27 / 29
7章
3
しおりを挟む
阿修羅の後に続いてシャワーを浴びた夜叉は、髪を乾かしている間に突撃してきた彦瀬たちを迎え入れて明日のことを話した。
自由時間は短いからとあまり綿密には決めず、ひと段落すると彦瀬と瑞恵が朝来の話題を口にした。
阿修羅はかなり不機嫌で恨めしそうな顔をしていたが、夜叉以外の女子たちは朝来のかっこよさに未だにほれぼれとしていて口々に褒めた。
やがて就寝時間が近づいて他のクラスの女性担任の見回りが来たのと同時に彦瀬たちは自分の部屋に戻っていった。
「そんじゃ私たちも寝るかねー…。明日も早いし」
「そうですね」
スマホの充電をしたり歯磨きをしたりと寝る準備をした2人はそれぞれのベッドに潜り込み、ベッドサイドのライトを落として目を閉じた。
(…寝れん)
隣の阿修羅はぐっすりと眠っているらしい。穏やかな寝息がすぅすぅと聞こえる。
夜叉は妙に寝付けずに何度も寝がえりを打っていたがとうとう体を起こした。眠たい気はするし目をとじればうとうとはするが夢の世界にはどうも行けないようだ。
もしかしたら彦瀬たちが部屋にいた時に朝来のことでからかわれ、必死に否定していたせいだろうか。テンションが爆上げしたわけではないがそれに近い感情には何度もなりかけた。
彼女は小さくため息をつくと窓辺に立ち、カーテンを引いて窓を細く開けた。窓が開く音と同時にひんやりとした空気が肌をなでて思わず身震いをした。日中も地元より涼しいから夜が冷えるのは当然だろう。しかし夜風に当たるのは気持ちいい。
そして今夜は満月だ。見上げると大きくてまん丸な月が輝いて夜叉のことを照らしていた。まるでこちらにおいでと誘うように。
月を見るとそちらへ、正しくは夜の世界を翔けたくなる衝動に駆られる。きっと初めての夜間飛行を思い出すせいだろう。修学旅行中は訓練は休んでいるから、というのもあるかもしれない。
(知らない町の夜に思い切り跳んだらすっごく気持ちよさそうだな…阿修羅には怒られそうだけど跳んでいってしまいたい)
夜叉は窓枠に頬杖をついて夜の町並みを眺めた。階数のある部屋になったため景色はかなりいい。都会だからか夜でも街は眩しくて星の光ではかき消されてしまう。
どうせ寝れないのならそれはありなのでは? と夜叉の心に魔が差した。自分の身体は普通の人間らしさというものを忘れ始めており、夜間飛行をどれだけ長く行っても帰って数時間寝るだけで体力が回復するのだ。おかげで寝不足になったことはない。
夜叉は本気で迷い始めて空を見上げ、月になにやら影がかかったのを見て目をこすった。
(あれ、雲でもかかったのかな)
しかし影はどんどん大きく────否、こちらに近づいてくるようだった。
「あ────!」
その正体が分かった時に夜叉は大声を上げそうになったが必死にこらえ、窓枠に飛び移るとその影に向かって勢いよく跳びあがった。
「朝来!」
影────朝来は日中と同じような格好で空中に留まり、彼目がけて跳んできた夜叉のことを受け止めて一回転すると強く抱きしめた。
「こんばんは、お姫様。夜の散歩をするのにいい月夜だね」
「それは私も思う…けど何してたの?」
「君に会いに来た」
彼は夜叉のことを横抱きにすると空中を蹴りながらホテルの屋上に降り立ち、屋上の端に2人で並んで座った。
「僕たちはもう明日には帰るんだ。その前に君と2人きりになりたくて」
「2人きりって…夕方話したじゃない」
「あれは2人きりの内に入らない」
朝来は若干むくれ顔で視線をそらすとコートを脱ぎ、夜叉の肩を抱き寄せて2人で半分ずつになるように羽織った。
自由時間は短いからとあまり綿密には決めず、ひと段落すると彦瀬と瑞恵が朝来の話題を口にした。
阿修羅はかなり不機嫌で恨めしそうな顔をしていたが、夜叉以外の女子たちは朝来のかっこよさに未だにほれぼれとしていて口々に褒めた。
やがて就寝時間が近づいて他のクラスの女性担任の見回りが来たのと同時に彦瀬たちは自分の部屋に戻っていった。
「そんじゃ私たちも寝るかねー…。明日も早いし」
「そうですね」
スマホの充電をしたり歯磨きをしたりと寝る準備をした2人はそれぞれのベッドに潜り込み、ベッドサイドのライトを落として目を閉じた。
(…寝れん)
隣の阿修羅はぐっすりと眠っているらしい。穏やかな寝息がすぅすぅと聞こえる。
夜叉は妙に寝付けずに何度も寝がえりを打っていたがとうとう体を起こした。眠たい気はするし目をとじればうとうとはするが夢の世界にはどうも行けないようだ。
もしかしたら彦瀬たちが部屋にいた時に朝来のことでからかわれ、必死に否定していたせいだろうか。テンションが爆上げしたわけではないがそれに近い感情には何度もなりかけた。
彼女は小さくため息をつくと窓辺に立ち、カーテンを引いて窓を細く開けた。窓が開く音と同時にひんやりとした空気が肌をなでて思わず身震いをした。日中も地元より涼しいから夜が冷えるのは当然だろう。しかし夜風に当たるのは気持ちいい。
そして今夜は満月だ。見上げると大きくてまん丸な月が輝いて夜叉のことを照らしていた。まるでこちらにおいでと誘うように。
月を見るとそちらへ、正しくは夜の世界を翔けたくなる衝動に駆られる。きっと初めての夜間飛行を思い出すせいだろう。修学旅行中は訓練は休んでいるから、というのもあるかもしれない。
(知らない町の夜に思い切り跳んだらすっごく気持ちよさそうだな…阿修羅には怒られそうだけど跳んでいってしまいたい)
夜叉は窓枠に頬杖をついて夜の町並みを眺めた。階数のある部屋になったため景色はかなりいい。都会だからか夜でも街は眩しくて星の光ではかき消されてしまう。
どうせ寝れないのならそれはありなのでは? と夜叉の心に魔が差した。自分の身体は普通の人間らしさというものを忘れ始めており、夜間飛行をどれだけ長く行っても帰って数時間寝るだけで体力が回復するのだ。おかげで寝不足になったことはない。
夜叉は本気で迷い始めて空を見上げ、月になにやら影がかかったのを見て目をこすった。
(あれ、雲でもかかったのかな)
しかし影はどんどん大きく────否、こちらに近づいてくるようだった。
「あ────!」
その正体が分かった時に夜叉は大声を上げそうになったが必死にこらえ、窓枠に飛び移るとその影に向かって勢いよく跳びあがった。
「朝来!」
影────朝来は日中と同じような格好で空中に留まり、彼目がけて跳んできた夜叉のことを受け止めて一回転すると強く抱きしめた。
「こんばんは、お姫様。夜の散歩をするのにいい月夜だね」
「それは私も思う…けど何してたの?」
「君に会いに来た」
彼は夜叉のことを横抱きにすると空中を蹴りながらホテルの屋上に降り立ち、屋上の端に2人で並んで座った。
「僕たちはもう明日には帰るんだ。その前に君と2人きりになりたくて」
「2人きりって…夕方話したじゃない」
「あれは2人きりの内に入らない」
朝来は若干むくれ顔で視線をそらすとコートを脱ぎ、夜叉の肩を抱き寄せて2人で半分ずつになるように羽織った。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
婚約破棄されなかった者たち
ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。
令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。
第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。
公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。
一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。
その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。
ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる