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無題

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「入れるね」
「うん」


 深夜は23時51分。

 僕は同棲している彼女と夜の散歩に出かけたまま、その流れで見晴らしのいい公園の真ん中で彼女と性行為をすることにした。

 馬鹿げている?

 常識的なことではない?

 違法だよ?

 そんな声。不特定多数の正義の声が、最初はよく聞こえていた。しかし、最近になっては、もうこの野外エッチも慣れてしまった。

 今ではスリルとか、そんな性癖のために、彼女とエッチをしているのではない。

 ……

 ……

 ただ、彼女との時間を大切にしていたいから、しているだけだ。僕にとっての性行為は、彼女との繋がりを保つための、物理的な鍵であり、精神的な鍵でもあるのだ。

 でも、それをどうしてわざわざ、野外でするようになったのか。。。

 その答えは……

『なんとなく』

 だ。意味なんて別に求めていない。それを求めるのはたいていの場合世の中であり、法律であり、何かを裁くことで成り立っている構造体だ。

 僕はただ、彼女とこうして、外でしたいから、している。

 ただ、それだけ。


「なぁ……。今日の昼のコンビニでさ」
「うん、どした?」


 彼女は僕に背中を向けたまま、喋る。少しだけ声が震えている。


「ごっつい、可愛いお姉ちゃんがおったんよ」
「いま、その話する彼氏おる?どんな神経してんねん」
「まぁ、な。それでな……」
「いやいやスルーかいな」
「その姉やん、めっちゃいかついコスプレしてんねん」
「……ほう、それはまた急展開やな」
「いかつうて、めっちゃエロねん」
「いや、エロいんかいな。いかつうて、エロいって、どんなコスプレ?」
「スパイ◯ーマンのピッチピチのスーツきてたねん」
「ぐっはっっっっっあああああああ」
「な、いかつうて、えっろいやろ?ボディライン、丸分かりやねん」
「ぐっはああああああああ、それ私ぃいいいいいいいいい」
「ほんでな、そん女の人な、白昼堂々とコンビニでコンドーム買ってんねん」
「どっはああああああああああああああああ」

 彼女が背中を見せながら、身悶えている。

 現在、彼女は深夜の公園にて、スパイ◯ーマンのぴっちぴちのスーツに身をまとっている。

 どちゃくそ、エロいやんけ。


「声かけてやぁ」
「いや、まぁ。なんか、な。今こうして言ってみてさ、あの時に声掛けやんくて正解やったなって思う」
「いや、どちゃくそ変態やんけ自分?」
「そんなん、野外エッチしてるやつに言う?」
「まぁ、それもそう。私たち終わってるよな。人間的に」
「まぁ、それでも生きてける。二人なら」
「なんか、うまいこと言うてるけど。そんな綺麗事で世の中通るんなら、誰でも苦労せえへんわ」
「急に正論言わんといてや」
「……、まあなんや。もっと突き上げてえや」
「りょーかい」
「おほっ!!!!!!!!!!」


 ……
 
 ……


 虫の音が聞こえる。

 蒸し暑い夏の夜。

 そういう時はどうしようもなく、こうしたところでエッチがしたくなる。

 ……

 ……

 あるとき、ふと気がついたことがある。

 こういう世間的には許容されない趣味嗜好であっても。

 そこらへんの、なんでもない人たちが、それぞれの意志で、いけないことをしても、誰も何にも見ていないし、興味も示さないということだ。

 現に僕たちは、もうかれこれ、30回くらいこういうことをしている。その間にはとても有意義な会話ができている。将来の話だったり、今頑張ってることの話だったり。僕たちにとって必要な話がたくさん、できている。

 よくある話に、めっちゃ悪い人だけが、逮捕されてるいうのあるよね。

 宗教団体の人がアパートの契約時の名義とは違う人住まわせとったいう理由で、逮捕、とかさ。最近あったよね。

 それ聞いてるとさ。なんか捕まるべき人というのが、予め向こう側から認定されとって、悪いこと、締め上げることができる事実を見つけたら、すぐに動けるようにしとこ、とかさ。そんな感じで、法律って適応されてるところあるよね。

 向こう側も無限じゃない。どうでもいいやつらが、悪いことしてても、何にも目向けへんって構図あるよね。

 それと同じ。

 僕と彼女。

 そこらへんにいる、普通の人間に誰が注目してるのって話。

 認識されないことは、存在しないのと同義、とか言うじゃない。それ、あながち間違っていないのかも。

 ……

 ……


 まぁ、そんな感じで。僕たちはバレずにしてるってわけ。もちろん場所は選んでるけど。



「なあ。このままずっとこんな関係が続いていけたらええな」
「なーん。悲しいこと言うてくれるんや。ずっとこのままでええやんか」
「うーん。そうやな。今はそう思とこ」
「そうそう、人生なにかと思い込みのほうが気楽で幸せに生きていけるんやで。これおばあちゃんの遺言」
「なんや、変や遺言やなぁ」
「やろぅ。くっそみたいな、おばあちゃんやったけどなぁ。死んでくときは、いっちょ前のこと言うてたわ」
「誰でも死ぬときは、後悔しやへんために、ええ思い込みして、死にたいんやろ」
「そうなんやろかなぁ」
「そうなんやろ」
「思い込んどこか」
「それがええ」
「ところで、わたし、ちょっといってええ?」
「いくらでもいって」


 ……


 ……


 夜が更けていく。

 僕と彼女は、そのなかで、お互いの繋がりを求めて、くっついている。

 暑い。

 体がとろけてしまいそうだ。

 汗。

 吹き出る汗。

 混じり合う汗。


 ……

 ……


「なぁ、夜空って最近見上げたりするか?」
「夜空ぁ?」
「そう、星空。みてみ?」
「んあああああ」

 
 彼女が快感を感じながら、頑張ってその顔を夜空に上げる。


「なぁ、きれいやろぅ。星空なんてさぁ。なかなか大人になってから見ないもんやなぁ」
「んなあああああ。夜空かぁ。なんか小学生くらいのときに、みんなで登校中に金環日蝕をさぁ。真っ黒なうっすいフィルムで、覗いた記憶あらへん?」
「ああ、そんなんあったなぁ。懐かしいなぁ」
「あんときは、ほんま。なんでもできる感じしてた」
「今は違うんか?」
「なんかなぁ。こんな歪な性行為でもしやへんと、なんかそういう高揚感がどっか行ってしまったんよ。悲しいことに」
「ああ……。それはちょっとわかる。あんときの心がどんどんと、どんどんと、自分の心の奥深くに仕舞い込まれていってるような気がしてる」
「なぁ、そんな感じする。なんかもう、これは、誰もが逃れられへん宿命みたいなもん」
「……大人になるっていうんは、なんや、ホンマに面倒くさいことやなぁ」
「ほんま、それ。いえてる」
「ほんま、いらん所で虚栄張って」
「そんで、知らんところで、一人泣いて」
「ほんま、子供みたいやなぁ」
「ほんま、どっちが子供やねん」
「あはははははは、うっほぉおおおおおおおおおおおおおおお。急に突き上げんなや」
「ごめんごめん。なんか、込み上げてくるもん、あったから」
 
 ……

 ……


「なぁ……大好きやで」
「なんや、急に。くっそ嬉しいやんけ」
「嬉しいやろ?わたし褒め上手やねん」


 ……


 ……


「気持ちええなぁ」
「なぁ」
「気持ちええなぁ」
「何回いうねん」
「何回でも何十回でも、君に……」
「急にきっもちわるいこと言わへんといて」
「なーん。気持ちええことは、ほんまのことなんやから」
「……じゃあ、私も。うっほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお気持ちええぇええええええええええええええええええええええええええええええええ」
「野外エッチ選手権、今日もゆうしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 ……

 ……


 誰もいない。人里離れた、辺境の公園で。


 二人は今日も、野生に戻ったような、雄叫びをあげて……


 生と性を謳歌していた。

 誰にも知られない、知られることのない。

 僕と彼女、二人だけの秘密。

【完】
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