上 下
95 / 111
第四章『ボタン』

おめでとう、サソリが生まれたぞ

しおりを挟む
 ピシッと音がして卵に小さなヒビが入ると、そこから連続するようにピシピシと小さな音が響き……パキャンと、中から何かが飛び出してきた。

「……白?」

 その色は真っ黒な卵とはまるで違う、雪のような白色で、シャキシャキと動いていた。
 というか、どう見てもハサミだ、これ。

「ハサミだにゃー」

「まあ、ブラックスコーピオンの卵から、サソリ以外が生まれたら大変だけどね」

「だにゃー」

 なんて、卵を見守りつつ話していれば、白色のハサミを動かして、器用に卵を壊していく。
 パキパキから、バキバキになり、終いにはバキャッと音を鳴らして卵が上下に割れた。
 その中から……真っ白で綺麗なサソリが姿を見せた。
 大きさは、大体手のひらサイズかな?

「キュル?」

「……生まれたね」

「うむー。小さいからか、結構可愛い気がするにゃー」

 キュルキュル鳴きながら、私の方へと近づいてきたサソリに、ものは試しと手を差し出してみる。
 すると、サソリはおずおずと近づいて……そっと登ってきた。
 ワシャワシャしてるからか、ちょっとくすぐったい感じがする。

 ちなみに卵は、サソリが出てきた後に光になって消えていってたりする。

「おー、懐いてる感じだにゃー」

「そうなのかな? ただ、山があったから登ってみたみたいな感じがするけど」

「どこの登山家なのかにゃ……。まあ、敵意は感じないし、ペットにすればいいんじゃないかにゃ」

「ペットねぇ……」

 普通、ペットって言えば、犬とかネコじゃない?
 いや、世界にはサソリをペットにする人もいるだろうけども……。

「キュル……?」

「ほら、この子もセツナに飼って欲しそうだぜー?」

「キュル、キュルル……」

 肘の近くまで登っていたサソリも、ケートの言葉に頷くように小さく鳴いて、私の目を見つめてくる。
 ……まあ、孵化しちゃった以上、しょうがないか。
 捨てるわけにもいかないしねー。

「そうと決まれば……名前をつけてやろうぜい! いつまでもサソリって呼ぶのは可愛そうだしさー」

「それもそうだね。でも、名前かー……」

 今は白いけど、このまま白い姿で成長するとは思えないんだよねー。
 だって、ブラックスコーピオンの卵から生まれてるんだよ?
 だったら、後々は黒くなりそうじゃない?

「でもそうなると、名前……名前ねぇ……」

「ちなみに、さそり座で最も輝いてる星の名前はアンタレスにゃ。赤星とか、さそりの心臓とか呼ばれてるぜー」

「へー」

 アンタレスって、結構かっこいい名前の星だねー。
 赤星ってことは、赤く光ってるのかな?

「赤色っていうか、オレンジっぽい色だにゃー。一等星だから、夏場によく見える星だぜー」

「ケート、よく知ってるねー。調べたの?」

「まあ、前にリンとね」

 なるほど、それで。
 でも一等星かー、いいね。
 たしか、夜空で一番輝く星のことでしょ?

「じゃ、アンタレスで」

「……適当だにゃー」

「キュル……」

「ほら、サソリさんは不服そうだぜー?」

 むう、面倒な。
 鈴木とか、田中とかいじゃないだけマシだと思う。
 いや、その辺の名前は付けるつもりがないけど。

「じゃあ……白夜びゃくや

「白夜かにゃ? なんでまた」

「白い姿だけど、後々黒くなるだろうし……本来の意味とは違うけど、文字的にはそれっぽいなーって」

「あー確かににゃー。だったら、白夜って言わずに、本来の読み方にしてみれば?」

 そう言うケートに、私は首を傾げる。
 白夜の本来の読み方って言われても……白夜は白夜じゃないの?

「いやいや、白夜ってのは、“ビャクヤ”じゃなくて“ハクヤ”が正しい読み方なんだぜー。ただ、ビャクヤって読み方が浸透してるだけで」

「へー、そうなんだ。でもハクヤかー、いいかも」

「キュルキュル」

 幸いなことに、腕にいるサソリも、満足そうに鳴く。
 もしかしなくてもこの子……言葉を理解してる気がするんだよねー。
 ふむ……。

「ハクヤ、こっちにおいで」

「キュルッ!」

 試しに、登っている腕と反対の手を出してみれば、サソリ……もとい、ハクヤは、小さく鳴いて手を登ってくる。
 どうやら、完全に理解しているらしい。
 しかも、自分の名前が“ハクヤ”だってことも、分かってるみたいだなー。

「頭良いサソリさんだにゃー」

「だねー。テイムモンスターだからなのかもしれないけどねー」

「だにゃー。その辺は情報が少なすぎて、全く分からんけども」

 そもそも、サソリをテイムしてる人がいないだろうしね……。
 エサとか戦闘とか、問題は結構あるんだけど、まあなるようになるかな?

「だにゃー。やっていく内にわかることもあると思うぜー」

「だよね。ってことで……とりあえず、シロのところに戻ってくるかな」

「うぃー、がんばってらー」

-----

 名前:セツナ
 所持金:105,040リブラ

 武器:居合刀『紫煙』
 防具:戦装束『無鎧』改

 テイム:ブラックスコーピオン(幼体)『ハクヤ』

 所持スキル:【見切りLv.4】【抜刀術Lv.15】【幻燈蝶Lv.6】【蹴撃Lv.11】【カウンターLv.10】【蝶舞一刀Lv.11】【秘刃Lv.2】【符術Lv.3】【八極拳Lv.5】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~

神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!! 皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました! ありがとうございます! VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。 山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・? それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい! 毎週土曜日更新(偶に休み)

引退した元生産職のトッププレイヤーが、また生産を始めるようです

こばやん2号
ファンタジー
とあるVRMMOで生産職最高峰の称号であるグランドマスター【神匠】を手に入れた七五三俊介(なごみしゅんすけ)は、やることはすべてやりつくしたと満足しそのまま引退する。 大学を卒業後、内定をもらっている会社から呼び出しがあり行ってみると「我が社で配信予定のVRMMOを、プレイヤー兼チェック係としてプレイしてくれないか?」と言われた。 生産職のトップまで上り詰めた男が、再び生産職でトップを目指す! 更新頻度は不定期です。 思いついた内容を書き殴っているだけの垂れ流しですのでその点をご理解ご了承いただければ幸いです。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

生意気な女の子久しぶりのお仕置き

恩知らずなわんこ
現代文学
久しくお仕置きを受けていなかった女の子彩花はすっかり調子に乗っていた。そんな彩花はある事から久しぶりに厳しいお仕置きを受けてしまう。

Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~

NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。 「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」 完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。 「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。 Bless for Travel そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。

採取はゲームの基本です!! ~採取道具でだって戦えます~

一色 遥
SF
スキル制VRMMORPG<Life Game> それは自らの行動が、スキルとして反映されるゲーム。 そこに初めてログインした少年アキは……、少女になっていた!? 路地裏で精霊シルフと出会い、とある事から生産職への道を歩き始める。 ゲームで出会った仲間たちと冒険に出たり、お家でアイテムをグツグツ煮込んだり。 そんなアキのプレイは、ちょっと人と違うみたいで……? ------------------------------------- ※当作品は小説家になろう・カクヨムで先行掲載しております。

生産職から始まる初めてのVRMMO

結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。 そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。 そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。 そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。 最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。 最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。 そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。

処理中です...