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1-1 逆さまの幽霊 side A

11 ロビンの言い分

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はらう。

その言葉に、ちくりと真由まゆの胸が痛んだ。
それが誰かわからなくても、それでも助かってほしいと願った別の心優しい誰かの残滓ざんし
それが真由まゆが見た怖いものの正体だというなら、実害というにはあまりに些細ささいなそれを消すというのは――

「同情なんか、マユがする必要はないよ」

真由まゆの思考をち切るように、ぽつりと、ロビンがそう言った。

「本来、もう息絶いきたえたウワサだったんだ。それがまた流されて、そしてキミや交通事故にあった子がを見た。それは、そうとは知らなかったとはいえ、墓をあばくような行為だったと言える。静かに眠らせてあげるのが、一番いい」
「……」
「オリカが対処すれば、ウワサが流れたところでそう簡単に顕在化はしなくなる。だから、同情するぐらいならいのるべきだ。安らかに眠れR・I・Pって」

それでも、真由まゆは感情的に納得なっとくがいかない。
ロビンが苦笑する。

「マユ、さっきもオリカが言ったでしょ? 優しい人がいるから怪談は作られる。でも、それ自体、本当に優しいこと?」
「え……?」

青い目が射抜いぬくように真由まゆを見ている。
暗がりでもいやにはっきりとしたその真昼の空のような青は、かすかに発光しているようにさえ見えた。

「勝手に同情して、勝手にそうだったらいいなんて希望を押しつけて、死人に口なしとは言うけれど、それって本当に優しいこと?」
「……」
「さっきも行った通り、それは墓をあばいて、その死体をさらし物にするような行為だ。でも、その一方で確かに死者に栄誉を押しつけるような行為だ。そして、何より、誰もがそうであればいい、と考える」

得体えたいの知れない青い目は、心の内まで見透みすかすように、真由まゆの視線をめる。
あの逆さまの人影の時のように、目が離せない。

「誰もが、そうあった方がよろこばしいと思うから、荒唐無稽こうとうむけいが起きる。どんな世界も、思ったより、理屈は通用しない。だから、そうあってほしいなんて同情なんてするべきじゃない」
「……」

それでも、不快や恐怖はなかった。
ただ、その言葉にしたがうように、真由まゆは自然と、こっくりうなずいていた。

「……目撃者の思いはなかったことになるんじゃない。あったけれど、正しい形に収まる。それを喜びこそすれ、悲しむ必要はない……いいね?」
「……わかり、ました」

自然と、真由まゆの口がそうこぼす。
こぼすと同時に、真由まゆの頭の中はうっすらやわい霧がかかる。

――それでいい。それでいいのだ。
だって、専門家がそう言うのだし、真由まゆにはその真偽しんぎ見極みきわめるための能力はない。
何より、きっと、これ以上首をんでいい問題でもない。
それは、迷惑になるとかそういうものではなく、そう、他でもない、真由まゆ自身が平穏に生きるために――
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