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第3章

白い髪の青年

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「嫌なことはさっさと済ませるに限る。行こう」


アランは報告に来たガレウスとともに使者を待たせている部屋に向かった。
入り口には見張りがおり、中にも一人立たせているという。

見張りが開いた扉から中にはいると、窓辺にたつ使者が振り返った。

白い髪の青年だ。うしろでゆるくひとつに束ねている。ヒロキ同様すこしつり気味の瞳は同じ紫だが、青年の方が濃い色をしている。
確かに顔の造作や背格好は似ていると思ったが、雰囲気はまったく逆だった。表情のない冷たい顔つきは、感情豊かなヒロキとは似ても似つかない。

「私はアラン。この国の統治者だ。行方不明の弟君を探しているときいたが」
「こちらに保護されているのでしょう?」

確信を持った言い方にちらりとガレウスを見たが、小さく首を振っている。ヒロキのことは話していないということだ。

「なぜそう思う」
「弟を探してあちこちの国を訪問していたら、あるものがクレールの森の統治者を名乗るものが白い子猫を横取りした、と喚いているのを耳にしたので」
「……。そのものの特徴は」
「黒い狐の獣人です。あまり育ちがよろしくない様子の」

あの黒狐だ。間違いない。まだ子猫だったヒロキに襲いかかっていたのをアランが救ったのだが、その時に名を名乗ったのを覚えている。

「こちらにいるのでしょう? 会わせてください」
「その前にその子猫が行方不明になった経緯をきかせてもらおう」

青年の顔に一瞬不快な色が走った。アランは目をすがめた。事情によっては面会は拒否するつもりだ。

「少し目を離したすきにはぐれてしまったのです」
「どこで? あのクレールの森の中か」
「いいえ、我が国の森でした。なぜそんなところまで行っていたのかはわかりませんが」
「森で何を?」
「散策です」

アランは不審に思った。まだ子猫ではないか。移動スピードなどたかがしれている。見失ってもすぐに探しだせるはずだ。
なにかを隠していると疑った。視界の隅でガレウスも渋面を浮かべている。

「会ってどうする」
「弟であると確信したら連れて帰ります」

冗談ではない。そんなことは許さない。

「すまないが面会は拒否する。そなたの弟君とうちの白猫は別人だと思う」
「なぜです。そのものは王のツガイなのですか?」

とっさに言葉がでないアランを見据え、青年はきっぱりと言った。

「ツガイでないのならそんな権利はないはずです」
「家族だからといって無理矢理連れて帰る権利もないぞ。あのものは幼獣ではなくすでに成獣となっているのだから」
「会わせてください。話はそれからです」

睨み付けるようにじっと見つめられ思案した。会わせたくはないが青年がこのままおとなしく引き下がるとは思えない。強行手段も辞さない雰囲気すらある。

行方不明の弟が心配だからだろうか?
そのものを愛しているのだろうか?

それならばまだいいのだが、なにか別の目的があって連れ帰りたいのではないかとアランは疑った。
青年にはそういう利己的な雰囲気があった。

「……そなたのことを話してくる。その上で会う会わないは本人の判断に任せる」
「…………」
「失礼する」

さっと身を翻し、アランは部屋を出た。ガレウスはついてこなかった。そのままその場に残り見張りに徹するようだ。まるで青年を警戒しているかのようだ。

ツガイの間に行き、白猫姿でソファに丸まっているヒロキに使者の訪れを告げた。ピンと耳がアランに向けられる。

「え。オレにお客さん?」

とまどうヒロキを見つめ、アランは頷いた。

「行方不明の弟君を探してるんだそうだ。白い毛並みで瞳は紫。オスのオメガで当時はまだ子猫だったと」
「オレじゃん」

目を見開くヒロキはうーん、とうなった。ちらりとアランを上目に見る。

「会わなきゃダメ?」
「いいや。会う会わないはキミが好きに決めていい。もう成獣だからね」
「ふうん……。わかった。会う」
「会うのかい」

アランはヒロキの決断を聞いて少しがっかりした。
面倒くさがり屋のヒロキのことだから「えー、やだ」と拒否してもおかしくないと心のどこかで期待していたのだ。
アランのしっぽがしゅんとかすかに下がるのを目にしてヒロキが口を尖らせた。

「わざわざ他国まで探しに来るような熱心な相手なんだろ? 拒否るとアランがわざと会わせないって怒るかもしんないじゃん。そしたら面倒じゃん。だから会う」
「ヒロキ…」

アランの胸にジン…とヒロキへの愛しさが広がった。

「でもたぶん会ってもオレわかんないよ?」
「……それでもいいさ。素直にそう伝えれば」
「はあ…。気がおも」

よっこらせ、と起き上がると「ほあっ!」と気合いを入れてヒロキが人型に転化した。ソファから立ち上がりアランのそばにやって来る。
アランはそっと口づけた。おとなしくされるがままになっているヒロキの頬を撫でる。

「わかってると思うがキミの意思が最優先だよ。嫌だと思ったらすぐに部屋を出ていい。二度と会わないと言ってやってもいい」

ヒロキが目をしばたいた。クスリと笑う。

「…オレの兄ちゃんそんなにヤなやつなの?」
「キミの兄かもしれない男、だ。そうと決まったわけじゃない」
「そうだけど…。その人オレ…じゃなくて、行方不明の弟を見つけてどうしたいって?」
「…………」
「連れて帰りたいって?」

じっと顔を見つめ答えない相手にヒロキはため息をついた。なるほどアランが不安になるわけだ。
そっと頬を撫で返すとその手をギュッと握られた。まるですがるようなしぐさだった。ヒロキの胸にじんわりとあたたかなものが広がっていく。アランを愛しいと思った。守ってやりたいと。

「オレはどこにも行かないよ」
「ヒロキ」
「そんな心配すんなって」

ささやいて伸び上がるとそっとアランに口づけた。
驚き目を見張るアランにヒロキはニヤリと笑った。

「ほら行こうぜ。ヤなことはさっさと終わらせよ?」




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