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7-2 わたしはあなたの side B
6 サタンよ、退け
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◆
「Crux sacra sit mihi lux.Non draco sit mihi dux.Vade retro satana.Numquam suade mihi vana.Sunt mala quae libas.Ipse venena bibas」
もともと、珠紀が首から下げていたということもあって、メダルの上部には穴が開いていた。
そこに新しく革紐を通したものを、真ん中に縦に線が引かれ、それぞれの側に「Si」と「Non」と大きく書かれている紙の、その線上にぶら下げている。
そして、そのメダルをぶら下げているのも、ぶつぶつと繰り返し呟いているのもロビンだった。
「……しつこい」
ぶら下げられたメダルは、ずっと横ではなく、縦方向、紙を分割している線に沿って揺れ続けていた。
ロビンと弘がいいこと思いついたと言わんばかりに始めたそれは、織歌の備えた知識としては、ダウジングのようにも見える。
「わたしか先生に代わります?」
「いや、いい。ボクが適任なのは変わらないし」
弘の申し出をロビンは軽く溜息をついて断り、それからメダルをぶら下げる左手側ではなく、右手方向に積まれた紀美の持ってきた資料の内、一際分厚い一冊を持ち上げて、右手だけで目当てのページへと繰っていく。
「Deus iudex iustus et fortis et patiens numquid irascitur per singulos dies. Nisi conversi fueritis gladium suum vibrabit arcum suum tetendit et paravit illum. Et in eo paravit vasa mortis sagittas suas ardentibus effecit. Ecce parturiit iniustitiamet concepit dolorem et peperit iniquitatem. Lacum aperuit et effodit eum et incidet in foveam quam fecit. Convertetur dolor eius in caput eius et in verticem ipsius iniquitas eius descendet」
たぶんラテン語だ、と織歌は思うが、この間、通販で参考になりそうな本を仕入れたばかりで、まだ読んではいない。し、語学系は読むだけで身につくものでもない。
ぺら、とロビンがページを繰る音がした。
「Dominus interrogat iustum et impium qui autem diligit iniquitatem odit animam suam. Pluet super peccatores laqueos ignis et sulphur et spiritus procellarum pars calicis eorum」
ゆらゆらと揺れるメダルがいつの間にか、円のような軌跡を描いていた。
何故かロビンの眉間に皺が寄る。
ああ、これは本気でいらっとした時の表情だな、と織歌はうっすら額に汗を滲ませたロビンの顔を観察する。
「Et commota est et contremuit terra et fundamenta montium conturbata sunt et commota sunt quoniam iratus est eis. Ascendit fumus in ira eius et ignis a facie eius exarsit carbones succensi sunt ab eo……」
「あ」
声をあげたのは和音だった。
メダルが、明らかに「Si」の側へと大きく振れていたからだ。
ロビンが少し肩の力を抜いて、一度言葉を切って、それからまた口を開いた。
「Vade retro satana」
次の瞬間、きん、と硬い音がして、ごとっと少し重い音を立てて、まるで袈裟懸けに切ったように斜めに割れたメダルの下半分が紙の「Si」の上に落ちた。
ふーっとロビンが長い息を吐き出し、それとは反対に和音の身体が強張ったのを織歌は視界の端で捉えた。
「Crux sacra sit mihi lux.Non draco sit mihi dux.Vade retro satana.Numquam suade mihi vana.Sunt mala quae libas.Ipse venena bibas」
もともと、珠紀が首から下げていたということもあって、メダルの上部には穴が開いていた。
そこに新しく革紐を通したものを、真ん中に縦に線が引かれ、それぞれの側に「Si」と「Non」と大きく書かれている紙の、その線上にぶら下げている。
そして、そのメダルをぶら下げているのも、ぶつぶつと繰り返し呟いているのもロビンだった。
「……しつこい」
ぶら下げられたメダルは、ずっと横ではなく、縦方向、紙を分割している線に沿って揺れ続けていた。
ロビンと弘がいいこと思いついたと言わんばかりに始めたそれは、織歌の備えた知識としては、ダウジングのようにも見える。
「わたしか先生に代わります?」
「いや、いい。ボクが適任なのは変わらないし」
弘の申し出をロビンは軽く溜息をついて断り、それからメダルをぶら下げる左手側ではなく、右手方向に積まれた紀美の持ってきた資料の内、一際分厚い一冊を持ち上げて、右手だけで目当てのページへと繰っていく。
「Deus iudex iustus et fortis et patiens numquid irascitur per singulos dies. Nisi conversi fueritis gladium suum vibrabit arcum suum tetendit et paravit illum. Et in eo paravit vasa mortis sagittas suas ardentibus effecit. Ecce parturiit iniustitiamet concepit dolorem et peperit iniquitatem. Lacum aperuit et effodit eum et incidet in foveam quam fecit. Convertetur dolor eius in caput eius et in verticem ipsius iniquitas eius descendet」
たぶんラテン語だ、と織歌は思うが、この間、通販で参考になりそうな本を仕入れたばかりで、まだ読んではいない。し、語学系は読むだけで身につくものでもない。
ぺら、とロビンがページを繰る音がした。
「Dominus interrogat iustum et impium qui autem diligit iniquitatem odit animam suam. Pluet super peccatores laqueos ignis et sulphur et spiritus procellarum pars calicis eorum」
ゆらゆらと揺れるメダルがいつの間にか、円のような軌跡を描いていた。
何故かロビンの眉間に皺が寄る。
ああ、これは本気でいらっとした時の表情だな、と織歌はうっすら額に汗を滲ませたロビンの顔を観察する。
「Et commota est et contremuit terra et fundamenta montium conturbata sunt et commota sunt quoniam iratus est eis. Ascendit fumus in ira eius et ignis a facie eius exarsit carbones succensi sunt ab eo……」
「あ」
声をあげたのは和音だった。
メダルが、明らかに「Si」の側へと大きく振れていたからだ。
ロビンが少し肩の力を抜いて、一度言葉を切って、それからまた口を開いた。
「Vade retro satana」
次の瞬間、きん、と硬い音がして、ごとっと少し重い音を立てて、まるで袈裟懸けに切ったように斜めに割れたメダルの下半分が紙の「Si」の上に落ちた。
ふーっとロビンが長い息を吐き出し、それとは反対に和音の身体が強張ったのを織歌は視界の端で捉えた。
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