1 / 1
01
しおりを挟む「君にはもううんざりだ……」
私は婚約者のアラモンド様と午後の紅茶を優雅に楽しんでいる最中でした。
そんなときにふと聞こえてきた、婚約者からの辛辣な言葉。
あまりにも急だったために、それが自分に向けられているものだと気が付くのにしばらくの時間が必要でした。
「あ、あの……。それは私に向けて言っているのですか?」
私は半信半疑でアラモンド様に問いかけました。
アラモンド様の顔は真っ赤になっており、おそらくですが私に対して相当お怒りのようです。
身に覚えがございません。
さきほどまでは、アラモンド様と優雅に紅茶を嗜んでおりましたのに……
一体なにがあったというのでしょうか。
「そうだ。そうに決まっているじゃないか。君はまったく……。君の妹君とは大きな違いだ。まったく……」
どうしたことでしょうか。
なぜここで私の妹の話が出てくるのでしょうか。
まったく訳がわかりません。
私はそのこんがらがった頭で何も考えることができません。
「どうして君は、私に体を許してくれようとしないのかね。一向にそういう素振りも見せずに……。その一方で君の妹君は実に従順で魅力的だ」
「………………」
「さぁ、君も私に尽くしておくれよ。ほら、さぁ……」
アラモンド様は優雅な午後のティータイムをめちゃくちゃにしてくれました。
アラモンド様のそのいやらしい容姿と、後ろに映る美しい庭園と青空の景色がミスマッチしています。
「ああ……私は選択を誤ってしまったのですね。確かに妹とは昔から仲が悪かったのですが……。まさか、これほどまでとは」
私はティーカップを手に取り、一口だけ口に含みました。
そして、それを口のなかでころころと転がして、少しだけ温度を下げます。
「ほらっ、早くっ!!! そうすれば私はもっと君のことも大切にしてあげるさ」
そんなふざけたことをいう、アラモンド様。
私はそこへめがけて……
『ぴゅぅぅぅぅぅぅぅっ』
一筋の噴水のような綺麗な曲線を描く紅茶を彼の顔に注いだのでした。
「お、おおおっおおおおおっおおおおおお!!!」
アラモンド様は私のお口から出た紅茶が顔にかかっているというのに、そんなだらしない声を挙げています。
「そ、それだよっ!!! 君の妹君もそんな感じでしてくれるんだよ!!!」
アラモンド様はそう言いながら、今のこの惨めな醜態を喜んでいます。
そうでしたか……
そうだったのですね……
あなたはそのような……
お方だったのですね。
「アラモンド様……惨めですね」
「ああああああっ!!!!!!」
「さようなら、婚約破棄させていただきます」
私は一言だけ捨ておくように言って、午後のティータイムを終えるのでした。
そしてそれは同時に、数年間続いてきた彼との婚約生活の終焉を意味するものでした。
「ああああ……あああっ……。えっ……」
私の後方からは、快感に溺れたあとに、我に返るアラモンド様の惨めな声がかすかに聞こえてくるのでした……
【完】
10
お気に入りに追加
8
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたおっとり令嬢は「実験成功」とほくそ笑む
柴野
恋愛
おっとりしている――つまり気の利かない頭の鈍い奴と有名な令嬢イダイア。
周囲からどれだけ罵られようとも笑顔でいる様を皆が怖がり、誰も寄り付かなくなっていたところ、彼女は婚約者であった王太子に「真実の愛を見つけたから気味の悪いお前のような女はもういらん!」と言われて婚約破棄されてしまう。
しかしそれを受けた彼女は悲しむでも困惑するでもなく、一人ほくそ笑んだ。
「実験成功、ですわねぇ」
イダイアは静かに呟き、そして哀れなる王太子に真実を教え始めるのだった。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
失礼な人のことはさすがに許せません
四季
恋愛
「パッとしないなぁ、ははは」
それが、初めて会った時に婚約者が発した言葉。
ただ、婚約者アルタイルの失礼な発言はそれだけでは終わらず、まだまだ続いていって……。
晩餐会の会場に、ぱぁん、と乾いた音が響きました。どうやら友人でもある女性が婚約破棄されてしまったようです。
四季
恋愛
晩餐会の会場に、ぱぁん、と乾いた音が響きました。
どうやら友人でもある女性が婚約破棄されてしまったようです。
婚約破棄されたので実家へ帰って編み物をしていたのですが……まさかの事件が起こりまして!? ~人生は大きく変わりました~
四季
恋愛
私ニーナは、婚約破棄されたので実家へ帰って編み物をしていたのですが……ある日のこと、まさかの事件が起こりまして!?
【短編完結】婚約破棄なら私の呪いを解いてからにしてください
未知香
恋愛
婚約破棄を告げられたミレーナは、冷静にそれを受け入れた。
「ただ、正式な婚約破棄は呪いを解いてからにしてもらえますか」
婚約破棄から始まる自由と新たな恋の予感を手に入れる話。
全4話で短いお話です!
結局、私の言っていたことが正しかったようですね、元旦那様
新野乃花(大舟)
恋愛
ノレッジ伯爵は自身の妹セレスの事を溺愛するあまり、自身の婚約者であるマリアとの関係をおろそかにしてしまう。セレスもまたマリアに対する嫌がらせを繰り返し、その罪をすべてマリアに着せて楽しんでいた。そんなある日の事、マリアとの関係にしびれを切らしたノレッジはついにマリアとの婚約を破棄してしまう。その時、マリアからある言葉をかけられるのだが、負け惜しみに過ぎないと言ってその言葉を切り捨てる。それが後々、自分に跳ね返ってくるものとも知らず…。
婚約破棄されました。あとは知りません
天羽 尤
恋愛
聖ラクレット皇国は1000年の建国の時を迎えていた。
皇国はユーロ教という宗教を国教としており、ユーロ教は魔力含有量を特に秀でた者を巫女として、唯一神であるユーロの従者として大切に扱っていた。
聖ラクレット王国 第一子 クズレットは婚約発表の席でとんでもない事を告げたのだった。
「ラクレット王国 王太子 クズレットの名の下に 巫女:アコク レイン を国外追放とし、婚約を破棄する」
その時…
----------------------
初めての婚約破棄ざまぁものです。
---------------------------
お気に入り登録200突破ありがとうございます。
-------------------------------
【著作者:天羽尤】【無断転載禁止】【以下のサイトでのみ掲載を認めます。これ以外は無断転載です〔小説家になろう/カクヨム/アルファポリス/マグネット〕】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
変態だった?(笑)。妹にはざまぁ無し?Σ(゚ロ゚;)。