部屋を出た。
「何? 秘密って」
夜叉は長机に対して横向きで座って頬杖をついた。彼女と向き合う形になった瑞恵と彦瀬はお互いの両手を握り合って冷や汗をかいた。
「ん、んーん! なんもないよ…?」
「あっそう? 今夜とか先生が言ってたけど何かやるんじゃないの? 合宿のしおりには書いて無かった気がするけど。もしかしてキャンプファイヤーとか? 」
こういう時に夜叉の謎のポンコツさが発揮されてよかったと、瑞恵と彦瀬はこっそりと目を合わせて小さく息を吐いた。彼女にバレたら今夜の計画は全てムダになってしまう。
「やー様、よろしければこちらの施設を案内して頂けませんか? 旧校舎に入ったのは初めてなので迷わないためにも知っておきたいのです」
「いーよ。ここ意外と広くてたまに何階か分からなくなるしねー」
夜叉は阿修羅と共に立ち上がり、やまめのノートパソコンを閉じて”ついでに職員室に届けてくるかー”と持ち上げた。
「そんじゃちょっくら行ってくるね」
「う、うん、いってらっしゃ~い…」
2人は手を振って見送った。
夜叉について部屋を出る前に阿修羅はこっそりと、2人に向かって親指を立てた。それに返すように彦瀬と瑞恵も意味ありげな笑みで親指を立て返す。まるで3人はグルになって陰謀を企んでいるかのように。
他の生徒と比較的少ない荷物で現れ、合宿所に入るなり深々と頭を下げた。
「お久しぶりです、皆さま。お変わりないようで何よりです」
「久しぶりー!」
入り口では夜叉と和馬と神コンビで出迎えた。特に神七と神児は再会を喜んで阿修羅の手を握っている。涙ぐんでいるようにさえ見えた。
2人の背中越しに夜叉は、1つに束ねた髪の毛先をいじりながら首を傾げた。
「それにしても急にどうしたの? 仕事が…あ、えっと用事がそんなに早く片付いたの?」
「…そんなところです」
阿修羅は若干不審に目をそらし荷物を持ち直した。夜叉は特に気にすることは無く、和馬は阿修羅の荷物を持って荷物置き場へ向かった。
その日は午後から夜叉のクラスが長机のある和室に集められ、神崎の元で集会が行われた。相変わらず気楽な格好で、水色のポロシャツのボタンは1つしか留められていない。何枚かのプリントをホチキスで留めたものを生徒に配り、自分も同じものを持って頭をかいた。
「え~…この合宿が始まってから早一週間ほど過ぎたが、これでコンサートや旅行から帰ってきたヤツがいるので今日からが本番だ。羽目を外し過ぎんように楽しんでくれ。あと宿題は計画的にな」
彦瀬が夜叉の隣で顔を青くした。さらにその隣のやまめも。心なしか神崎の最後の一言がこちらに強く向けられていたように思う。
2人の宿題の進度は知らないが予想はついている。おおよそ期待できるものではないだろう。
彦瀬は普段バイトで忙しくてなかなか時間を割けない音ゲーにのめり込み、やまめは日頃授業中にノートに執筆している小説をサイトへ清書している。
「これからいろんな先生がここにみえるから挨拶はしっかりするようにな。差し入れを頂いたらお礼を言うのも忘れんように…って人生の基本だな。それと桜木姉、三森先生が農園に来てほしいって言ってた。以上」
他にも緊急連絡先の確認や、間違っても飲酒や喫煙など見つかったらまずいことはするなよと釘を刺して解散となった。
解散してからも夜叉たちはそこに残ったまま話し続けていた。やまめは持ち込んでいたパソコンを開いて長机の前であぐらをかいたが、そこへ通りかかった神崎に首根っこを掴まれて悲鳴を上げた。
「ふぎゃっ!?」
「お前はここに来てからというものいっつもパソコンをさわっているらしいな。タイピングが得意なら俺の仕事を手伝いに来てくれ」
「嫌だ! 夏休み前で内容が薄い授業ばっかだったから、めっちゃノートに下書きたまってんの!」
「またお前は授業サボってたのか…この際罰として職員室に来いや」
「ああああああ助けてぇぇぇぇぇ」
「そうだ原田。会議はどうだった。今夜のはうまくいきそうか」
手帳は小脇に抱え、やまめを肩に担いだ神崎は去り際に瑞恵の近くで立ち止まった。
前回の会議を指していると察した瑞恵と彦瀬は急に慌てたような仕草で、神崎を追い払おうとした。
「大丈夫ですよぉもう完璧! だからここでは何も言わないでくださいね…本番までは実行委員の秘密ですから…」
「分かった…分かったからその圧のまま顔を近づけんな…」
立ち上がって凄む彦瀬と瑞恵を押し返し、神崎は”じゃあな”と振り返りざまに引きつった頬で片手を挙げて部屋を出た。
「何? 秘密って」
夜叉は長机に対して横向きで座って頬杖をついた。彼女と向き合う形になった瑞恵と彦瀬はお互いの両手を握り合って冷や汗をかいた。
「ん、んーん! なんもないよ…?」
「あっそう? 今夜とか先生が言ってたけど何かやるんじゃないの? 合宿のしおりには書いて無かった気がするけど。もしかしてキャンプファイヤーとか? 」
こういう時に夜叉の謎のポンコツさが発揮されてよかったと、瑞恵と彦瀬はこっそりと目を合わせて小さく息を吐いた。彼女にバレたら今夜の計画は全てムダになってしまう。
「やー様、よろしければこちらの施設を案内して頂けませんか? 旧校舎に入ったのは初めてなので迷わないためにも知っておきたいのです」
「いーよ。ここ意外と広くてたまに何階か分からなくなるしねー」
夜叉は阿修羅と共に立ち上がり、やまめのノートパソコンを閉じて”ついでに職員室に届けてくるかー”と持ち上げた。
「そんじゃちょっくら行ってくるね」
「う、うん、いってらっしゃ~い…」
2人は手を振って見送った。
夜叉について部屋を出る前に阿修羅はこっそりと、2人に向かって親指を立てた。それに返すように彦瀬と瑞恵も意味ありげな笑みで親指を立て返す。まるで3人はグルになって陰謀を企んでいるかのように。
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