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第一章『広がる世界』
居合刀『紫煙』
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ゲーム内で夜になっちゃってすることもないからということで、リアル時間で夜の8時過ぎにゲーム内で待ち合わせをすることにして、一旦ログアウトした。
あ、もちろんミトともフレンド登録はしておいたので、カリンにミトでフレンドは計3人になった。
「んー、どうしようかな。うちの晩御飯は7時くらいだし……先にお風呂とか入っちゃおうかな」
圭のことだから、次ログインした後は、ずーっと私を引っ張っていくんだろうし……しかたないなぁ。
まあ、圭の相手は慣れてるし、良いけど。
「そうと決まれば……お母さーん! 私、先にお風呂入っちゃうねー!」
□
晩御飯を食べてからフリフロにログインすると、夕暮れに染まっていた街並みは、朝日を浴びてとても明るい街並みになっていた。
おおー、理解はしてたけど、二倍の速度で時間が進むって、こんな感じなんだー。
『やっはろー。私ケートちゃん、今リンの作業場にいるの』
ペロンと音がして表示されたメッセージには、そんななんとも言えないメッセージが添付されていた。
怖いどころか、むしろちょっとイラッとするよね。
「……作業場に行こう」
そんなメッセージを閉じて、私ははぁーとため息をついてから、歩きだした。
到着したら、一度ケートの頭ペチンしよー。
□
「あいたっ! え、なんで!?」
「なんとなく」
作業場についた私は、とりあえず気持ち通りにケートの頭をペチンと叩いた。
いい感じの音がしたので、いい感じ。
「えー、もしかして嫉妬? 嫉妬しちゃっ、いたっ。暴力反対!」
「ケートが変なこと言うからでしょ?」
「お茶目なジョークだよー。ねー、リン」
「……」
「なんとかいってよー!?」
ケートに話を振られたカリンは、一瞬ケートの方に目を向けて……すぐさま作業に戻っていた。
うん、すごい正しい反応だと思う……私、カリンとは友達になれそう。
「セツナ」
「ん? なにー?」
「武器。調整前」
「え、えっと?」
カリンがアイテムボックスから取り出して渡してきた刀に戸惑っていると、ケートが「調整するから、持って振ってみてってことだよー」と教えてくれた。
その言葉に頷いて、一緒に渡された鞘へと仕舞ってから、ヒュッと空を切り裂く。
今の刀よりも、多少軽い気がする。
「んー、もう少し柄が細い方が良いかな?」
「反り」
「何か斬ってみないとわかんないかも」
「ん、これ」
言いながら、どんっと机に置かれたアルテラウッド木材。
なるほど、これを斬れと。
「えいっ」
抜いた直後、一瞬だけ手応えを感じ……私は鞘へと刃を戻す。
チッと小さな音が鞘の口にある鯉口から鳴ると、木材はズレるようにして倒れた。
うん、切れ味もいい感じかな。
「問題ないと思うよー。斬りたいところを斬れてるし」
「ん。直す」
「はーい」
私から刀を受け取ったカリンが、柄の目釘とか縁とかを外し、紫の糸で作られた柄巻をほどいていく。
そして出てきた皮らしきものをはずすと……柄の形に作られた木が現れた。
ほ、ほえー……すごい。
「柄ひとつでこんなにパーツがあるんだね……」
「たぶん、普通はシステムで作るから、ここまでは分解できないし、オーダーメイドみたいにもできないんじゃないかなー。全部手作業だと、難易度が高すぎるから」
「それもそっか。そうだよね」
「まー、リンはそういうところに妥協できない性格だから、全部手作業でやっちゃうけどねー」
それはもうなんか……本当にお金払わずに素材払いで良いんだろうか……。
いや、本人が納得してるらしいから良いんだけど。
「完成」
「あ、ありがとう」
「無銘。号、紫煙」
「紫煙……」
受け取った武器の詳細を見てみれば、名前は『紫煙』で、制作者名にカリンって書かれていた。
あと、攻撃力がなんとびっくり50もある!初心者の刀が10だったことを考えると……5倍だった。
「注文通り。槍消費。刃の色」
「私の注文通りに、折れた槍を使って作ってるって。あと、刃の色が薄く紫色してるから紫煙だってさー」
「あ、ほんとだ。光に当てると薄い紫色してる」
刃文が揺らめいていて、煙っぽいって言われるとたしかにそんな感じかも。
ほぇー、綺麗だなー。
「あれ? リン、王冠も使うって言ってなかった?」
「足りた。王冠は別」
「そうなんだ。ちなみに何に使う予定?」
「秘密」
人差し指を口の前に立てて、カリンは口を閉ざす。
あ、そういう事はするんだ。
「刀。特殊効果、鋭利」
「え? 刀に鋭利になる特殊効果がついてる? え、マジ?」
「マジ」
「ま、まじー!? すっごい刀じゃん!」
驚いて声が大きくなったケートに驚きつつ、詳細を見ていけば……たしかに書いてある。
『斬れば次の一撃が鋭くなる』らしい。
よくわかんないけど、斬ったらいいってことなんだろう。
「これは、私の装備も楽しみになってきましたね! ね!」
「まだ」
「くぅー!」
お預けをされてる犬みたいに、ソワソワしてるケートを無視して、カリンはまた作業に戻っていった。
うん、正しい反応だと思う。
「そういえばケート、なんで作業場にいたの?」
「ん? あー、ミトちゃんにねー、薬草とってくるって言ったけど、薬草が何か分からなかったから、リンに図鑑を見せてもらってたんだよー。もう覚えたから行けるけどね!」
「あ、なるほど」
「そしたら、セツナの武器だけはほぼ完成品ができたって言うから、先に受け取らせておこうかなーって」
にひひと笑うケートに、抜け目無いなぁ……とか思っちゃう。
でも、まあ……そういうところが、私にはないところだし、すごいなって思ったりもするけど。
「ってなわけで、私とセツナは外にいってくるぜい! リンも頑張ってね!」
「ん」
「行ってくるね。刀、ありがとう」
「ん」
こっちに顔を向けることもなく、カリンは手だけ上げて挨拶代わりにする。
なんていうか、ケートの友達だけあって、やっぱり自由だなぁ……。
-----
名前:セツナ
所持金:3,530リブラ
武器:居合刀『紫煙』
所持スキル:【見切りLv.1】【抜刀術Lv.4】【幻燈蝶Lv.2】【蹴撃Lv.1】【カウンターLv.1】【蝶舞一刀Lv.1】
あ、もちろんミトともフレンド登録はしておいたので、カリンにミトでフレンドは計3人になった。
「んー、どうしようかな。うちの晩御飯は7時くらいだし……先にお風呂とか入っちゃおうかな」
圭のことだから、次ログインした後は、ずーっと私を引っ張っていくんだろうし……しかたないなぁ。
まあ、圭の相手は慣れてるし、良いけど。
「そうと決まれば……お母さーん! 私、先にお風呂入っちゃうねー!」
□
晩御飯を食べてからフリフロにログインすると、夕暮れに染まっていた街並みは、朝日を浴びてとても明るい街並みになっていた。
おおー、理解はしてたけど、二倍の速度で時間が進むって、こんな感じなんだー。
『やっはろー。私ケートちゃん、今リンの作業場にいるの』
ペロンと音がして表示されたメッセージには、そんななんとも言えないメッセージが添付されていた。
怖いどころか、むしろちょっとイラッとするよね。
「……作業場に行こう」
そんなメッセージを閉じて、私ははぁーとため息をついてから、歩きだした。
到着したら、一度ケートの頭ペチンしよー。
□
「あいたっ! え、なんで!?」
「なんとなく」
作業場についた私は、とりあえず気持ち通りにケートの頭をペチンと叩いた。
いい感じの音がしたので、いい感じ。
「えー、もしかして嫉妬? 嫉妬しちゃっ、いたっ。暴力反対!」
「ケートが変なこと言うからでしょ?」
「お茶目なジョークだよー。ねー、リン」
「……」
「なんとかいってよー!?」
ケートに話を振られたカリンは、一瞬ケートの方に目を向けて……すぐさま作業に戻っていた。
うん、すごい正しい反応だと思う……私、カリンとは友達になれそう。
「セツナ」
「ん? なにー?」
「武器。調整前」
「え、えっと?」
カリンがアイテムボックスから取り出して渡してきた刀に戸惑っていると、ケートが「調整するから、持って振ってみてってことだよー」と教えてくれた。
その言葉に頷いて、一緒に渡された鞘へと仕舞ってから、ヒュッと空を切り裂く。
今の刀よりも、多少軽い気がする。
「んー、もう少し柄が細い方が良いかな?」
「反り」
「何か斬ってみないとわかんないかも」
「ん、これ」
言いながら、どんっと机に置かれたアルテラウッド木材。
なるほど、これを斬れと。
「えいっ」
抜いた直後、一瞬だけ手応えを感じ……私は鞘へと刃を戻す。
チッと小さな音が鞘の口にある鯉口から鳴ると、木材はズレるようにして倒れた。
うん、切れ味もいい感じかな。
「問題ないと思うよー。斬りたいところを斬れてるし」
「ん。直す」
「はーい」
私から刀を受け取ったカリンが、柄の目釘とか縁とかを外し、紫の糸で作られた柄巻をほどいていく。
そして出てきた皮らしきものをはずすと……柄の形に作られた木が現れた。
ほ、ほえー……すごい。
「柄ひとつでこんなにパーツがあるんだね……」
「たぶん、普通はシステムで作るから、ここまでは分解できないし、オーダーメイドみたいにもできないんじゃないかなー。全部手作業だと、難易度が高すぎるから」
「それもそっか。そうだよね」
「まー、リンはそういうところに妥協できない性格だから、全部手作業でやっちゃうけどねー」
それはもうなんか……本当にお金払わずに素材払いで良いんだろうか……。
いや、本人が納得してるらしいから良いんだけど。
「完成」
「あ、ありがとう」
「無銘。号、紫煙」
「紫煙……」
受け取った武器の詳細を見てみれば、名前は『紫煙』で、制作者名にカリンって書かれていた。
あと、攻撃力がなんとびっくり50もある!初心者の刀が10だったことを考えると……5倍だった。
「注文通り。槍消費。刃の色」
「私の注文通りに、折れた槍を使って作ってるって。あと、刃の色が薄く紫色してるから紫煙だってさー」
「あ、ほんとだ。光に当てると薄い紫色してる」
刃文が揺らめいていて、煙っぽいって言われるとたしかにそんな感じかも。
ほぇー、綺麗だなー。
「あれ? リン、王冠も使うって言ってなかった?」
「足りた。王冠は別」
「そうなんだ。ちなみに何に使う予定?」
「秘密」
人差し指を口の前に立てて、カリンは口を閉ざす。
あ、そういう事はするんだ。
「刀。特殊効果、鋭利」
「え? 刀に鋭利になる特殊効果がついてる? え、マジ?」
「マジ」
「ま、まじー!? すっごい刀じゃん!」
驚いて声が大きくなったケートに驚きつつ、詳細を見ていけば……たしかに書いてある。
『斬れば次の一撃が鋭くなる』らしい。
よくわかんないけど、斬ったらいいってことなんだろう。
「これは、私の装備も楽しみになってきましたね! ね!」
「まだ」
「くぅー!」
お預けをされてる犬みたいに、ソワソワしてるケートを無視して、カリンはまた作業に戻っていった。
うん、正しい反応だと思う。
「そういえばケート、なんで作業場にいたの?」
「ん? あー、ミトちゃんにねー、薬草とってくるって言ったけど、薬草が何か分からなかったから、リンに図鑑を見せてもらってたんだよー。もう覚えたから行けるけどね!」
「あ、なるほど」
「そしたら、セツナの武器だけはほぼ完成品ができたって言うから、先に受け取らせておこうかなーって」
にひひと笑うケートに、抜け目無いなぁ……とか思っちゃう。
でも、まあ……そういうところが、私にはないところだし、すごいなって思ったりもするけど。
「ってなわけで、私とセツナは外にいってくるぜい! リンも頑張ってね!」
「ん」
「行ってくるね。刀、ありがとう」
「ん」
こっちに顔を向けることもなく、カリンは手だけ上げて挨拶代わりにする。
なんていうか、ケートの友達だけあって、やっぱり自由だなぁ……。
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名前:セツナ
所持金:3,530リブラ
武器:居合刀『紫煙』
所持スキル:【見切りLv.1】【抜刀術Lv.4】【幻燈蝶Lv.2】【蹴撃Lv.1】【カウンターLv.1】【蝶舞一刀Lv.1】
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