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4-2 うろを満たすは side B
3 前準備
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「抵抗……とはいえ、なんだか支離滅裂だったような……?」
織歌が呟いて首を傾げる。
「支離滅裂でおかしくないですよ。ああいう時の意識って混濁してますからね」
だからこそ、昔は並べて狐憑きだったのだ、と弘は思う。
昔々の人々の世界、つまり生活圏内や認識範囲は狭かった。となれば、錯乱して喚く内容がその小さな共同体範囲で似通ったっておかしかないのだし。
「それに、発端自体が発端ですからねえ。ひとりかくれんぼ、なんて」
そう言って弘は玄米茶を一口啜る。
「呪いの模倣である時点で質が悪い」
「……うーん、その、ひとりかくれんぼってそんなにダメなんですか?」
織歌が首を傾げる。
言い方からして、ひとりかくれんぼをよくわかってなさそうだ、と弘は思う。
とはいえ、現状衰退の一途を辿るものではあるので仕方ない。
「まあ、今時やろうと思っても難易度高そうですしねえ。主にテレビの砂嵐」
「理論的に考えると、周波数を自分でチューニングするタイプのラジオとか、スマートフォンのキャリアメールのサーバ問い合わせを代替にしても、行ける気はするんだけどねえ」
「いや、最近キャリアメール自体ほぼ使わないでしょ」
けらけら笑う紀美にロビンがつっこむと、紀美はえー、と不満そうな声をあげる。
「テレビの砂嵐にキャリアメールのサーバ問い合わせってどういうことです?」
織歌の疑問があまりにもっとも過ぎる。
しかし、まあ、状況を鑑みるに。
「まずは、ひとりかくれんぼの説明からでしょうね」
ちらりと視線だけで横方向を確認するが、相変わらずにこにこしてる師匠も、なんだか楽しそうな兄弟子もこちらをお茶請けに高みの見物スタイルである。
茶々や補足は飛んでくるだろうが、説明自体はまるっと弘に一任されている。
「んー、ひとりかくれんぼは、さっき言った通り、知識ある人間から見れば、呪いの模倣です。ただ、一般認識としては手軽にできる心霊体験遊びだったものですね」
過去形。
テレビの地上波デジタル放送化により絶滅したとみていい。テレビの砂嵐画面がキーだからだ。
「なんというか、言い方からして、褒められたものではない、というのは認識しました」
「そりゃあ、呪いの模倣で発生する心霊現象を楽しむためのものなんですもん。悪趣味極まりないでしょう?」
「つまり自己責任論でいくと、何をどうやってもやった本人が悪いんだねー。一時期ネットでは実況スレッド、実況配信とか複数立ってたし」
ずぞぞ、とお茶を啜って紀美が言う。
案外、この師匠の守備範囲は侮れない。その守備範囲にしても、実年齢に対しての見た目にしても、いつになっても老人扱いなんてできない気がする。現時点でも。
「とまあ、そんな心霊的火遊びだったんですね。手順としては、諸説あったり自己流アレンジする奴もいたりはしますが、基本は同じです。まず四肢のあるタイプのぬいぐるみを用意します」
「……人形じゃなくて、ぬいぐるみじゃなきゃだめなんですか?」
おお、と横で紀美とロビンが目配せしてどよめき合っているし、弘も鋭いなあ、と思う。
人形は人形にも通じる、という意味なら、確かに呪いの模倣にうってつけ、それっぽいのだ。
「まあ、基本ぬいぐるみですね。何故なら腹をかっさばいて、綿を抜き出す必要があるので」
「かっさばいて」
「……かっさばいて」
異口同音の鸚鵡返しツッコミが横から入るが、視線すら向けずに黙殺しておく。
「綿、抜いちゃうんですか?」
「はい。代わりに米と一緒に爪とか髪とか自分の身体の一部を詰めるんです」
織歌の眉間に僅かにしわがよる。
たぶん、具体的な行動は理解したけど理由がまったくわからないからだろう。
織歌が呟いて首を傾げる。
「支離滅裂でおかしくないですよ。ああいう時の意識って混濁してますからね」
だからこそ、昔は並べて狐憑きだったのだ、と弘は思う。
昔々の人々の世界、つまり生活圏内や認識範囲は狭かった。となれば、錯乱して喚く内容がその小さな共同体範囲で似通ったっておかしかないのだし。
「それに、発端自体が発端ですからねえ。ひとりかくれんぼ、なんて」
そう言って弘は玄米茶を一口啜る。
「呪いの模倣である時点で質が悪い」
「……うーん、その、ひとりかくれんぼってそんなにダメなんですか?」
織歌が首を傾げる。
言い方からして、ひとりかくれんぼをよくわかってなさそうだ、と弘は思う。
とはいえ、現状衰退の一途を辿るものではあるので仕方ない。
「まあ、今時やろうと思っても難易度高そうですしねえ。主にテレビの砂嵐」
「理論的に考えると、周波数を自分でチューニングするタイプのラジオとか、スマートフォンのキャリアメールのサーバ問い合わせを代替にしても、行ける気はするんだけどねえ」
「いや、最近キャリアメール自体ほぼ使わないでしょ」
けらけら笑う紀美にロビンがつっこむと、紀美はえー、と不満そうな声をあげる。
「テレビの砂嵐にキャリアメールのサーバ問い合わせってどういうことです?」
織歌の疑問があまりにもっとも過ぎる。
しかし、まあ、状況を鑑みるに。
「まずは、ひとりかくれんぼの説明からでしょうね」
ちらりと視線だけで横方向を確認するが、相変わらずにこにこしてる師匠も、なんだか楽しそうな兄弟子もこちらをお茶請けに高みの見物スタイルである。
茶々や補足は飛んでくるだろうが、説明自体はまるっと弘に一任されている。
「んー、ひとりかくれんぼは、さっき言った通り、知識ある人間から見れば、呪いの模倣です。ただ、一般認識としては手軽にできる心霊体験遊びだったものですね」
過去形。
テレビの地上波デジタル放送化により絶滅したとみていい。テレビの砂嵐画面がキーだからだ。
「なんというか、言い方からして、褒められたものではない、というのは認識しました」
「そりゃあ、呪いの模倣で発生する心霊現象を楽しむためのものなんですもん。悪趣味極まりないでしょう?」
「つまり自己責任論でいくと、何をどうやってもやった本人が悪いんだねー。一時期ネットでは実況スレッド、実況配信とか複数立ってたし」
ずぞぞ、とお茶を啜って紀美が言う。
案外、この師匠の守備範囲は侮れない。その守備範囲にしても、実年齢に対しての見た目にしても、いつになっても老人扱いなんてできない気がする。現時点でも。
「とまあ、そんな心霊的火遊びだったんですね。手順としては、諸説あったり自己流アレンジする奴もいたりはしますが、基本は同じです。まず四肢のあるタイプのぬいぐるみを用意します」
「……人形じゃなくて、ぬいぐるみじゃなきゃだめなんですか?」
おお、と横で紀美とロビンが目配せしてどよめき合っているし、弘も鋭いなあ、と思う。
人形は人形にも通じる、という意味なら、確かに呪いの模倣にうってつけ、それっぽいのだ。
「まあ、基本ぬいぐるみですね。何故なら腹をかっさばいて、綿を抜き出す必要があるので」
「かっさばいて」
「……かっさばいて」
異口同音の鸚鵡返しツッコミが横から入るが、視線すら向けずに黙殺しておく。
「綿、抜いちゃうんですか?」
「はい。代わりに米と一緒に爪とか髪とか自分の身体の一部を詰めるんです」
織歌の眉間に僅かにしわがよる。
たぶん、具体的な行動は理解したけど理由がまったくわからないからだろう。
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