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第四章『ボタン』
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「【薙刀術】『紅葉突』!」
舞う葉を貫くが如く、鋭く突き出された薙刀が、相対する巨大な狼の体に連続で突き刺さる。
王様蛙よりも防御は柔らかいのか、薄い灰色の巨大な狼……もとい第一層の南部、アルテラ平原のボス『グレートウルフ』のHPは、目に見えて削れていた。
まあ、狼の特徴は素早さ特化だからねー。
私相手に訓練して、目を慣らしてきたわけだし……この狼程度の速度なら、今のシロには遅いくらいでしょ。
「ガァ!」
「遅いですの。――ハッ!」
「ギャンッ」
滑らせるように爪を逸らし、それすらも威力に変えるように薙ぎ払う。
シロの戦い方は相変わらず風のようだ。
弾いて斬り抜ける私とは違い、シロは逸らして打ち込む。
相手の攻撃を火種にして燃え上がる私と、相手の攻撃も利用して回るシロ。
私が爆弾なら、シロは風車みたいな戦い方だ。
「アオーン!」
呑気に見ていれば、シロは順調にHPを削っていたらしく、狼との戦いが次のステップに進んでいた。
狼は薄灰色の毛を逆立て、まるで怒っているかのように牙を剥き出しに……。
グレンに聞いた話だと、第二形態の狼は攻撃力が増大して、さらに素早くなるとか。
「まあ、本番はここからってことだねー」
私はボスエリアの外で、焼いた兎肉をのんびり食べつつ、シロの動きに目を向ける。
うんうん、戦意は損なわれてないみたいだね。
ま、大丈夫でしょ。
「ガァ!」
さっきまでとはまるで違う速度で飛び込んできた狼に、シロは軽く薙刀を合わせ……そっと軌道を逸らす。
シロは技術力も戦闘に対するカンのようなものも……そのどれもこれも、あまり良くはない。
それでも、たったひとつだけ、私よりも優れているものがあった。
「……相変わらず、退かない子だなー」
戦いは強いものが勝つ。
圧倒的なまでの力の差か、類いまれなほどの技術の差か……折れることのない心の強さか。
「まるで、あの時のケートみたい」
どんなに劣勢になろうとも、勝つことを諦めなかった、あの時みたいな。
きっと、シロは……ナインになにかを伝えたいんだろう。
強くなること、いや、隣に立つことで。
「……ナインに固執する理由はまったく分からないけど」
はぁ……と呆れ混じりに大きく溜め息を吐いて、未だ戦い続けているシロへと意識を戻す。
それから十数分ほどして、シロは無事、グレートウルフ討伐を成功させたのだった。
□
side.ケート
「それで、ナイン君はどうするつもりなのかにゃー?」
ガンコンガンコンと音を立てながら、私は隣で作業をするナインにそう訊ねる。
ナインはそんな私に「何がっスか?」と首を傾げつつも、またひとつ丸太を真っ二つにした。
そう今は、三層で買える『シーウッド丸太』を、斧で真っ二つにしているのだ。
なんでも、リンが要るとかなんとか……。
でも、船作るなら丸太のまま加工すればいいと思うんだけど?
ちなみに、ナインはすでに試練を突破してたりする。
早いもんだにゃー。
「シロちゃんのことにゃー。どうせ、セツナに先生を頼んだのも、ナイン君に対して思うところがあるからだと思うぜー?」
「そうなんスかね?」
「たぶんそうだぜー?」
「んー、だとすれば……どうすればいいんスかねぇ……。正直、シロに対して、どう接してあげればいいのか分からないんスよ」
言いながら割った木が、困惑を表すみたいに、違う方向に飛んでいく。
それを慌てて取りに行くナインを見て、私は「ま、それなら焦らなくていいと思うにゃー」と笑みを作った。
「たぶん、シロちゃんに対しての想いが、ナイン君の中でまだハッキリしてないんだと思うぜー。好きなのか嫌いなのか。好きなら好きで、どういった意味の好きなのか。そういったことがナイン君の中でハッキリしてないから、悩んじゃうんだと思うにゃー」
「そういう、ものなんスかねぇ……」
「そういうものなんすよー。友愛と恋愛ってのは、近いようで遠くて……それでいて近いものなのじゃよ」
「……結局どっちなんスか、それ」
ツッコミつつも笑顔を見せるナインに、私は「にゃはー」と誤魔化しつつ笑い返す。
友愛と恋愛は近い、にゃー。
自分で言ってて……私もよく分からないぜー。
「とりあえず、これで終わり……っスよぉー!」
「ういー、おつかれにゃー!」
「お疲れさまっスー!」
パッカーンと綺麗に真っ二つになった薪をまとめて、全部をアイテムボックスに放り投げる。
そして、ナインと二人ハイタッチをしてから、リンへと連絡を入れた。
すると……。
『次、整形』
と、今作った薪を削るための設計図と期日が送られてきた。
……マジで?
期日明後日とか、ほんとに……?
「ケートさん……これってもしかして」
「たぶん、そのもしかして、にゃ……」
恐る恐る設計図を開いて、二人で覗き込めば……四角錐のような絵と数字が見えた。
……ま、マジかにゃー……。
「これ、全部杭にするのかにゃー!?」
「めちゃくちゃ数あるっスよぉー!?」
-----
名前:セツナ
所持金:105,040リブラ
武器:居合刀『紫煙』
防具:戦装束『無鎧』改
所持スキル:【見切りLv.4】【抜刀術Lv.15】【幻燈蝶Lv.6】【蹴撃Lv.11】【カウンターLv.10】【蝶舞一刀Lv.11】【秘刃Lv.2】【符術Lv.3】【八極拳Lv.5】
舞う葉を貫くが如く、鋭く突き出された薙刀が、相対する巨大な狼の体に連続で突き刺さる。
王様蛙よりも防御は柔らかいのか、薄い灰色の巨大な狼……もとい第一層の南部、アルテラ平原のボス『グレートウルフ』のHPは、目に見えて削れていた。
まあ、狼の特徴は素早さ特化だからねー。
私相手に訓練して、目を慣らしてきたわけだし……この狼程度の速度なら、今のシロには遅いくらいでしょ。
「ガァ!」
「遅いですの。――ハッ!」
「ギャンッ」
滑らせるように爪を逸らし、それすらも威力に変えるように薙ぎ払う。
シロの戦い方は相変わらず風のようだ。
弾いて斬り抜ける私とは違い、シロは逸らして打ち込む。
相手の攻撃を火種にして燃え上がる私と、相手の攻撃も利用して回るシロ。
私が爆弾なら、シロは風車みたいな戦い方だ。
「アオーン!」
呑気に見ていれば、シロは順調にHPを削っていたらしく、狼との戦いが次のステップに進んでいた。
狼は薄灰色の毛を逆立て、まるで怒っているかのように牙を剥き出しに……。
グレンに聞いた話だと、第二形態の狼は攻撃力が増大して、さらに素早くなるとか。
「まあ、本番はここからってことだねー」
私はボスエリアの外で、焼いた兎肉をのんびり食べつつ、シロの動きに目を向ける。
うんうん、戦意は損なわれてないみたいだね。
ま、大丈夫でしょ。
「ガァ!」
さっきまでとはまるで違う速度で飛び込んできた狼に、シロは軽く薙刀を合わせ……そっと軌道を逸らす。
シロは技術力も戦闘に対するカンのようなものも……そのどれもこれも、あまり良くはない。
それでも、たったひとつだけ、私よりも優れているものがあった。
「……相変わらず、退かない子だなー」
戦いは強いものが勝つ。
圧倒的なまでの力の差か、類いまれなほどの技術の差か……折れることのない心の強さか。
「まるで、あの時のケートみたい」
どんなに劣勢になろうとも、勝つことを諦めなかった、あの時みたいな。
きっと、シロは……ナインになにかを伝えたいんだろう。
強くなること、いや、隣に立つことで。
「……ナインに固執する理由はまったく分からないけど」
はぁ……と呆れ混じりに大きく溜め息を吐いて、未だ戦い続けているシロへと意識を戻す。
それから十数分ほどして、シロは無事、グレートウルフ討伐を成功させたのだった。
□
side.ケート
「それで、ナイン君はどうするつもりなのかにゃー?」
ガンコンガンコンと音を立てながら、私は隣で作業をするナインにそう訊ねる。
ナインはそんな私に「何がっスか?」と首を傾げつつも、またひとつ丸太を真っ二つにした。
そう今は、三層で買える『シーウッド丸太』を、斧で真っ二つにしているのだ。
なんでも、リンが要るとかなんとか……。
でも、船作るなら丸太のまま加工すればいいと思うんだけど?
ちなみに、ナインはすでに試練を突破してたりする。
早いもんだにゃー。
「シロちゃんのことにゃー。どうせ、セツナに先生を頼んだのも、ナイン君に対して思うところがあるからだと思うぜー?」
「そうなんスかね?」
「たぶんそうだぜー?」
「んー、だとすれば……どうすればいいんスかねぇ……。正直、シロに対して、どう接してあげればいいのか分からないんスよ」
言いながら割った木が、困惑を表すみたいに、違う方向に飛んでいく。
それを慌てて取りに行くナインを見て、私は「ま、それなら焦らなくていいと思うにゃー」と笑みを作った。
「たぶん、シロちゃんに対しての想いが、ナイン君の中でまだハッキリしてないんだと思うぜー。好きなのか嫌いなのか。好きなら好きで、どういった意味の好きなのか。そういったことがナイン君の中でハッキリしてないから、悩んじゃうんだと思うにゃー」
「そういう、ものなんスかねぇ……」
「そういうものなんすよー。友愛と恋愛ってのは、近いようで遠くて……それでいて近いものなのじゃよ」
「……結局どっちなんスか、それ」
ツッコミつつも笑顔を見せるナインに、私は「にゃはー」と誤魔化しつつ笑い返す。
友愛と恋愛は近い、にゃー。
自分で言ってて……私もよく分からないぜー。
「とりあえず、これで終わり……っスよぉー!」
「ういー、おつかれにゃー!」
「お疲れさまっスー!」
パッカーンと綺麗に真っ二つになった薪をまとめて、全部をアイテムボックスに放り投げる。
そして、ナインと二人ハイタッチをしてから、リンへと連絡を入れた。
すると……。
『次、整形』
と、今作った薪を削るための設計図と期日が送られてきた。
……マジで?
期日明後日とか、ほんとに……?
「ケートさん……これってもしかして」
「たぶん、そのもしかして、にゃ……」
恐る恐る設計図を開いて、二人で覗き込めば……四角錐のような絵と数字が見えた。
……ま、マジかにゃー……。
「これ、全部杭にするのかにゃー!?」
「めちゃくちゃ数あるっスよぉー!?」
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名前:セツナ
所持金:105,040リブラ
武器:居合刀『紫煙』
防具:戦装束『無鎧』改
所持スキル:【見切りLv.4】【抜刀術Lv.15】【幻燈蝶Lv.6】【蹴撃Lv.11】【カウンターLv.10】【蝶舞一刀Lv.11】【秘刃Lv.2】【符術Lv.3】【八極拳Lv.5】
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