上 下
1 / 1

神に魔王が勝つための唯一にして絶対の方法

しおりを挟む
「神様ー! ばんざーい!」
「キャー! 神様ー! ステキー!」

 興奮したように嬌声を上げる民衆に対し、白く彩られた建物のバルコニーから青年が手を振る。
 いや青年は……彼ではない。
 煌びやかな金の髪を揺らし、見目麗しい青年に見える……女性だった。

「ありがとう! 皆、ありがとう!」

 賑やかな今日は、この世界における一年のリーダーを決める投票の最終結果発表日。
 そう、毎年行われるこの行事は、神たる彼女と、魔王たる少年の戦い……その決戦終了の行事だった。

「また、負けた……」
「ま、魔王様! お気を確かに! おい、水。水を持ってこい!」

 視界の端で、ガクリと膝を折る少年の姿が見えた。
 そしてその彼が、魔王であることも……周りの反応から分かってしまった。

 ――――目を合わせないでおこう……。

 そう俺ことビリーアムンソン(通称ビリー)は思い、急いで目を逸らす。
 しかしその行動が、彼に俺という存在を覚えさせるきっかけとなってしまったことを、このときの俺は知らなかった。



「お前、僕のプロデューサーになれ!」
「……はい?」

 豪奢な椅子に座ったままの少年が、ズビシッと指を突きつけながら言った言葉に、俺はただ首を傾げることしか出来なかった。
 そんな俺を見かねてか、彼はまたしてもズビシッと指を突きつける。

「僕が次のパフォーマンスでアイツに勝てるよう、お前が僕をプロデュースしてみろ、ってこと!」
「言わんとしてることは分かりますけど、どうしてそうなってるのかは全く分からないんですが!? あと、この状況なんですか!? なんで俺、簀巻きにされて魔王城に連れてこられてるんですか!? ただ買い物してただけなんですけど!」

 そう俺は叫びつつ、魔王城の床をビッタンビッタン跳ね回る。
 まるで緩くならないってことは、この簀巻き……かなりガチでやってる簀巻きだ!

「理由の説明? そこからいるの?」
「ええ、事細かにお願いします。納得いかないと手伝いませんから」
「メンドくさい人だなぁ……」

 見た目はただの少年にしか見えない魔王様は、うーんと悩んでから、俺に説明してくれる。
 神魔対決でここ十年勝てていない魔王様は、魔族からの要求を通しにくく、臣民たる魔族からの信頼が損なわれつつあるらしく、来年も負けてしまうと、いよいよもって魔王の座から引き釣り降ろされる可能性があるらしい。

 だからこそ、中立種族中最も数の多い人族から、一人協力者を付けて、イメージチェンジに力を注ぎたいみたいだ。

「なるほど。それで、なんで俺ですか?」
「あの結果発表の日、僕から目を逸らしたでしょ? 気付いてないと思ったら大間違いなんだから」
「あー、あはは……バレてましたか」

 どうやらあの状況でも、周りを見る余力程度は残してあったようだ。
 なんとも抜かりない……これが魔王として魔族の頂点に立つ存在の力か。

「でも、そうですね……。イメージチェンジって言われても、何をすれば?」
「今のままだと、僕がどれだけ民衆のためを思って話をしても、インパクトの面で負けてしまう。同じ内容でも、見た目からしてインパクトがあって人気な神には勝てない……」
「なるほど。俺が手伝うってのは、魔王様の外見的なものですか。確かに魔王様、背も低いですし、年齢としては成人でも、童顔でまだまだ子供と思われても仕方ない見た目ですからね」
「うぐっ……そ、そうだろう……。この見た目では、説得力も何もあったものではないしな……」

 俺の言葉で心にダメージを負った魔王様が、力なくうな垂れる。
 そんな魔王様はほっといて、俺は彼の姿をまじまじと見て……ある妙案を思い付いた。

「魔王様、これなら勝てるかもしれません……!」
「……なんだと? 何か思い付いたのか!?」
「ええ、魔王様の男らしくない細くて小さい身体と、妙に綺麗な顔と、その銀の髪があれば……!」
「褒められてない気がするんだが」
「なにを言ってますか! 才能の塊じゃないですか!」

 そう、俺のイメージ通りなら……勝てる!
 ビッタンビッタン跳ねながら力説する俺に少し気持ち悪さを感じたのか、魔王様は目を逸らしつつ簀巻きから解くように命令を出してくれた。

「それで、どうすればいい?」
「簡単なことですよ。魔王様……女の子になりましょう!」
「……は?」

 こうして男の娘としての道を歩み始めた魔王様は……次の戦いで見事勝利を収めることとなりました。
 ただし、その時には……同時に、神から求婚されるという展開もセットで着いてきたのですが。
 それはまた別のお話で。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

膝上の彼女

B
恋愛
極限状態で可愛い女の子に膝の上で…

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

処理中です...