Eternal dear6

堂宮ツキ乃

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4章

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 昼食の後、2人はフラフラと橋駅付近を散策していた。

 凪は用事だけ済ませてさっさと帰る、ではないらしく、まだ予約したケーキなどを取りに行こうとしない。

 麓もせっかく橋駅に来たのだから、ゆっくりといろんな店を回りたいと思っていたのでちょうどいい。

 ふと、ショーウインドーにアクセサリーが飾られている店を見つけた。

「わ…綺麗」

 つい見とれて、麓はショーウインドーの中をのぞきこんだ。彼女に会わせて凪も立ち止まる。

「ジュエリーショップか」

「はい」

 見入っていると、いいことを思いついた。目の前の指輪はシルバーでシンプルな作りだが、凪に似合いそうだ。拳を握ったり、海竜剣を使いこなす、頑丈で美しい手。

 これまで凪には、(彼は頑なに認めないが)何度かプレゼントをしてもらったり、奢ってもらったり、何かとお世話になっている。

「凪さんはアクセサリーに興味はありますか?」

「は? なんでいきなり」

 そこで今までのお返しをしようと思った、という経緯を話したが、彼は厳しい顔で首を横に振った。

「いい。そういうの、いいから。っつーか見ろ、値段を。おめーの今の所持金飛ぶぞ」

「あ、ホントだ…」

「若いモンがあんま高いモンに手ェ出すな。もうちょい年取って、自分で稼げるようになってから買いな…って、そもそもこれは結婚する人間たちが買うものだけどな」

「結婚する人間が?」

 よくよく店内に見ると、カップルが肩を寄せ合ってショーケースをのぞいていたり、店員と向かい合って座って指輪の試着をしていた。

「婚約指輪とか結婚指輪とか…。なんなら、恋人になった男に買ってもらいな」

 遠回しにお返しのことは断られた。

 自分たちの間柄を考えたら、指輪なんて特別なものはありえない。

 ごめんなさい、と麓は小さく謝った。



 その後の時間はあっという間に過ぎていくようだった。

 ウインドーショッピングをしておやつを食べて、他愛のない会話をして。

 あれ以来気まずい雰囲気になることはなく、傍からみたらあっさりとした付き合いにカップルのようだった。

 凪はホットコーヒー、麓はタピオカミルクティー。その後は予約した商品を受け取りに行った。

 その間に空は濃紺色に変わっていく。2人は広小路を歩いて市電乗り場に向かいながら、駅の向こう側を見やった。

「日が暮れてだいぶ寒くなってきましたね」

 麓は午後は外していた手袋を再び身に着けた。凪はダッフルコートのポケットに片手を突っ込み、マフラーをゆるく巻いていた。

「風邪引く前にさっさと帰ろうぜ。アイツらも腹空かせて待ってるだろうし」

「はい」

「あり? 麓? 麓じゃん!」

 徐々にテンションが上がっていく声に麓は振り向いた。そこには、しばらくぶりの懐かしい顔があった。嬉しくて麓の顔は綻んでいく。

ひなさん!」

「久しぶりだね、元気にしてた?」

「はい! 雛さんもお元気そうで何よりです。髪を伸ばされたんですね」

「うん。どうかな?」

 嵐の陸上部の先輩は肩に大きなトートバッグをかけ、肩先まで伸ばした髪をさらっと手で払って見せた。

 雛は今年の三月に学び舎を巣立った。卒業前に大学の推薦入試で合格を勝ち取っており、今は大学に通っている。大学でも陸上部に所属し、人間の友人も多くできて毎日が充実して楽しい、と彼女は話した。今は大学は冬休みだ。

 彼女は八百万学園にいた時から変わらない、明るく快活な声で笑った。

「…で」

 急に笑いを静めると、雛は麓の細い肩をガシッとつかんだ。麓の肩がビクッとはねる。

「クリスマスにこんな所でどうしたのさ!? しかも凪先輩と2人っきりで!」

 最後の言葉を強調させた雛の目は、好奇心に輝いている。麓は若干、身を退きながら答えた。

「どうもこうも…クリスマスパーティーの買い出し来ただけですよ」

「えー? デートじゃないんですか凪先輩!!」

 雛が突然凪に話を振り、彼は驚いて咳き込んだ。彼は麓から離れた場所で待っていた。

「なんで俺に話を振るんだよ…大体よォ、学年はおめーの方が上だったじゃねェか。別に先輩なんて呼称、つけんでも」

「卒業したら学年も何もありません。歳の方が大事ですよ」

 2人は過去に同じクラスになったことがある。当たり前かもしれないが。

 凪は落ち着き払った声で頭をかいて、荷物を持ち直した。

「デートなわけねェだろーが。ただの買い出しだ買い出し…って、なんだその顔は。つまんねーなーって顔に書いてあるぞ」

「やー、だって男女2人でクリスマスに出歩いてるなんて、カップルしかいないでしょ! なのにあんたら2人は…」

「ただの同じ風紀委員だけど?」

「本当に~? 実は2人だけで過ごすんじゃないんですか? 性なるよr…」

「黙っとけダチョウ女」

 凪は雛の額をはたいて黙らせた。扇や霞相手と違って力を抜いている。

「うわ! 久しぶりにきましたね。あんま嬉しくないニックネームですけど…」

「足が速いのを褒めてんだ。ありがたく思いなー」

 冗談交じりに凪はおどけてみせた。雛と仲がいいんだ、彼と共通の友人であったことに麓は少しだけ嬉しくなった。

「…ま、ダチョウ女は勉強も部活もがんばってますよコノヤロー」

 雛は腰に手を当て、得意げに胸をそらした。そして彼女は麓の頬をフニフニと人差し指でつつく。

「麓~。この鬼畜先輩にいろいろ買ってもらった? 彼氏じゃなくても、男にはおねだりの1つでもしておくんだよ。得するから」

「申し訳ないのでいいです…」

「消極的になっちゃって。でも、そこがいいコ!」

 雛はポン、と麓の頭に手を乗せてニカッと笑った。

「大学行って、やりたいことがあるのか?」

「もっちろん。小学校の教員免許を取得したいんです」

 その時────凪の瞳がわずかに見開いたように、麓には見えた。

 彼は視線をそらし、妙な間を開けてから口を開いた。

「…そうか。教員免許な。資格があれば将来、役に立つし」

「それもありますけど。私、子どもが好きなんです。あの無邪気な笑顔を見ていると、元気が出てくるから。子どもは宝って、人間が思うのとは違うかもしれないけど、いい言葉だなって思ってます」

 雛の顔は決心に満ち溢れ、まぶしかった。しかし、対照的に凪の顔は重く沈んでいった。

 麓が心配そうに彼の顔をのぞいても、気づくことはなかった。
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