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4章

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 あの後特に住吉について言及することはなく解散し、自由に過ごせる部屋の1つに和馬と昴の姿を見つけた。

「おっすやーちゃん」

「うーっす」

 アコースティックギターを手にあぐらをかいている昴に、夜叉は軽く手を挙げて和馬の隣に座った。

 畳の部屋に足の短い長机が三列ほど置かれた部屋がいくつかある。クラスごとに分けられているというわけではないので生徒は自由に、仲がいい者同士で好きな部屋を使っている。

 昴と和馬以外にも生徒は何人かおり、それぞれ自由にゲームで遊んだりボードゲームやカードゲームを繰り広げていた。

 和馬の手元をのぞきこむと彼は英語の夏休みのワークに取り組んでいた。夜叉は正座をして頬杖をつき、窓から吹き込む風を浴びてぼやいた。

「宿題か。私も持ってこようかな…」

「そうしなよ。早く終わらせよ」

「おっ。そしたら俺の分ついでにやってくんない? それか写させて」

「こらバンドマン。学生なんだからバンド活動と勉学を両立させな」

 力なく返事をした昴は不満げな表情で、ギターで柔らかな音色を奏で始めた。夜叉たちが路上ライブを見に行った時には見たことのないギターだ。聞けば今は曲作り中で次はささやかなバラードを目指しているのだとか。

「普段おとなしいコが明るく笑ってるとそのギャップにやられそうじゃん? そんな感じの曲に仕上げたいんだよね」

「早瀬はアーティストなんだなぁ…。楽器とは無縁だから曲を作る題材とか思い浮かぶ理屈が分かんない」

「楽しみにしてるよ。…でもネタバレしちゃって大丈夫なの?」

「うん、もうそれっぽい告知はしているからさ。してなくても和馬とやーちゃんだったら構わんぜ」

 昴は得意げに鼻を鳴らした。和馬は苦笑い、夜叉は”はいはい”と軽く受け流す。

 それから夜叉も夏休みのワークと筆記用具を持って来て和馬の隣に並んだ。2人の前に長机を挟んであぐらをかく昴は、小さく音を鳴らしながらノートに時々書き込んだ。

 学校の自販機で買って来たであろう紙パックのジュースを和馬が飲みながら、問題を二度見してジュースを机に置いた。

「何々…”アレックスはギターを弾きながら私にほほえみかけました”…ってイケメンじゃん!」

「じゃあ俺が再現するわ」

 問題文を読み上げた和馬に反応して昴が軽く弦を爪弾き、2人に向かって片目を閉じてみせた。他に女子がいたらキャーと色めくところだろうが2人はあいにくそういった属性は持ち合わせていない。

 しかし近くにいた女子の群れがこっそりと見ていたのか、口元を手で押さえながら顔を見合わせて興奮気味に机を叩いている。

「やーちゃんにもあれくらいドキドキしてほしいんだけどな~」

「それはないね」

「あーちゃんがいない間にめっちゃアピったろうと思ってたのに…」

「その阿修羅はもうすぐ参戦だよ」

 その名前に昴の顔が少し青くなった。夜叉に近づこうとするたびに彼女を守るように立ちはだかる白いリボンのおさげ。彼もやまめのように合宿は途中参加だ。

 ただし彼の場合、男のなので入浴問題が厄介である。どうするのかは聞いていない。

「あーちゃんも家の用事とかで途中参戦なの?」

「まぁそんなところみたい」

 夏休みが始まったら少しだけ戯人族のに帰ってちょっとした仕事をすると、夏休み前に聞いた。夜叉も行くべきかと聞いたら、合宿が終わってからでいいと言われた。戯人族のにいる舞花がそれを望んでいるらしい。合宿を楽しんでからでいい、と。

(あぁいうのが母親らしいって言うのかな)

 夜叉は数学のワークに飽きて国語のワークにシフトチェンジした。手を止めたついでにシャーペンの芯も補充しておく。

 舞花と常に共にいなくなってから数か月経つ。そろそろ実の娘に会いたいものだろう…なんて考えたら自分はめちゃくちゃ愛されていると思い込んでいるのではないかと恥ずかしくなった。

 もしも…もし仮に舞花がそう考えていたとして、夜叉がこちらの世界での行事を楽しむことを優先していたら親としての愛情なのかなと心にじんわりとあたたかさが広がった。

 昴のギターの音色が心地いい。気温は高いが立地のせいで日差しはそれほどきつくなく、窓からの風は少し冷たくて気持ちがよかった。
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