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7章

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 阿修羅の後に続いてシャワーを浴びた夜叉は、髪を乾かしている間に突撃してきた彦瀬たちを迎え入れて明日のことを話した。

 自由時間は短いからとあまり綿密には決めず、ひと段落すると彦瀬と瑞恵が朝来の話題を口にした。

 阿修羅はかなり不機嫌で恨めしそうな顔をしていたが、夜叉以外の女子たちは朝来のかっこよさに未だにほれぼれとしていて口々に褒めた。

 やがて就寝時間が近づいて他のクラスの女性担任の見回りが来たのと同時に彦瀬たちは自分の部屋に戻っていった。

「そんじゃ私たちも寝るかねー…。明日も早いし」

「そうですね」

 スマホの充電をしたり歯磨きをしたりと寝る準備をした2人はそれぞれのベッドに潜り込み、ベッドサイドのライトを落として目を閉じた。




(…寝れん)

 隣の阿修羅はぐっすりと眠っているらしい。穏やかな寝息がすぅすぅと聞こえる。

 夜叉は妙に寝付けずに何度も寝がえりを打っていたがとうとう体を起こした。眠たい気はするし目をとじればうとうとはするが夢の世界にはどうも行けないようだ。

 もしかしたら彦瀬たちが部屋にいた時に朝来のことでからかわれ、必死に否定していたせいだろうか。テンションが爆上げしたわけではないがそれに近い感情には何度もなりかけた。

 彼女は小さくため息をつくと窓辺に立ち、カーテンを引いて窓を細く開けた。窓が開く音と同時にひんやりとした空気が肌をなでて思わず身震いをした。日中も地元より涼しいから夜が冷えるのは当然だろう。しかし夜風に当たるのは気持ちいい。

 そして今夜は満月だ。見上げると大きくてまん丸な月が輝いて夜叉のことを照らしていた。まるでこちらにおいでと誘うように。

 月を見るとそちらへ、正しくは夜の世界を翔けたくなる衝動に駆られる。きっと初めての夜間飛行を思い出すせいだろう。修学旅行中は訓練は休んでいるから、というのもあるかもしれない。

(知らない町の夜に思い切り跳んだらすっごく気持ちよさそうだな…阿修羅には怒られそうだけど跳んでいってしまいたい)

 夜叉は窓枠に頬杖をついて夜の町並みを眺めた。階数のある部屋になったため景色はかなりいい。都会だからか夜でも街は眩しくて星の光ではかき消されてしまう。

 どうせ寝れないのならそれはありなのでは? と夜叉の心に魔が差した。自分の身体は普通の人間らしさというものを忘れ始めており、夜間飛行をどれだけ長く行っても帰って数時間寝るだけで体力が回復するのだ。おかげで寝不足になったことはない。

 夜叉は本気で迷い始めて空を見上げ、月になにやら影がかかったのを見て目をこすった。

(あれ、雲でもかかったのかな)

 しかし影はどんどん大きく────否、こちらに近づいてくるようだった。

「あ────!」

 その正体が分かった時に夜叉は大声を上げそうになったが必死にこらえ、窓枠に飛び移るとその影に向かって勢いよく跳びあがった。

「朝来!」

 影────朝来は日中と同じような格好で空中に留まり、彼目がけて跳んできた夜叉のことを受け止めて一回転すると強く抱きしめた。

「こんばんは、お姫様。夜の散歩をするのにいい月夜だね」

「それは私も思う…けど何してたの?」

「君に会いに来た」

 彼は夜叉のことを横抱きにすると空中を蹴りながらホテルの屋上に降り立ち、屋上の端に2人で並んで座った。

「僕たちはもう明日には帰るんだ。その前に君と2人きりになりたくて」

「2人きりって…夕方話したじゃない」

「あれは2人きりの内に入らない」

 朝来は若干むくれ顔で視線をそらすとコートを脱ぎ、夜叉の肩を抱き寄せて2人で半分ずつになるように羽織った。
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