Eternal Dear 8

堂宮ツキ乃

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1章

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 なぎたち天神地祇は、あおいの術によって”天”へ行き、さらにそこから天災地変のアジトへ向かった。

 ”天”からアジトへは、雲の道を伝っていく。おまけにかなりの距離がある。

 しかし凪たちは並の精霊とは違うため、途中でへたばるということはない。

 それでも道中、緊張感があった。

 悪の組織とされる天災地変のアジトへ、ついに乗り込むのだ。ただならぬ雰囲気に包まれた一行は、全員が険しい表情をしていた。

 特に天災地変のトップ、れいは、精霊の能力の中で強力な『言霊』を持っている。彼が気を込めた言葉はたちまち顕現し、誰もあらがうことはできない。

 それさえなければ、と言いたいところだが零の計画・・に惹かれて彼の元に集まる精霊の数は少なくないため、天神地祇の7人では分が悪い。しかし、そういったことは頭から外して彼らは立ち向かう。

 目の前の雲間から見えてきたのは、白と黒のゴシック調の大きな建物。”天”のものよりは小さいが、辺りに漂う黒いオーラが、不気味さを醸し出していた。

「あれが…アジト…」

 ひかるの搾り出すような声で、全員が立ち止まってそれを見上げた。

 雲が切れ、全貌を現した。”天”の方の建物はその威厳さに頭を下げそうだが、天災地変のアジトを目にした瞬間に忌々しさがこみ上げてくる。

 凪は目を細め、武器化身ぶきけしんを具現化させる。

「…気ィ張っていこうぜ。ほら、天災地変の下っ端どもがこっち見てんぞ。とんだ出迎えだな」

「だったらありがたく、迎え入れてもらうとするか」

 凪の隣に立つあきら暗黒銃あんこくじゅうを召喚した。二丁拳銃の引き金部分に人差し指を入れ、5回転ほどさせると空中に向かって2発、発砲した。まるで宣戦布告のように。

 アジトの門の影に身を潜めていた黒の忍装束が、彰の銃声で一斉に向かってきた。その数ざっと50ほど。狭そうなところによく、それだけ収まっていたなと言いたくなる黒い塊。彼らの手には2本のクナイ、あるいは刀に槍、剣。

 凪は口角を不敵に上げ、海竜剣かいりゅうけんをかまえた。他の委員たちも武器化身を召喚させたり、能力の保持者は気を高める。

「手慣らしにアイツらから片付けるとするか…いいか、たまは取るな、戦闘不能にするだけでいい。きっとアイツらは容赦なく殺りにくるんだろうが…俺らは天神地祇だからな。かかれェ!」

 凪の怒号で天神地祇も走り始め、能力や武器化身で下っ端たちを蹴散らしていく。

 簡単に減ってはいかないが、久しぶりの戦闘に血気盛んになってくる。

 凪は海竜剣を片手に、自分の中の獣のような感情が湧き上がってきているのを感じた。



 ろくは1人、電車に乗って揺られていた。

 凪に留守番を命じられてから1週間がたった日曜日。

 こうして外出したのは観光目的ではない。会いたい精霊がいるのだ。

 その名前は、たけ。その名の通り竹の女精霊で竹林に住んでいる。そして、零に結晶化されたふるえの妹のような存在。

 竹のことは麓の同級生であるつゆに聞き、アポまで取ってもらった。竹は露と違って”天”ではないが、露は何度か話したことがあるらしい。

 なぜ、麓にとって見ず知らずの精霊に会おうと思ったのか。

 零に結晶化された精霊は3人いる。その内の1人は露の兄のような存在。もう1人は、凪の想い人。

 麓は先輩であるひなにかつて聞いたことがある。

 なぜ、凪は彰と犬猿の仲なのか、と。そして彼女は麓の知らない過去の話を教えてくれた。

────凪先輩はらいって人が好きだったけど、その人は彰先輩を好きになったんだって。んで2人が付き合い始めて雷さんが結晶化された。凪先輩は雷さんのことを避けていたから、天災地変から守れなかったことを今でも悔やんでいるとか。100年以上たった今でも、その思いが拭いきれないって…よっぽどその人が好きなんだろうね。

 雛は物憂げに話していた。このことは、彼女の親しい先輩に聞いたそうだ。凪より年長、あるいは同年代の精霊の多くはこのことを知っていて、昔話のように語るのだとか。

(あの凪さんを100年以上も思わせる女性…本当に素敵なんだろうな。だって、あの凪さんだし)

 麓は窓の外を流れていく景色を眺めながら、今は会えない凪のことを思った。

 無愛想で口数は少ないが、美形で多くの女子を虜にしてきた。麓もその1人になってしまった。

 確かに凪はかっこいい。だがそれよりも麓は、凪の別の部分に心を奪われていた。

 彼が時折見せる、柔らかくて優しいほほえみ。それはおだやかな波のせせらぎのようで。

 自分にちょい厳しく、他人に厳しく、がモットーだという彼にしては珍しい表情。

 麓はそれが好きで、そのほほえみだけで心臓が高鳴る。だが今は、彼の笑顔はおろか姿さえ見ることはかなわない。

(今頃何してるかな…やっぱり、刀を持って暴れてるかな…)

 凪が海竜剣を手にして戦っている姿を見たのは1回だけ。麓が学園に来たばかりの頃。

 彼の勢いは荒れ狂う台風の日の海のようで、鬼すら倒しそうな強力だった。彼に敵なし、という言葉が似合う。万物が彼に従いそうだ。

 そしてその力はきっと。

(雷さんのを取り戻すため、だよね)

 雛から話を聞いているから容易に想像できる。だが、結晶を取り戻したらどうするのか。

 きっと雷は迷うことなく彰の元へ行くだろう。

 凪はどうする? 黙って見守るのか。否、彼女を力づくでも奪い去るのか。単語ルビ

 凪がどちらの道を選ぶのか、麓には分からない。もしかしたら、全く違う選択をするのかもしれない。

(私じゃ凪さんに好きになってもらうことはできない…私は雷さんみたいに────ん?)

 記憶の断片に、続きの言葉が引っかかった気がする。しかしそれを拾えずに、断片は記憶のすき間に舞っていく。もう掴むことはできない距離へ。

(何だったろう、今の。気のせいか)

 麓箱の時、大して気に留めることはしなかった。

 今の最大の目的は、竹に会って震の素性を聞くこと。

 結晶化された3人の偉大な精霊のことを、もっと知りたい。
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