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第三章『君には届かない』
ふたりでひとつ
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side.カリン
ミトと手を繋いで、強制ログアウトまで天体観測をした日の翌日、私はひとり、作業場で作業を進めていた。
そんな私から少し遅れて、「お、おはよう、ございます……」と、ミトが姿を現す。
その顔と声が、少し恥ずかしがっているように聞こえて、私はなぜか安心した気持ちで「おはよう」と返していた。
「あ、あの、カリンさん! 昨日は、ご迷惑をおかけしました……」
「よく寝れた?」
「え? あ、はい」
「なら良い。始めよう」
自分の作業を止めて、ミトの作業スペースである台所へと向かう。
そんな私に「え? え?」と困惑しつつも、ミトも台所へとついてきた。
「その、カリンさん?」
「見る」
「あ、はい」
ミトに任せて、待つこと。
それが一番良いと思って手を出さなかったけれど、それがミトをあそこまで苦しめてしまった。
……だから、もうしない。
一緒に、隣で進んでいこう。
「『黒の染色液』は、『紫の染色液』を錬金術で重ね合わせて、色の性質を変化させることで作れます。その時に、一緒に効果も付けることが出来るんですけど……」
「ん」
「えっと、材料は、東アルテラ森林で取れる『紫の根』と、水です。根を刻んで煮詰めるだけなので、作るのは難しくないですよ」
「ん」
トントントンと根を刻み、水を容れた鍋に投入、そして鍋を火にかける。
そしてかき混ぜながら煮詰めていき、水全体が濃い紫になったところで火を消して、少し冷ましてから瓶へ移し替える。
手順としては全く難しくはない。
それに、品質自体も……全然問題ない品質だ。
やはり単純に【錬金術】のレベル不足?
「出来た『紫の染色液』を3つ……【錬金術】のスキル内スキル『三種融合』で重ね合わせて」
「ミト、可視化」
「あ、はい。えっと、これで見えます?」
「ん」
ミトに生産ウィンドウの可視化をお願いし、表示されている情報を読み取っていく。
通常の二種融合よりも成功率が上がる『三種融合』を使用したとしても、紫から漆黒へ色を変えるだけで、融合成功率が27%まで下がる。
そして更に、消音の効果を付けると……成功率は2%まで下がった。
2%って。
「あはは……。実は二種融合だと、成功率は1%なんです。でもたぶん、表示上1%になってるだけで、1%未満なんじゃないかなと」
「ん。多分」
「だから、それよりは成功する確率はあるんですけど……」
確かに1%が2%に増えるだけで、確率は二倍になる。
……もっとも、表示が2%なだけで、1.5%より少し上、程度の感覚でいた方が良いとは思うけれど。
「とりあえず試してみますね」
「ん」
「……【錬金術】『三種融合』」
ミトが集中するように呟くと、作業台の上に置かれていた『紫の染色液』が光り始める。
そして、その形が揺らぎはじめ……3つが1つに重なり……。
「おはようございます、ミトさん。カリンさん」
セツナが作業場に入ってきた瞬間、パキンと音が響いて消滅していった。
……あー。
「あ、えっと……その、もしかして、私やっちゃいました?」
「……」
「ひ、ひぃ! ごめんなさい!」
「だ、大丈夫です! セツナさんのせいじゃないですから!」
私が無言でセツナへと顔を向けると、セツナはガタガタ震えながら謝り始めた。
最近、怖がられている気がする。
私別にこわくないよ?
「……でもやっぱり2%じゃ成功は難しいですね」
「ん」
「でも、『紫の染色液』は十分色も出てますし、品質としても問題ないはずなんですけど……」
確かに、ミトの言うとおり、『紫の染色液』の品質は、普通に使っても問題ないくらいに高品質だった。
つまり作り方も問題は無いということだろう。
そういえば以前、父が水彩画を描くときに、何か言っていたような……。
「……水?」
「え? 水ですか?」
「ミト、水どこ?」
「見てたと思いますけど……今使ってるのは、そこの台所から……」
ミトの言葉を受けて、私はすぐさま台所へと向かい水を手に取って……ごくんと飲んだ。
……少し喉に引っかかる感じがする。
もしかすると、ここの水は硬水なのかもしれない。
そうと分かれば、やることは自ずと決まってくる。
困惑したような顔をしているミト達を置いて、私は机に地図を広げた。
第一層と第二層の地図だ。
「セツナ、水」
「え?」
「たぶんセツナさんに、水を取ってきて欲しいってことだと思います」
「ん」
ミトの補足に頷いて、私は地図上で三カ所を指で叩く。
ひとつは第二層の大河。
そして、アルテラの噴水広場の水と……東アルテラ森林奥の湖だ。
「セツナ、お願い」
「えっと、その三カ所? 湖は行ったことないんだけど……」
「湖へは、森林の入り口から続く道をまっすぐ行けば大丈夫です」
「ん、分かった。じゃあ行ってくる」
嫌そうな素振りひとつ見せず、セツナは作業場から出て行く。
なんだか使い走りみたいなことをさせてしまった……。
また今度、何かでお礼しないと。
でも今はとりあえず……。
「ミト、水以外試す」
「あ、はい!」
セツナが帰ってくるまでの間に、水以外の試せることを試しておかないと。
まずはー……根の切り方かな?
ミトと手を繋いで、強制ログアウトまで天体観測をした日の翌日、私はひとり、作業場で作業を進めていた。
そんな私から少し遅れて、「お、おはよう、ございます……」と、ミトが姿を現す。
その顔と声が、少し恥ずかしがっているように聞こえて、私はなぜか安心した気持ちで「おはよう」と返していた。
「あ、あの、カリンさん! 昨日は、ご迷惑をおかけしました……」
「よく寝れた?」
「え? あ、はい」
「なら良い。始めよう」
自分の作業を止めて、ミトの作業スペースである台所へと向かう。
そんな私に「え? え?」と困惑しつつも、ミトも台所へとついてきた。
「その、カリンさん?」
「見る」
「あ、はい」
ミトに任せて、待つこと。
それが一番良いと思って手を出さなかったけれど、それがミトをあそこまで苦しめてしまった。
……だから、もうしない。
一緒に、隣で進んでいこう。
「『黒の染色液』は、『紫の染色液』を錬金術で重ね合わせて、色の性質を変化させることで作れます。その時に、一緒に効果も付けることが出来るんですけど……」
「ん」
「えっと、材料は、東アルテラ森林で取れる『紫の根』と、水です。根を刻んで煮詰めるだけなので、作るのは難しくないですよ」
「ん」
トントントンと根を刻み、水を容れた鍋に投入、そして鍋を火にかける。
そしてかき混ぜながら煮詰めていき、水全体が濃い紫になったところで火を消して、少し冷ましてから瓶へ移し替える。
手順としては全く難しくはない。
それに、品質自体も……全然問題ない品質だ。
やはり単純に【錬金術】のレベル不足?
「出来た『紫の染色液』を3つ……【錬金術】のスキル内スキル『三種融合』で重ね合わせて」
「ミト、可視化」
「あ、はい。えっと、これで見えます?」
「ん」
ミトに生産ウィンドウの可視化をお願いし、表示されている情報を読み取っていく。
通常の二種融合よりも成功率が上がる『三種融合』を使用したとしても、紫から漆黒へ色を変えるだけで、融合成功率が27%まで下がる。
そして更に、消音の効果を付けると……成功率は2%まで下がった。
2%って。
「あはは……。実は二種融合だと、成功率は1%なんです。でもたぶん、表示上1%になってるだけで、1%未満なんじゃないかなと」
「ん。多分」
「だから、それよりは成功する確率はあるんですけど……」
確かに1%が2%に増えるだけで、確率は二倍になる。
……もっとも、表示が2%なだけで、1.5%より少し上、程度の感覚でいた方が良いとは思うけれど。
「とりあえず試してみますね」
「ん」
「……【錬金術】『三種融合』」
ミトが集中するように呟くと、作業台の上に置かれていた『紫の染色液』が光り始める。
そして、その形が揺らぎはじめ……3つが1つに重なり……。
「おはようございます、ミトさん。カリンさん」
セツナが作業場に入ってきた瞬間、パキンと音が響いて消滅していった。
……あー。
「あ、えっと……その、もしかして、私やっちゃいました?」
「……」
「ひ、ひぃ! ごめんなさい!」
「だ、大丈夫です! セツナさんのせいじゃないですから!」
私が無言でセツナへと顔を向けると、セツナはガタガタ震えながら謝り始めた。
最近、怖がられている気がする。
私別にこわくないよ?
「……でもやっぱり2%じゃ成功は難しいですね」
「ん」
「でも、『紫の染色液』は十分色も出てますし、品質としても問題ないはずなんですけど……」
確かに、ミトの言うとおり、『紫の染色液』の品質は、普通に使っても問題ないくらいに高品質だった。
つまり作り方も問題は無いということだろう。
そういえば以前、父が水彩画を描くときに、何か言っていたような……。
「……水?」
「え? 水ですか?」
「ミト、水どこ?」
「見てたと思いますけど……今使ってるのは、そこの台所から……」
ミトの言葉を受けて、私はすぐさま台所へと向かい水を手に取って……ごくんと飲んだ。
……少し喉に引っかかる感じがする。
もしかすると、ここの水は硬水なのかもしれない。
そうと分かれば、やることは自ずと決まってくる。
困惑したような顔をしているミト達を置いて、私は机に地図を広げた。
第一層と第二層の地図だ。
「セツナ、水」
「え?」
「たぶんセツナさんに、水を取ってきて欲しいってことだと思います」
「ん」
ミトの補足に頷いて、私は地図上で三カ所を指で叩く。
ひとつは第二層の大河。
そして、アルテラの噴水広場の水と……東アルテラ森林奥の湖だ。
「セツナ、お願い」
「えっと、その三カ所? 湖は行ったことないんだけど……」
「湖へは、森林の入り口から続く道をまっすぐ行けば大丈夫です」
「ん、分かった。じゃあ行ってくる」
嫌そうな素振りひとつ見せず、セツナは作業場から出て行く。
なんだか使い走りみたいなことをさせてしまった……。
また今度、何かでお礼しないと。
でも今はとりあえず……。
「ミト、水以外試す」
「あ、はい!」
セツナが帰ってくるまでの間に、水以外の試せることを試しておかないと。
まずはー……根の切り方かな?
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