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5-1 夢の浮橋 side A
13 聖ザカリアの十字
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「んー、最近は和鋏でも全部鉄のは高級品だから、簡単には手に入らないんじゃないかなあ」
「……ああ、鉄って言ってましたもんね」
紀美の発言を聞いて、鉄の要件を満たす身近なものとしてロビンが鋏を挙げたのか、と純也は理解する。
「うん。西洋でもかつては魔除けとして揺り籠の中に鋏を置く、っていうのがあったし、日本でも刃物は魔除けとされるから、まあ怪我しなさそうな程度の刃物を枕元に置くのは手だよ」
「……紀美くん、俺の記憶が確かなら、その魔除けって日本の場合、大体お葬式とかの前の時のやつでは?」
「なあに、直くん、縁起が悪いって?」
直人の言った内容は、純也も聞いたことがある。通夜や葬式に際して、遺体を安置している間、胸元に短刀を置くやつだ。
けれど、にやりとした笑みを浮かべて、さっきまで砂肝が刺さっていた串を弄びながら紀美は続ける。
「そこにあるのは対象を魔から守るために取られた手段であって、本来的に縁起が悪い事はなにもない、よ?」
愉快そうに少し細めたその目の中に、また緑が踊る。
「目的と手段、そしてそれが用いられる背景を無意識に混同し過ぎるのはよくない。時々は役に立つし、文化とは往々にしてそうして育つのだけれどね。まあ、今回の場合、お葬式の場合は大体短刀で、鋏ではないし、と言えば納得してもらえるかな?」
「ああ、そういう……」
「なる、ほど……?」
何か別の所で納得したらしい直人をちらりと盗み見つつも、純也も純也で引っかかるところがまったくないとも言い切れないが、とりあえずは理解した。
「まあ、僕はお手軽度としてはパンの方が上だと思うなあ。ちょっとした欠片程度でいいと言うし」
「でもなんでパン? あれかな、キリストの肉体ってやつ?」
「少なからずその影響もあるとは思うけど、一番はヒトが手を加えなければ作れないからじゃないかな、鉄と同じく……とはいえ」
そう言いながらロビンが鞄からメモ帳とペンを取り出して、その帳面に何やらさらさらとペンを走らせて、それから勢いよく、ぴっとページを切り離して、純也に差し出した。
恐る恐る受け取ったそこには、
☩
Z
☩
DIA
☩
B
I
HGF☩BFRS
Z
☩
S
A
B
☩
Z
☩
と、漢字の「干」の上が突き抜けたような形にアルファベットと十字の羅列が配置されていた。
この十字と文字で形成された図形は、純粋に十字架と呼ぶにはいろいろと何か多い。
「聖ザカリアの十字。古くから使われてる護符」
「ああ、何書いたのかと思ったら……そうね、ありだね」
「……ロビンくん、暗記してるの、これ」
横から覗き込んだ直人が引き気味でそう言うと、ロビンは無言でサムズアップだけ返す。
「でも、書かれてるアルファベットの意味はよくわかりませんね」
「まあ、お呪いなんてそんなもんだからねえ。本人がその真の意味を考えなくても、勝手に与えられたところの意味を成すものだ」
ねー、と紀美はロビンに同意を求め、ロビンも無言で頷くだけ頷いた。
「おまじないと魔除けって同じ、なんですか?」
「うん? お呪いも、呪いも、祝福も、祈祷も、お祓いも、魔除けも、本質は全部一緒だよ?」
思っていたよりも広範な内容を一緒くたにされた。
「……ああ、鉄って言ってましたもんね」
紀美の発言を聞いて、鉄の要件を満たす身近なものとしてロビンが鋏を挙げたのか、と純也は理解する。
「うん。西洋でもかつては魔除けとして揺り籠の中に鋏を置く、っていうのがあったし、日本でも刃物は魔除けとされるから、まあ怪我しなさそうな程度の刃物を枕元に置くのは手だよ」
「……紀美くん、俺の記憶が確かなら、その魔除けって日本の場合、大体お葬式とかの前の時のやつでは?」
「なあに、直くん、縁起が悪いって?」
直人の言った内容は、純也も聞いたことがある。通夜や葬式に際して、遺体を安置している間、胸元に短刀を置くやつだ。
けれど、にやりとした笑みを浮かべて、さっきまで砂肝が刺さっていた串を弄びながら紀美は続ける。
「そこにあるのは対象を魔から守るために取られた手段であって、本来的に縁起が悪い事はなにもない、よ?」
愉快そうに少し細めたその目の中に、また緑が踊る。
「目的と手段、そしてそれが用いられる背景を無意識に混同し過ぎるのはよくない。時々は役に立つし、文化とは往々にしてそうして育つのだけれどね。まあ、今回の場合、お葬式の場合は大体短刀で、鋏ではないし、と言えば納得してもらえるかな?」
「ああ、そういう……」
「なる、ほど……?」
何か別の所で納得したらしい直人をちらりと盗み見つつも、純也も純也で引っかかるところがまったくないとも言い切れないが、とりあえずは理解した。
「まあ、僕はお手軽度としてはパンの方が上だと思うなあ。ちょっとした欠片程度でいいと言うし」
「でもなんでパン? あれかな、キリストの肉体ってやつ?」
「少なからずその影響もあるとは思うけど、一番はヒトが手を加えなければ作れないからじゃないかな、鉄と同じく……とはいえ」
そう言いながらロビンが鞄からメモ帳とペンを取り出して、その帳面に何やらさらさらとペンを走らせて、それから勢いよく、ぴっとページを切り離して、純也に差し出した。
恐る恐る受け取ったそこには、
☩
Z
☩
DIA
☩
B
I
HGF☩BFRS
Z
☩
S
A
B
☩
Z
☩
と、漢字の「干」の上が突き抜けたような形にアルファベットと十字の羅列が配置されていた。
この十字と文字で形成された図形は、純粋に十字架と呼ぶにはいろいろと何か多い。
「聖ザカリアの十字。古くから使われてる護符」
「ああ、何書いたのかと思ったら……そうね、ありだね」
「……ロビンくん、暗記してるの、これ」
横から覗き込んだ直人が引き気味でそう言うと、ロビンは無言でサムズアップだけ返す。
「でも、書かれてるアルファベットの意味はよくわかりませんね」
「まあ、お呪いなんてそんなもんだからねえ。本人がその真の意味を考えなくても、勝手に与えられたところの意味を成すものだ」
ねー、と紀美はロビンに同意を求め、ロビンも無言で頷くだけ頷いた。
「おまじないと魔除けって同じ、なんですか?」
「うん? お呪いも、呪いも、祝福も、祈祷も、お祓いも、魔除けも、本質は全部一緒だよ?」
思っていたよりも広範な内容を一緒くたにされた。
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