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第三章『君には届かない』

踊る、謎サボテン戦

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「ありがとうございますっス! まさかお二人もついてきてくれるなんて、嬉しいっス!」

「あー、まあなりゆきで……」

「だにゃー。あのまま作業場にいるのは、ちょっとにゃー」

 私とケート、そしてナインは、三人並んで荒野を彷徨っていた。
 時折襲ってくるコンドルみたいな鳥をナインとケートが撃ち落とし、突っ込んでくるサイみたいな動物を私が斬り伏せる。
 順調すぎて、まったく緊張感の欠片もない狩りだった。

「そういえば、ナインさんはなんでナイトメアを狩ろうって思ったの? 倒すの面倒な相手だったと思うんだけど」

「あ、自分っスか? 自分、難しい相手ほど燃えるんスよ! リアルも、絶対無理ってことをやりたくなるんで、よく止められてるんスけど、こっちなら死んでも生き返るじゃないっスか! だから、今じゃ無理って言われてたナイトメアをやりたかったんスよ!」

「あー、分かるにゃー。私も無理って言われると、挑戦したくなるタイプだからにゃー」

「分かってもらえるっスか! 嬉しいっス!」

 うわっ、めんどくさい二人が結託した。
 でも、気持ちは分からなくはないんだよねー。
 リアルじゃやれないようなことも、こっちなら気兼ねなくやれるっていうか。
 死んでも死なないからねー。

「でも、セツナとあれだけ戦えるなら、イベントに出る気はなかったのかにゃー?」

「最初は出ようかと思ってたんスよ。でも、ナイトメアアイツに会ってからは、アイツを倒すのが一番優先になったっス。イベントのおかげで、夜に他のプレイヤーが森に入ってこなかったのも、タイミングとしては良かったっスから」

「なるほどね。確かに、松明を最初に狙うって分かってても、他のプレイヤーが近くにいたら、どれくらいのタイミングで襲ってくるか、見当がつかなくなる、か」

「そうっス! だから、誰も森に興味を示してない、イベント期間に倒そうってしてたっス! 死にまくって、倒せたのは最終日っスけど」

 へへっ、と照れたような顔で頭を掻くナインに、私とケートも微笑ましくなってしまう。
 なんだかなー、毒気が抜かれる感じだよね。

「しかし、ナイン君よう。チミは良いのかい? リンに装備を作ってもらうと……私達の仲間みたいに扱われるようになるぜ?」

「へ? そうなんっスか!?」

「ボスモンスターの素材だからねー。カリンさん、絶対に気合い入れて作るだろうし……普通の装備とは、見ただけで違うって感じるものが出来ると思うよー」

「にゃはは、私達みたいな装備になっちゃうぜ」

 言ってその場で回ってみせるケートにちょっと引きつつ、私は「そうだねー」とだけ返しておく。
 しかしナインは「うおぉぉ!」と謎の盛り上がりを見せた。
 
「お二人の装備、最初からカッコいいって思ってたっス! ケートさんの綺麗な感じとか、セツナさんの大人っぽい感じとか、すごい良いっス!」

「あ、ありがと……」

「にひひ、さんきゅーだぜ」

「だから、装備ができるのは滅茶苦茶楽しみっス! なので、素材集め、よろしくお願いしますっス!」

 そう言って元気よく歩き出すナインに、私はそっと溜息つきつつ、後ろを追った。
 ちなみに、私達が探している素材は、とあるモンスターが落とす素材らしい。
 ケートが言うには、サボテンらしいんだけど……荒野にサボテンってあるの?

「砂漠にあるイメージが強いけど、リアルでも荒野のサボテンは結構有名だぜー」

「そうなの?」

「うむー。サボテンばっかり生えてるような場所もあるくらいだからにゃー」

「ケートさん物知りっスね! すごいっス!」

 「すごいっス! カッコいいっス!」とはしゃぐナインに、ケートはドヤ顔して「崇めたまえー」とか言う。
 何様なのよ、ケート。
 まあ、物知りなのは認めるけど……その頭をもう少し勉強に使ってたら、もっと良い点数取れそうなのになー。

「そんなこと言ってたらモンスターっス! たぶん、アレが目的のヤツっスよ!」

「あー、そうだねー。アレが落とすぜー」

「……サボテンって歩いたっけ? あれ、そもそもサボテンがモンスターって……?」

「セツナは真面目に考えすぎにゃー。モンスター、いこーる歩くって感じにゃ」

 にひひと笑いながら、ケートは両手を前にかざし、「ぶっとべ、『ロックショット』!」と、使いなれた【土魔法】を放った。
 その魔法は拳大サイズの石を発射する、すごく分かりやすい魔法で……それだけに、速度も威力もなかなかのもの。
 だったはずなんだけど。

「よ、避けたにゃ……」

「あのサボテン、結構カラダ、柔らかいっスね……」

「というかあの動かし方は、法則を無視してる気がするんだけど」

 ぐにょん、ぷるんっと、まるで軟体動物のようにその身を曲げて回避したサボテンに、私達は全員揃って唖然としてしまう。
 いや、だってサボテンが動くだけじゃなくて、めちゃくちゃ柔らかく、そして滑らかな回避したんだよ!?
 そりゃ、驚いちゃうって!

「と、とりあえず攻撃するっス! セツナさんは、接近お願いしますっス!」

「あ、うん」

「私はとりあえずナイン君のサポートでもしようかにゃー。攻撃しすぎてセツナの邪魔してもアレだしねー」

「お願いしますっス! んじゃいくっスよ! 【弓術】『パワーシュート』っス!」

 駆ける後方から飛んできた矢を、サボテンはまたしてもぐにょんとした動きで避ける。
 う、ううーん……見てるだけで、なんか常識が壊れていく気がする……。
 いや、ゲームだし、常識には当てはまらないんだろうけど……。

「高速連弾、『ウィンドブロー』オォォォォォォォ! にゃ」

「す、すごいっス! ケートさん、さすがっス!」

「にゃはは、もっともっと褒めたまえー」

「ははー、ケート様ぁっス」

 戦闘中に何やってるんだろう……。
 しかも、サボテンは全部避けてるっぽいし。
 まあ、おかげで楽に接近できたけどさー。

「あとはセツナやっちゃえー」

「お願いしますっス! セツナさん!」

「はいはい。【蝶舞一刀】水の型『水月』!」

「……サボ、テーン……」

 サボテンはサボテンって鳴かないよ!?
 むしろ、サボテンは鳴かないよ!?

「あの人、一撃ですって、ナインさん」

「まあ、すごいでスわ。ケートさん」

「断末魔すらあげさせない、一刀両断でしたわ。かわいそうに……」

「……」

 そもそも、サボテンは断末魔あげるものじゃないと思うんだけど。
 とか思いつつ、一応ケートの頭に手刀を落とし、訳のわからない小芝居を止めさせた。
 相変わらず良い音するなー。

「せ、セツナさん……いきなりっスね……」

「バカなことしてたからでしょ?」

「そ、そうっスね! ケートさんったら戦闘中に、気を抜きすぎっスよ!」

「ちょ、ナイン君!? 人のこといえなぐぇっ。ぐぬぬぬ……」

 ずびしっとケートにもう一発入れて、その口を閉じさせる。
 悶えるケートにため息を吐きつつ、私はアイテムボックスの中身を確認した。
 あ、あのサボテン『サボテンダンサー』って言うんだ……ダンサーて。

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 名前:セツナ
 所持金:211,590リブラ

 武器:居合刀『紫煙』
 防具:戦装束『無鎧』

 所持スキル:【見切りLv.4】【抜刀術Lv.14】【幻燈蝶Lv.4】【蹴撃Lv.6】【カウンターLv.9】【蝶舞一刀Lv.9】【秘刃Lv.2】
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