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1章
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週末、麓は自室でずっと勉強をしていた。テストは来週だから気が抜けない。集中していたら急に自室のドアをノックされる音がした。
「麓様。お昼ご飯が出来上がりました。キリのいい所で食堂にいらして下さい」
「はーい」
寮長の声だ。麓はシャーペンを置いて思いっきり伸びをし、肩を叩いた。肩が凝ってきたようだ。
もうそんな時間か、と思って時計を見ると時刻は12時近く。時間を意識したらお腹が空いてきた。
食堂へ行くと、麓以外がすでにそろっていた。
彼女は決まった席────凪の前に座る。
「本日はクリームパスタでございますよ~」
寮長がお盆でそれを運びながら告げた。目の前に置かれたそれは湯気が上がっており、それに目が釘付けになった。
手を合わせてからフォークを手に取り、パスタを絡めて口に運ぶと、寮長がニコニコとした。
「麓様はお勉強熱心でいらっしゃるのですね。廊下の掃除をしている時、あなた様からの部屋からは何も聞こえませんでした」
「ありがとうございます」
麓がはにかむと、前で凪が憎まれ口を叩く。
「物音1つしなかったっつーのは寝てたんじゃねェの? あるいはずっと本を読ん…」
左肘をついたまま話す凪の眼前を、とある物が鋭く一瞬で通り過ぎていった。前髪がかすかにフワリと浮き上がる。
その投げられた物は確かめなくても反射的にすぐわかった。
投げたのはそれをいつも身につけている彼女しかいない。
その彼女────寮長は、氷のほほえみを浮かべている。
「麓様は真面目でいらっしゃるのですから、そのようなことはありえませんわ…。不真面目なことをするのはあなたの方でしょう? 凪様。それと食事中に肘をつかない!」
「チッ…。悪かったな、勤勉な学生じゃなくて。ついでに行儀悪くて」
彼を舌打ちしつつそっぽを向いた。いつもの光景に焔が笑う。
「相変わらずっスね、2人とも。でも寮長は実際に刺突したことないよね」
「それはもちろんですわ。さすがにマズイでしょう。この学園始まって以来最強と名高い精霊を、か弱い乙女がヘアピン1本で仕留めてしまうなんて」
ホホホ…と笑う寮長の表情は本気とも冗談とも受け取れるものだった。
昼ごはんが終わると麓は食堂で教科書とノートを開いた。科目は家庭科。隣に座っているのは寮長だ。
家庭の重要ポイントがいまいち分からない、と昼ごはんの時にぼやいたら、寮長が申し出をしてくれた。
常に家事をしている彼女だから、やはりポイントをすぐに見抜いてノートまとめを手伝ってくれた。
「基本はやっぱり太字でございましょう」
「なるほど~…」
「太字が大事なのは他の教科でも言えますわ」
寮長は教科書の文章の途中にある太字を、トントンと指で叩く。毎日欠かさず水仕事をしているわりには、カサついておらず滑らかな指だ。
それが気になって麓は思わず口を開いた。
「寮長さんは何か、お手入れをなさっているんですか?」
「え? 何がです?」
「手のことです。キレイだなーと思って」
「そうでございますか? 特に何もしておりませんが…」
寮長は不思議そうに自分の手をひっくり返して見る。
彼女は立ち上がって近くの椅子にかけておいたエプロンに身につけた。次の仕事に移るらしい、と思ったら。
「麓様、後ほどおやつでも作りましょう。頭を働かせている時は甘い物が欲しくなるでしょう?」
「は…はい!」
「麓様。お昼ご飯が出来上がりました。キリのいい所で食堂にいらして下さい」
「はーい」
寮長の声だ。麓はシャーペンを置いて思いっきり伸びをし、肩を叩いた。肩が凝ってきたようだ。
もうそんな時間か、と思って時計を見ると時刻は12時近く。時間を意識したらお腹が空いてきた。
食堂へ行くと、麓以外がすでにそろっていた。
彼女は決まった席────凪の前に座る。
「本日はクリームパスタでございますよ~」
寮長がお盆でそれを運びながら告げた。目の前に置かれたそれは湯気が上がっており、それに目が釘付けになった。
手を合わせてからフォークを手に取り、パスタを絡めて口に運ぶと、寮長がニコニコとした。
「麓様はお勉強熱心でいらっしゃるのですね。廊下の掃除をしている時、あなた様からの部屋からは何も聞こえませんでした」
「ありがとうございます」
麓がはにかむと、前で凪が憎まれ口を叩く。
「物音1つしなかったっつーのは寝てたんじゃねェの? あるいはずっと本を読ん…」
左肘をついたまま話す凪の眼前を、とある物が鋭く一瞬で通り過ぎていった。前髪がかすかにフワリと浮き上がる。
その投げられた物は確かめなくても反射的にすぐわかった。
投げたのはそれをいつも身につけている彼女しかいない。
その彼女────寮長は、氷のほほえみを浮かべている。
「麓様は真面目でいらっしゃるのですから、そのようなことはありえませんわ…。不真面目なことをするのはあなたの方でしょう? 凪様。それと食事中に肘をつかない!」
「チッ…。悪かったな、勤勉な学生じゃなくて。ついでに行儀悪くて」
彼を舌打ちしつつそっぽを向いた。いつもの光景に焔が笑う。
「相変わらずっスね、2人とも。でも寮長は実際に刺突したことないよね」
「それはもちろんですわ。さすがにマズイでしょう。この学園始まって以来最強と名高い精霊を、か弱い乙女がヘアピン1本で仕留めてしまうなんて」
ホホホ…と笑う寮長の表情は本気とも冗談とも受け取れるものだった。
昼ごはんが終わると麓は食堂で教科書とノートを開いた。科目は家庭科。隣に座っているのは寮長だ。
家庭の重要ポイントがいまいち分からない、と昼ごはんの時にぼやいたら、寮長が申し出をしてくれた。
常に家事をしている彼女だから、やはりポイントをすぐに見抜いてノートまとめを手伝ってくれた。
「基本はやっぱり太字でございましょう」
「なるほど~…」
「太字が大事なのは他の教科でも言えますわ」
寮長は教科書の文章の途中にある太字を、トントンと指で叩く。毎日欠かさず水仕事をしているわりには、カサついておらず滑らかな指だ。
それが気になって麓は思わず口を開いた。
「寮長さんは何か、お手入れをなさっているんですか?」
「え? 何がです?」
「手のことです。キレイだなーと思って」
「そうでございますか? 特に何もしておりませんが…」
寮長は不思議そうに自分の手をひっくり返して見る。
彼女は立ち上がって近くの椅子にかけておいたエプロンに身につけた。次の仕事に移るらしい、と思ったら。
「麓様、後ほどおやつでも作りましょう。頭を働かせている時は甘い物が欲しくなるでしょう?」
「は…はい!」
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