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7-1 わたしはあなたの side A
12 but it is beyond doubt sin.
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突きつけられた言葉の切っ先に、珠紀の目が泳いだ。
声色や言い方は優しいが、優しいからこそ、食い込みはすれど皮膚を破らないほどに近くまで突きつけられている――そんな、言い方だった。
「……わたし、そんな、だって、ずっと、誰も」
珠紀の口から、初めて弱気でか細い声が飛び出した。
俯いた横顔を長くて重い黒髪が覆い隠す。
その肩に、そっと弘が手を置いた。
「わかりますよ、身を守るために武装しなきゃいけない場合というのも、誰も助けてくれなかったからこそ、そうしなければいけないのも……でも、ちょっと過剰防衛でしたねえ」
恐らくは珠紀の口から出かかって消えた部分を補いながら、弘があの大立ち回りの時の気迫はどこへやら、優しく苦笑気味にそう言って、珠紀の肩をさする。
ひっ、と俯いて見えない珠紀の口から、嗚咽が漏れた。
それを聞きながら、ああ、と和音はパズルのピースが、かちりとはまったような感覚がした。
祐利奈と珠紀は小学校から一緒だが、珠紀と和音は、小学校は別学区だ。
――和音は、珠紀の小学校時代に何があったか、知らない。
そして、だからこそ珠紀は和音を標的にしたのだ。
敵を友にすることもできたはずが、それを拒むだけの確執があると、考えられる。
暫く、珠紀の嗚咽だけが響く中、いつの間にかキッチンだろう方に引っ込んでいたロビンがグラスを乗せたお盆を持って来た。
「落ち着いた?」
そう言いながら、珠紀と和音の前に冷たいお茶が入ったグラスを置いて、さらに珠紀の前にティッシュを引き寄せた。
ず、と一度鼻を啜って、珠紀はティッシュを取ると目の周りを拭ってから、顔を上げて頷く。
強く拭ったせいか、目元がほんのりと赤くなった珠紀の横顔を見て、和音は中学初日を思い出す。
出席番号順の席で、珠紀は当然、和音の後ろの席で、珠紀を見た和音は――
「もう、平気……です」
切り揃えた重そうな、けれど艶のある黒髪も、切れ長のすっとした目元も、人形のように綺麗な子だな、と思ったのだ。
「うんうん、そしたら、これはどうしようか」
手にしたメダルをこちらに見せて紀美が言う。
「……呪い、解くには、どうしたらいい……ですか?」
今まで容赦なく話していたからだろう。
少し言いにくそうに敬語にしながら、珠紀が紀美に問う。
その問いを受けた紀美は、二回ほど瞬きをしてから口を開いた。
「うーん、どうしようね?」
まさか問い返されるとは思わなかったので、和音はびっくりして紀美を見上げた。
珠紀の反応も似たようなものである。
「いや、珠紀ちゃんがどこまで正当な手順を踏んだかもあるし、正当な手順を踏んだってそれは既にパスが通ったってことになっちゃうからねえ。当然クーリングオフなんてないし」
だから、簡単な気持ちでやっちゃいけないんだよ、と、内容に比べて軽い調子で紀美が言う。
「で、どこまで正当な手順を踏んだんだい? これはどっかからネット通販とかで買ったやつ? 魔法円やソロモンの三角や五芒星、六芒星はどうしたの? やっぱり買った? 呪文は英語? それとも日本語? 詩篇はどの語で?」
「せ、先生! 悪い癖が出てます!」
慌てて織歌が紀美の腕に飛びつくようにして、珠紀に迫る紀美を止めた。
「おっと、ごめん、ごめん。でも、知りたいところだなー」
にこにことそう言う紀美に、ロビンも弘も完全に乾いた視線を向けていた。
声色や言い方は優しいが、優しいからこそ、食い込みはすれど皮膚を破らないほどに近くまで突きつけられている――そんな、言い方だった。
「……わたし、そんな、だって、ずっと、誰も」
珠紀の口から、初めて弱気でか細い声が飛び出した。
俯いた横顔を長くて重い黒髪が覆い隠す。
その肩に、そっと弘が手を置いた。
「わかりますよ、身を守るために武装しなきゃいけない場合というのも、誰も助けてくれなかったからこそ、そうしなければいけないのも……でも、ちょっと過剰防衛でしたねえ」
恐らくは珠紀の口から出かかって消えた部分を補いながら、弘があの大立ち回りの時の気迫はどこへやら、優しく苦笑気味にそう言って、珠紀の肩をさする。
ひっ、と俯いて見えない珠紀の口から、嗚咽が漏れた。
それを聞きながら、ああ、と和音はパズルのピースが、かちりとはまったような感覚がした。
祐利奈と珠紀は小学校から一緒だが、珠紀と和音は、小学校は別学区だ。
――和音は、珠紀の小学校時代に何があったか、知らない。
そして、だからこそ珠紀は和音を標的にしたのだ。
敵を友にすることもできたはずが、それを拒むだけの確執があると、考えられる。
暫く、珠紀の嗚咽だけが響く中、いつの間にかキッチンだろう方に引っ込んでいたロビンがグラスを乗せたお盆を持って来た。
「落ち着いた?」
そう言いながら、珠紀と和音の前に冷たいお茶が入ったグラスを置いて、さらに珠紀の前にティッシュを引き寄せた。
ず、と一度鼻を啜って、珠紀はティッシュを取ると目の周りを拭ってから、顔を上げて頷く。
強く拭ったせいか、目元がほんのりと赤くなった珠紀の横顔を見て、和音は中学初日を思い出す。
出席番号順の席で、珠紀は当然、和音の後ろの席で、珠紀を見た和音は――
「もう、平気……です」
切り揃えた重そうな、けれど艶のある黒髪も、切れ長のすっとした目元も、人形のように綺麗な子だな、と思ったのだ。
「うんうん、そしたら、これはどうしようか」
手にしたメダルをこちらに見せて紀美が言う。
「……呪い、解くには、どうしたらいい……ですか?」
今まで容赦なく話していたからだろう。
少し言いにくそうに敬語にしながら、珠紀が紀美に問う。
その問いを受けた紀美は、二回ほど瞬きをしてから口を開いた。
「うーん、どうしようね?」
まさか問い返されるとは思わなかったので、和音はびっくりして紀美を見上げた。
珠紀の反応も似たようなものである。
「いや、珠紀ちゃんがどこまで正当な手順を踏んだかもあるし、正当な手順を踏んだってそれは既にパスが通ったってことになっちゃうからねえ。当然クーリングオフなんてないし」
だから、簡単な気持ちでやっちゃいけないんだよ、と、内容に比べて軽い調子で紀美が言う。
「で、どこまで正当な手順を踏んだんだい? これはどっかからネット通販とかで買ったやつ? 魔法円やソロモンの三角や五芒星、六芒星はどうしたの? やっぱり買った? 呪文は英語? それとも日本語? 詩篇はどの語で?」
「せ、先生! 悪い癖が出てます!」
慌てて織歌が紀美の腕に飛びつくようにして、珠紀に迫る紀美を止めた。
「おっと、ごめん、ごめん。でも、知りたいところだなー」
にこにことそう言う紀美に、ロビンも弘も完全に乾いた視線を向けていた。
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