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第17話
しおりを挟むある日、仕事が終わって帰ろうとした時
電話がかかってきた。
それは青川くんからだった。
「もしもし、青川さんですか?」
「やだな、敬語やめてよ。」
電話越しに、ふっと笑う青川くん。
まだ、慣れないこの感じ。
恋人同士なんだから敬語をやめようって
なんだか、気が抜けると敬語を使ってしまう。
「ごめんなさい、まだ慣れなくて。どうしたの?」
「うん、今から空いてたら出かけたいなって。」
…
「ここの魚たち、語りかけてくるみたいだよね。」
水槽に顔を近付けて魚とにらめっこをしながらつぶやく青川くん。
この間行った水族館に今度は青川くんと来てみた。
やはり、青川くんといると魚たちの違うところが発見できる。
「この小魚たち。いつも何に怯えているんだろう。隠れてばかりで。やっぱり俺たちなのかな。とか考えちゃうよね。」
なんて私に微笑した。
「そうだね…。」
子供の様に無邪気に魚を見る青川くんに新鮮さを感じ
見つめ続けていた。
やっぱり、子供の頃にデビューをしたから
こういう事する時間なかったのだろうか。
行く時間なんて彼ぐらいなら作れそうなのに。
やはり、芯は真面目な彼だから仕事を断る事が出来なかったのだろうか。
彼の横顔は美しい。夢を見つめる少年のよう。
未来とか希望とかそういうのひっくるめて
目に埋め込んだような澄んだ眼をしている。
綺麗な目だな。そして、儚い心の宝石。
まじまじと見ている私に気付いたのか
青川くんは恥ずかしそうな顔をして
「やだな、俺の顔に何か付いてる?」
と、自分の顔をぺたぺた触り始めた。
私は焦りながら
「ご、ごめんなさい。青川くんの眼、とても綺麗で。」
すると、ぽかんとした顔をして
「そういう恥ずかしい事、さっと言えて逆に尊敬するよ…。」
と、また微笑しながら水槽に顔を向けた。
でも、俯きながら嬉しそうにしていた。
きっと彼は社会の裏をたくさん見てきたのだろう。
汚れきった裏は、彼の眼を汚し、価値観も汚そうとしただろう。
だが、彼は屈しなかった。
彼の心の中で強く信じる自分の理想、正義を貫き
曲げる事をしなかったから、こうして歌っているのだろう。
愛を求め、人との絆を大切にし、孤独を感ずる。
だから、こんなに訴えてくる曲を作れるのだろう。
地獄からしか良いものは生まれない。
その通りなのかもしれない。だが、愛を知っている事は
何よりも素晴らしい事だ。だから、地獄に居続けても
希望を信じる事ができる。
愛は儚い。それは、消費する。だが、彼は
愛をいつまでも持ち続けた。
その深い愛は生き急がせるだろう。
だからこの一瞬、一瞬を大切に。
彼は自分の眼はまだ汚れていなかったと安心したのだろうか。
私はこの水族館での彼の横顔は忘れる事はないだろう。
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