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5-1 夢の浮橋 side A
4 妖美妖言
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◆
「あ、なんだ、じゃあこの辺り近所なのか」
酔い潰れても送ってやるから安心しろ、という名目で問われた住所を答えると、直人は意外そうにそう声を上げた。
「まあ、安アパートの一室ですけど」
「いや、むしろそれで戸建てとかだったら驚くわ」
自虐気味の言葉に容赦ないツッコミが返ってくる。
四人掛けの掘り炬燵席だけ予約を入れたらしく、案内された席で先にメニューを広げている状況だ。
すると、店員に先導されて、良くも悪くも目立つ二人組が案内されてきた。
片方は直人を見ると、その顔をにぱっと人懐っこい笑みで飾った。
その容貌は、なんだかやたら胡散臭いけど、綺麗としか言いようがない。というか直人の幼馴染というには大変若々しい。
直人の言っていた内容から考えるに、たぶん男性なのだろうが、色素の薄さと悪く言えばなよっとした線の細さにまとめ髪、そして所謂ユニセックスというやつだろう、というようなファッションで、女性に見えなくもないほどだ。
ごゆっくり、と店員が去ると、すぐにそのとにかく胡散臭い方が口を開いた。
「やっほー、直くん」
思った以上に、けれど見かけ通りの、めちゃくちゃ軽い挨拶だった。
「いや、紀美くん、ごめんな、ちょっとヤバいかな、と素人考えだけど思って」
「別に今扱ってる案件ないから丁度良かったよ」
言いながら、靴を脱いで一段高くなった掘り炬燵席にするりと座る。
その動きはなんとなく、狭い所に落ち着こうとする猫の、液体のようにも見える動きを彷彿とさせる。
その後ろをついてきていた、金髪の眼鏡の青年の視線は、ただただ純也に突き刺さっていた。
最初は睨まれていると感じたが、よくよく見ればそれは素の目つきが悪いせいで、凝視されているだけのようだ。
「ロビン、キミがそんなに見てると初対面の人は萎縮するぞ」
「あ、うん、ちょっと、ビックリした、だけ」
胡散臭い方に言われて、彼はそう零しつつも、ちらちらとこちらを気にしながら、靴を脱いで掘り炬燵席に座る。
途中、その長い脚のためか、ごっと音がするほど思いっきり膝を打っていた。が、武士の情けで見なかったフリをした。
「高橋くん、この二人が俺の伝手」
「どーも、葛城紀美です。こっちは弟子のロビン」
「ロビン・イングラム……です」
「あ、た、高橋純也、です。すみません、急に、その」
純也が改まってそういうと、胡散臭い方――紀美は微笑ましそうな顔でこちらを見てくる。
「真面目な子だねえ。ただ、すでに見通しはロビンがつけてるし、とりあえず注文するだけしちゃう?」
予想通りでしょ? と紀美がロビンを見ると、ロビンはこくりと頷いた。
「まあ、ロビンくんがいてわからない方がよっぽど大変だよね」
「あ、でも直くんの事前資料はとてもありがたかったよ。いくらロビンが日本語に堪能でも、流石に文学的かどうかを判定させるのは難しいからね」
直人とは対照的に女性的というかなんというか、見た目通り柔和で、けれど、どこか直人と同じくあっけらかんとしたタイプではあるようだ。
なんというか、掴み所がなさそうに見えて、わかりやすいというか、直人に対して懐いてるのが手に取るようにわかるというか。
ただ、
「俺の記事、文学的、ですか」
それが少しだけ引っかかった。
「そう。それが少しばかり問題で、少しばかり厄介」
返事があるとも思えなかった呟きに、紀美はそう返して、それからその色素の薄い目を細めた。
その琥珀より赤みの薄い虹彩を、ちらりと、緑の火が舞った。
「あ、なんだ、じゃあこの辺り近所なのか」
酔い潰れても送ってやるから安心しろ、という名目で問われた住所を答えると、直人は意外そうにそう声を上げた。
「まあ、安アパートの一室ですけど」
「いや、むしろそれで戸建てとかだったら驚くわ」
自虐気味の言葉に容赦ないツッコミが返ってくる。
四人掛けの掘り炬燵席だけ予約を入れたらしく、案内された席で先にメニューを広げている状況だ。
すると、店員に先導されて、良くも悪くも目立つ二人組が案内されてきた。
片方は直人を見ると、その顔をにぱっと人懐っこい笑みで飾った。
その容貌は、なんだかやたら胡散臭いけど、綺麗としか言いようがない。というか直人の幼馴染というには大変若々しい。
直人の言っていた内容から考えるに、たぶん男性なのだろうが、色素の薄さと悪く言えばなよっとした線の細さにまとめ髪、そして所謂ユニセックスというやつだろう、というようなファッションで、女性に見えなくもないほどだ。
ごゆっくり、と店員が去ると、すぐにそのとにかく胡散臭い方が口を開いた。
「やっほー、直くん」
思った以上に、けれど見かけ通りの、めちゃくちゃ軽い挨拶だった。
「いや、紀美くん、ごめんな、ちょっとヤバいかな、と素人考えだけど思って」
「別に今扱ってる案件ないから丁度良かったよ」
言いながら、靴を脱いで一段高くなった掘り炬燵席にするりと座る。
その動きはなんとなく、狭い所に落ち着こうとする猫の、液体のようにも見える動きを彷彿とさせる。
その後ろをついてきていた、金髪の眼鏡の青年の視線は、ただただ純也に突き刺さっていた。
最初は睨まれていると感じたが、よくよく見ればそれは素の目つきが悪いせいで、凝視されているだけのようだ。
「ロビン、キミがそんなに見てると初対面の人は萎縮するぞ」
「あ、うん、ちょっと、ビックリした、だけ」
胡散臭い方に言われて、彼はそう零しつつも、ちらちらとこちらを気にしながら、靴を脱いで掘り炬燵席に座る。
途中、その長い脚のためか、ごっと音がするほど思いっきり膝を打っていた。が、武士の情けで見なかったフリをした。
「高橋くん、この二人が俺の伝手」
「どーも、葛城紀美です。こっちは弟子のロビン」
「ロビン・イングラム……です」
「あ、た、高橋純也、です。すみません、急に、その」
純也が改まってそういうと、胡散臭い方――紀美は微笑ましそうな顔でこちらを見てくる。
「真面目な子だねえ。ただ、すでに見通しはロビンがつけてるし、とりあえず注文するだけしちゃう?」
予想通りでしょ? と紀美がロビンを見ると、ロビンはこくりと頷いた。
「まあ、ロビンくんがいてわからない方がよっぽど大変だよね」
「あ、でも直くんの事前資料はとてもありがたかったよ。いくらロビンが日本語に堪能でも、流石に文学的かどうかを判定させるのは難しいからね」
直人とは対照的に女性的というかなんというか、見た目通り柔和で、けれど、どこか直人と同じくあっけらかんとしたタイプではあるようだ。
なんというか、掴み所がなさそうに見えて、わかりやすいというか、直人に対して懐いてるのが手に取るようにわかるというか。
ただ、
「俺の記事、文学的、ですか」
それが少しだけ引っかかった。
「そう。それが少しばかり問題で、少しばかり厄介」
返事があるとも思えなかった呟きに、紀美はそう返して、それからその色素の薄い目を細めた。
その琥珀より赤みの薄い虹彩を、ちらりと、緑の火が舞った。
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