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2-1 山と神隠し side A
1 神隠し
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初めて自分以外のものが立てた音に頭を真っ白にして、反射的に振り返った武の視界の真ん中に、がさり、とその茂みを掻き分けて現れたのは一人の少女。
とはいえ、武よりも明らかに年上である。
しかし、その細身の身体に纏っているのは飾り気のない細身の長袖シャツに、同じく細身の長ズボン。その手には軍手で、その足にはやや武骨めなワンポイントに蛍光オレンジの入った登山靴。なんなら首からは、スティックタイプのホイッスルを下げている。
背負っている、やはり蛍光オレンジのワンポイントの入ったリュックこそやや小振りではあるが、明らかに武の父と同じ、山に対して十全の準備をした装いだった。間違っても「山っぽい格好」の山ガールとか「森っぽい格好」の森ガールではなく、ガッチガチの「山にあるべき格好」の山ガール(なんなら森だって適応可)であった。
武の存在を認めると、彼女はその整った顔に明るい表情を浮かべた。
「あー、見つけました、見つけました」
明るく溌剌とした声で武よりも幾分か年上のその少女はそう言った。
そして、その友好的な表情で話しかけてくる。
「君、東野武くんですよね?」
黒髪を短く、とはいえ襟足の辺りは長めの、所謂ウルフヘアにした、可愛いというより、凛々しいという言葉が似合う彼女は武のフルネームを口にした。
「へ?」
すると、彼女が出てきた茂みの方からまた、がさごそと音がして、くすんだ金の髪に眼鏡をかけた青年がふらふらとよろめきながら出てきた。
「ヒロ、待って、ボク、ヒロほど、体力、ない」
ヒロと呼ばれた彼女と似たような装備ながらも、ひょろりとした彼は、ぜえぜえと息を切らしながら近くの木に青年は手をついてよりかかる。
もやし、という言葉が武の頭を過った。
「やっぱり、ロビンも体力つけましょう。帰ったらまず走り込みです」
「……うん、そうね」
目の前の少女がどれだけの強行軍を強いたのかはわからないが、ロビンと呼ばれた青年はグロッキーな顔色で、どうやらそれがデフォルトらしいやたらキツい目つきのまま、投げやりに呻き半分で声を出す。
その様はつい先程まで途方に暮れていた武ですら、可哀想という感想が浮かぶほどだった。
「……いや、本当に、これ、体力ないと、つら……い……」
ずるずるとそのまましゃがみ込む青年を、少女は少し呆れたような視線で見下ろしている。
しゃがみこんだ青年の頭を見つめながら、武は既視感のある感情を抱いていた。
この感覚はそう、テストで順番に跳び箱を跳ぶ時に、跳び箱が苦手な子の順番になって、それを手に汗握りながら見守るどきどき感と、頑張れと念を送る感覚だ。
――平たく言えば、同情である。
とはいえ、武よりも明らかに年上である。
しかし、その細身の身体に纏っているのは飾り気のない細身の長袖シャツに、同じく細身の長ズボン。その手には軍手で、その足にはやや武骨めなワンポイントに蛍光オレンジの入った登山靴。なんなら首からは、スティックタイプのホイッスルを下げている。
背負っている、やはり蛍光オレンジのワンポイントの入ったリュックこそやや小振りではあるが、明らかに武の父と同じ、山に対して十全の準備をした装いだった。間違っても「山っぽい格好」の山ガールとか「森っぽい格好」の森ガールではなく、ガッチガチの「山にあるべき格好」の山ガール(なんなら森だって適応可)であった。
武の存在を認めると、彼女はその整った顔に明るい表情を浮かべた。
「あー、見つけました、見つけました」
明るく溌剌とした声で武よりも幾分か年上のその少女はそう言った。
そして、その友好的な表情で話しかけてくる。
「君、東野武くんですよね?」
黒髪を短く、とはいえ襟足の辺りは長めの、所謂ウルフヘアにした、可愛いというより、凛々しいという言葉が似合う彼女は武のフルネームを口にした。
「へ?」
すると、彼女が出てきた茂みの方からまた、がさごそと音がして、くすんだ金の髪に眼鏡をかけた青年がふらふらとよろめきながら出てきた。
「ヒロ、待って、ボク、ヒロほど、体力、ない」
ヒロと呼ばれた彼女と似たような装備ながらも、ひょろりとした彼は、ぜえぜえと息を切らしながら近くの木に青年は手をついてよりかかる。
もやし、という言葉が武の頭を過った。
「やっぱり、ロビンも体力つけましょう。帰ったらまず走り込みです」
「……うん、そうね」
目の前の少女がどれだけの強行軍を強いたのかはわからないが、ロビンと呼ばれた青年はグロッキーな顔色で、どうやらそれがデフォルトらしいやたらキツい目つきのまま、投げやりに呻き半分で声を出す。
その様はつい先程まで途方に暮れていた武ですら、可哀想という感想が浮かぶほどだった。
「……いや、本当に、これ、体力ないと、つら……い……」
ずるずるとそのまましゃがみ込む青年を、少女は少し呆れたような視線で見下ろしている。
しゃがみこんだ青年の頭を見つめながら、武は既視感のある感情を抱いていた。
この感覚はそう、テストで順番に跳び箱を跳ぶ時に、跳び箱が苦手な子の順番になって、それを手に汗握りながら見守るどきどき感と、頑張れと念を送る感覚だ。
――平たく言えば、同情である。
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