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1章
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「舞風扇!」
扇は銀箔が散りばめられた扇を軽く仰いだ。
たったそれだけで強風が吹き荒び、黒装束に身を包んだ賊たちは簡単に舞い上がる。各々の手にはクナイ。
風が止み、賊が空中で一瞬止まったかと思うと、今度は急に落下してきた。
「────凪!」
そう呼ばれた青年は手にしている刀を目線に合わせ、鞘からゆっくり引き抜く。
賊が一斉に落ちてくるのを見計らい、疾風のごとく走って峰打ちをくらわせる。
気絶させるながら人数を数えると14人。下ひとケタが忌み数字なのはヤツらが忌むべき相手だからか。
彼は息を乱すことなく終え、刀を収めた。
それは一瞬の内に左腕の金色のブレスレットに早変わりする。
扇も同じようにし、まくり上げていたスーツの袖を戻しながら、同期の中で最強と名高い、制服の男の元へ歩み寄った。
「海竜剣はいつ見てもかっけーな…。これぞ侍って感じがするわ」
「そりゃどーも」
凪はそっけなく返し、自分たちの寮に向かって歩き始めた。さっきまでの戦闘はもう頭の中にないかのような落ち着いた足取り。扇は彼の後を追う。
「しばらく見なかったのに久しぶりに来たな。これこそ"天災は忘れた頃にやってくる"ってか」
「四字熟語に忠実なんだろうよ、あちらさんは」
あちらさん────天災地変からこの学園や精霊たちを守るのが彼ら。風紀委員兼天神地祇。
「悪ぃな扇。手伝ってもらって」
「いいよ。そんなに能力を使ったわけじゃないし。…ほら、もういない。天災地変の下っ端の雑魚だったってことだ。チョロいチョロい」
扇は後方をあごでしゃくった。さっきまで賊が仰向けになって倒れていた場所は誰もいなくなっていた。
残っているのは扇の武器化身、「舞風扇」で散った桜の青葉。
「いつの間に回収されてんだ…」
「ホントそれな。さ、早く帰ろう」
「あぁ。…もしかして忙しかったか?」
「いや、大丈夫。テストは作り終わってるから」
「11年の数学のテストってどんなの? メンドい公式は出してくんねーと嬉しいけど」
寮に戻る道中、凪は数学教師である扇に今度のテストについて探りを入れていた。
扇はしばらく考えるフリをしてからニヤリと笑った。
「出しますー。残念でしたー。だから頑張って勉強するんだぞ☆」
「かわいくねェキモい」
ウインクしつつ舌をちろっと見せた扇に、凪はばっさりと言葉の刃で斬った。
冷たい態度に扇は瞳を潤ませて胸の前に拳を持ってくる。
「ひどい…そこまで言わなくても…。扇先生泣いちゃっていいかな」
「で。何が出んだ?」
「教えまっせーん。こんな無愛想な生徒に教える義理なんてありまっせーん」
「…チッ。だったらどんな生徒にだったら教えんだ?」
「もちろん麓ちゃん!」
「…言うと思った」
急に瞳を輝かせて明るい声になった扇。予想通りの反応に凪はため息をつく。だが扇は顔の前で人差し指を振った。
「でも勘違いすんなよ? いくらあのコでも簡単には! 教えられないな。1つ、条件がある」
「ふ~ん…?」
意外な答えに凪は片眉を上げた。もっと普通にサラッと教えそうだと思っていた。
だからなのか、凪はついつい聞いてしまった。
「条件ってなんだよ。仕事手伝えとか?」
「そんなことじゃない────」
扇はもったいぶるように首をふっくりと振り、声と表情だけは爽やかに言った。
「俺とちょっといいことしてくれれば────」
「結局そういえことかこンのセクハラ教師ィ!」
凪は先程収めたばかりの海竜剣を再び抜刀し、脱兎のごとく慌てて逃げ出した扇の後を突風に似た勢いで追った。
扇は銀箔が散りばめられた扇を軽く仰いだ。
たったそれだけで強風が吹き荒び、黒装束に身を包んだ賊たちは簡単に舞い上がる。各々の手にはクナイ。
風が止み、賊が空中で一瞬止まったかと思うと、今度は急に落下してきた。
「────凪!」
そう呼ばれた青年は手にしている刀を目線に合わせ、鞘からゆっくり引き抜く。
賊が一斉に落ちてくるのを見計らい、疾風のごとく走って峰打ちをくらわせる。
気絶させるながら人数を数えると14人。下ひとケタが忌み数字なのはヤツらが忌むべき相手だからか。
彼は息を乱すことなく終え、刀を収めた。
それは一瞬の内に左腕の金色のブレスレットに早変わりする。
扇も同じようにし、まくり上げていたスーツの袖を戻しながら、同期の中で最強と名高い、制服の男の元へ歩み寄った。
「海竜剣はいつ見てもかっけーな…。これぞ侍って感じがするわ」
「そりゃどーも」
凪はそっけなく返し、自分たちの寮に向かって歩き始めた。さっきまでの戦闘はもう頭の中にないかのような落ち着いた足取り。扇は彼の後を追う。
「しばらく見なかったのに久しぶりに来たな。これこそ"天災は忘れた頃にやってくる"ってか」
「四字熟語に忠実なんだろうよ、あちらさんは」
あちらさん────天災地変からこの学園や精霊たちを守るのが彼ら。風紀委員兼天神地祇。
「悪ぃな扇。手伝ってもらって」
「いいよ。そんなに能力を使ったわけじゃないし。…ほら、もういない。天災地変の下っ端の雑魚だったってことだ。チョロいチョロい」
扇は後方をあごでしゃくった。さっきまで賊が仰向けになって倒れていた場所は誰もいなくなっていた。
残っているのは扇の武器化身、「舞風扇」で散った桜の青葉。
「いつの間に回収されてんだ…」
「ホントそれな。さ、早く帰ろう」
「あぁ。…もしかして忙しかったか?」
「いや、大丈夫。テストは作り終わってるから」
「11年の数学のテストってどんなの? メンドい公式は出してくんねーと嬉しいけど」
寮に戻る道中、凪は数学教師である扇に今度のテストについて探りを入れていた。
扇はしばらく考えるフリをしてからニヤリと笑った。
「出しますー。残念でしたー。だから頑張って勉強するんだぞ☆」
「かわいくねェキモい」
ウインクしつつ舌をちろっと見せた扇に、凪はばっさりと言葉の刃で斬った。
冷たい態度に扇は瞳を潤ませて胸の前に拳を持ってくる。
「ひどい…そこまで言わなくても…。扇先生泣いちゃっていいかな」
「で。何が出んだ?」
「教えまっせーん。こんな無愛想な生徒に教える義理なんてありまっせーん」
「…チッ。だったらどんな生徒にだったら教えんだ?」
「もちろん麓ちゃん!」
「…言うと思った」
急に瞳を輝かせて明るい声になった扇。予想通りの反応に凪はため息をつく。だが扇は顔の前で人差し指を振った。
「でも勘違いすんなよ? いくらあのコでも簡単には! 教えられないな。1つ、条件がある」
「ふ~ん…?」
意外な答えに凪は片眉を上げた。もっと普通にサラッと教えそうだと思っていた。
だからなのか、凪はついつい聞いてしまった。
「条件ってなんだよ。仕事手伝えとか?」
「そんなことじゃない────」
扇はもったいぶるように首をふっくりと振り、声と表情だけは爽やかに言った。
「俺とちょっといいことしてくれれば────」
「結局そういえことかこンのセクハラ教師ィ!」
凪は先程収めたばかりの海竜剣を再び抜刀し、脱兎のごとく慌てて逃げ出した扇の後を突風に似た勢いで追った。
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