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2章
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織原結城は藍栄高校の喧嘩屋であり守護神であり、三大美人でもある。小柄ではあるが凛々しい顔つきに恐れられることもあり、一匹狼のような存在に思われていた。
実は夜叉は彼女とある事件がきっかけで交流が始まり今に至る。
夏休みが近くなり下校の時間も早くなった。夜叉は授業後に結城を誘って中庭の木陰に座って話していた。
結城は彼女の話を聞いて思案顔になり、あぐらをかいた足に手を置いた。足を横に崩して座る夜叉と違い、なんとも勇ましい姿である。
「…日奈子か。やーさんも知ってるとは思うがあれは病弱だ。出席日数は足りているが突然休むこともある。読書が好きで本が唯一の友だちだったこともあったらしい。今でも図書室によくいるし…そもそも図書委員だしな」
「それなら私も見たことある」
「そうか。だがそれ以外で何をしているのかは私も知らん。まして彼氏がいるかなんてさっぱり」
「まぁそうだよね…」
薄々予想していた答えに夜叉は半笑いで頬をかき、明後日の方向を見つめた。一体誰が日奈子と智が付き合っているんじゃないか説を提唱したのだろう。
「そもそも私は日奈子と内村が話しているところなんて見たことがない。あ、でも…」
「ん?」
「2人は同じ中学出身だったはずだ。接点は無くはないだろうな」
「ほぉ…」
つい目を細めて口の両端を上げてしまった。実は2人の件について気になっていたのだと我ながら呆れたが、正直楽しくなってきていた。このままいろいろ調べ上げたくもなっている。しかしむやみやたらと人に話すつもりだけはない。
口元を隠すように手で覆っている夜叉のことを一瞥してから、結城は太陽を見上げてまぶしさに目を細めた。太陽を隠すように上げた手には黒のフィンガーカットグローブ。
「それにしてもやーさんがこうして首を突っこむのは珍しいな。私と響高に行った以来か」
「…そうかもね」
余計なことを思い出しそうで夜叉は頭を振った。
彼女は足を投げ出して後ろに手をつき、結城の真似をして空を見上げる。今日も暑い。空にはもくもくとした入道雲が一ヶ所にかたまっている。空の青さと雲の白のコントラストが夏らしくて美しい。
「あっ、ねぇ結城は合宿行く? 確か香取っちたちと同じクラスだったよね」
「行くよ、特に行かない理由も無いから。同じクラスだからやーさんたちとは同じ日程だ」
「だよね、よろしくー」
結城のクラスでも着々と準備が進められており、予定よりも早く担任に計画を提出できたらしい。彼女のクラスでは合宿の代表ではなく実行委員として複数人でチームを組んでいる。既に当日の具体的な予定表も組み始めた。
「普段料理なんて滅多にしないから人任せになる予感しかしない…」
「この際料理を覚えたらどうだ? できて損はないと思うぞ」
「まぁそうなんだけどさ…」
舞花と似たようなことを話すな…とさりげなく目をそらした。気が向かないことはあまり取り組みたくない。しかしいつまでもそうは言ってられないのでこの夏にやってみるか…と少しだけ思い立った。
「料理と言えば日奈子はあぁ見えてお菓子作りが得意で、家庭科で作ったお菓子は誰からもおいしいって言われて奪い合いになりかけたこともあるらしい。日奈子のことを知りたいならそういうのをきっかけに話しかけてみるのもいいんじゃないか? やーさんが何を企んでいるのかは知らんけど…」
「あー、うん。そうね…」
ただ単に日奈子と智は本当に付き合っているのかが気になって首をつっこみたくなっただけである。というのは口に出せず、お腹も空いたことだし帰るかと解散した。
夜叉は1人帰路につき、にじむ汗をタオルで拭いながら今日の昼ご飯のことを考えた。和馬も下校したばかりだろうから手軽なチャーハンかもしれない。
アスファルトの照り返しに目を細めながら一体この夏はどうなるんだろうと考えた。制服の襟が汗で張り付き、それをつまんであおぐ。早く家に帰って冷たい麦茶が飲みたい。
実は夜叉は彼女とある事件がきっかけで交流が始まり今に至る。
夏休みが近くなり下校の時間も早くなった。夜叉は授業後に結城を誘って中庭の木陰に座って話していた。
結城は彼女の話を聞いて思案顔になり、あぐらをかいた足に手を置いた。足を横に崩して座る夜叉と違い、なんとも勇ましい姿である。
「…日奈子か。やーさんも知ってるとは思うがあれは病弱だ。出席日数は足りているが突然休むこともある。読書が好きで本が唯一の友だちだったこともあったらしい。今でも図書室によくいるし…そもそも図書委員だしな」
「それなら私も見たことある」
「そうか。だがそれ以外で何をしているのかは私も知らん。まして彼氏がいるかなんてさっぱり」
「まぁそうだよね…」
薄々予想していた答えに夜叉は半笑いで頬をかき、明後日の方向を見つめた。一体誰が日奈子と智が付き合っているんじゃないか説を提唱したのだろう。
「そもそも私は日奈子と内村が話しているところなんて見たことがない。あ、でも…」
「ん?」
「2人は同じ中学出身だったはずだ。接点は無くはないだろうな」
「ほぉ…」
つい目を細めて口の両端を上げてしまった。実は2人の件について気になっていたのだと我ながら呆れたが、正直楽しくなってきていた。このままいろいろ調べ上げたくもなっている。しかしむやみやたらと人に話すつもりだけはない。
口元を隠すように手で覆っている夜叉のことを一瞥してから、結城は太陽を見上げてまぶしさに目を細めた。太陽を隠すように上げた手には黒のフィンガーカットグローブ。
「それにしてもやーさんがこうして首を突っこむのは珍しいな。私と響高に行った以来か」
「…そうかもね」
余計なことを思い出しそうで夜叉は頭を振った。
彼女は足を投げ出して後ろに手をつき、結城の真似をして空を見上げる。今日も暑い。空にはもくもくとした入道雲が一ヶ所にかたまっている。空の青さと雲の白のコントラストが夏らしくて美しい。
「あっ、ねぇ結城は合宿行く? 確か香取っちたちと同じクラスだったよね」
「行くよ、特に行かない理由も無いから。同じクラスだからやーさんたちとは同じ日程だ」
「だよね、よろしくー」
結城のクラスでも着々と準備が進められており、予定よりも早く担任に計画を提出できたらしい。彼女のクラスでは合宿の代表ではなく実行委員として複数人でチームを組んでいる。既に当日の具体的な予定表も組み始めた。
「普段料理なんて滅多にしないから人任せになる予感しかしない…」
「この際料理を覚えたらどうだ? できて損はないと思うぞ」
「まぁそうなんだけどさ…」
舞花と似たようなことを話すな…とさりげなく目をそらした。気が向かないことはあまり取り組みたくない。しかしいつまでもそうは言ってられないのでこの夏にやってみるか…と少しだけ思い立った。
「料理と言えば日奈子はあぁ見えてお菓子作りが得意で、家庭科で作ったお菓子は誰からもおいしいって言われて奪い合いになりかけたこともあるらしい。日奈子のことを知りたいならそういうのをきっかけに話しかけてみるのもいいんじゃないか? やーさんが何を企んでいるのかは知らんけど…」
「あー、うん。そうね…」
ただ単に日奈子と智は本当に付き合っているのかが気になって首をつっこみたくなっただけである。というのは口に出せず、お腹も空いたことだし帰るかと解散した。
夜叉は1人帰路につき、にじむ汗をタオルで拭いながら今日の昼ご飯のことを考えた。和馬も下校したばかりだろうから手軽なチャーハンかもしれない。
アスファルトの照り返しに目を細めながら一体この夏はどうなるんだろうと考えた。制服の襟が汗で張り付き、それをつまんであおぐ。早く家に帰って冷たい麦茶が飲みたい。
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