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魔王城にて
しおりを挟む勇者なオレが魔王の城で対峙したのは、悪魔の異名をもつ同期の倉科だった。
※ ※ ※
剣と魔法を駆使して、立ちはだかるモンスターどもをばったばったと倒しまくり。
たどり着いたのはラスボスがいる魔王の間。
無駄に長い石階段をのぼってのぼってのぼりまくって、てっぺんにそびえる大扉をバターンッと開け放った勇者なオレ。
「魔王! 覚悟しやがれ!」
─────── シーーーーン
威勢よく駆け込んだものの、それまでの喧騒とはうってかわって魔王の間は静まり返っていた。
オレ渾身の決めゼリフ「覚悟しやがれ!」が、しやがれ…しやがれ…と虚しくエコーしている。
中央の玉座には誰もいない。
「ま、魔王……? おーい」
キョロキョロしながら中に足を踏み入れた。
それまでの戦闘による高揚が一気にしぼんでいく。
魔王の姿を求めて誰も座っていない玉座の裏をのぞきこんでいたときだった。
「冒険は楽しかったか?」
「おわっ!」
いきなり耳元で声がした。ビックリして振り返るとそこには。
倉科がいた。同期の倉科が。
営業二課の若手のホープ。抜け目なく、かつ、えげつないほど効率良く取引先から利益をしぼり取る倉科が。
ついたあだ名は二課の魔術師。ライバル会社から悪魔と恐れられている男。
その倉科が、真っ黒なレザー製ボディースーツにこれまた真っ黒なマントを羽織って立っている。
オレはきょとんとした。
ここはオレのファンタジーな夢の世界。の、魔王城の魔王の間だ。
なのになんで倉科がいるんだ?
というか、最近やたらとオレの夢の中にこいつが登場するのは気のせいだろうか。
「…? 倉科も魔王を退治しにきたのか?」
「いや、ちがう。お前を待ってた」
「へ?」
オレを? なんで?
なんのコスかわからないけど全身黒づくめでキメている倉科がフッと笑った。
いつもの皮肉な微笑みだ。
倉科は背が高い。
小中高大バスケひとすじで鍛えた引き締まった体躯はいつもピンと背筋が伸びている。
それに切れ長の瞳と日本人にしては高い頬骨。
もとからイケメンなんだが、クールな黒コーデで精悍さが増していて、なにやら色気さえ滲み出ている。
「待ってたって、なんで? あ、ボス戦だからここからはパーティを組むのか?」
「それもちがう。魔王は俺だ」
「へっ? お前が魔王なの?」
なんっじゃそりゃ。
オレは倉科をまじまじと見つめた。
そういわれてみればなるほど魔王のいで立ちっぽいっちゃぽい。
だからお前そんな格好してるんだ。
へー。
「……似合ってないか?」
「いや、似合ってるけど……」
自分の服装を見下ろす倉科に謎のフォローを入れるオレ。
つまりあれか?
オレはこいつを倒さないと世界を救えないのか?
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