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第0章 少年、異世界に立つ
第5話 はじめてのくえすと!
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「リヒト、お待たせ! 朝食持ってきたよ」
のんびり窓の外を眺めながら、この三日ほどの出来事を振り返っていた僕の前に、香ばしい匂いの料理が載ったプレートが置かれる。そして、小さいお皿が夜空の前にも。
僕らの料理を運び終わったティアちゃんは、さらにプレートをひとつ机に置いて、僕の対面に腰を下ろした。
「ほら、食べよ。いただきます」
「あ、うん。いただきます」
自然な形で僕らと一緒に卓を囲んだティアちゃんに思うところが無いわけじゃないけれど、今はそれよりも美味しそうなご飯が大事だ。
焼きたてっぽい柔らかいパンに、鮮やかな緑と黄色が目を引くサラダ。そこに湯気が立った良い匂いのスープがセットになっていた。
「んー! おいしぃ……!」
「ピィ!」
「リヒトも夜空も、美味しそうに食べるなぁ。……そんなに美味しい?」
舌鼓を打ちつつ堪能していた僕らを見ながら、少し呆れたような声でティアちゃんがそんなことを訊いてきた。
その問いに対して、僕は間髪入れる事もなく「美味しいよ。毎日食べたいくらい」って答えて、また食事に戻る。だって、美味しいもん。この朝ご飯が毎日ってそりゃ、嬉しいよね。
「そっか……そっかぁ……」
「ティアちゃん? 変な顔してどうかした?」
「べ、べべべつになんでもないよ! ほら、早く食べて! 今日はクエスト受けてみるんでしょ!」
僕の言葉に妙に慌てながら、ティアちゃんは一気に食事を終える。そして、「ごちそうさま!」と言って、そそくさと僕らから離れていった。
「な、何か悪いこと言っちゃったのかな?」
「ピー……」
不安になる僕の横で、夜空がいつもよりも若干低い声で鳴いた。
なんだろう、微妙に夜空も機嫌が悪いような……。
「ど、どうかした……?」
ご機嫌を伺う僕を置いて、夜空は自分の食事を終えたあと、すかさず僕の朝食も食べていく。
慌てて止めようと思った時点では、もう殆どのご飯が夜空のお腹の中に消えていた。
「あ、あぁ……」
「ピィ!」
夜空さんや、胸を張るところじゃないですよ。ああ、僕のご飯……。
◇
夜空にご飯を取られた後、うな垂れつつも僕は冒険者ギルドへと向かっていた。
同行者にはなぜかティアちゃん。どうも冒険者ギルドに用事があるらしい。
「ピー……!」
「ね、ねぇリヒト。なんだか夜空が怖いんだけど」
「なんだか朝食の時から機嫌悪いんだよねぇ……」
ちょうどティアちゃんとご飯の話をしたときくらいから、と伝えると、ティアちゃんの顔が赤く染まる。それに合わせて、夜空がまた低い声で鳴き……ティアちゃんの方を睨みつけるように顔を向けた。
「あ、あのねリヒト……あのご飯、作っ「ピッピィ!」……作ったのわ「ピー! ピッピ!」 夜空ァ!」
「ピー!」
おお、なんだかよく分からないけど、夜空とティアちゃんが戦い始めた。口を閉じさせようと手を伸ばすティアちゃんと、それを回避しつつティアちゃんの腕を翼で叩く夜空。
異種格闘技戦ってこういうのを言うんだっけ? 違ったっけ?
「あ、どちらかというと怪獣大決戦だっけ?」
「誰が怪獣よ! 誰が!」「ピィ! ピッピ!」
「ご、ごめんなさい!」
戦っていたはずの二人(一人と一羽)が、突然結託して僕を責めてくるとは……女の子って怖いなぁ……。片方は男だけど。
そんなこんなしながら歩いていれば、なんとか僕は生きたまま冒険者ギルドに辿り着くことが出来た。
死にそうになっていた原因は、夜空でもティアちゃんでもなく……その二人の声で集まった人の視線だったりはするんだけども。
「それじゃリヒト。私はあっちだから。頑張ってね」
「あ、うん」
入口でティアちゃんと別れて、僕は壁に作ってあるクエストボードに向かった。
そこには朝だというのに、すでに沢山の人がいて……ぶっちゃけ、ボードが全く見えない。自身の身長が低いというのもあるんだけど、そもそもそんなこと関係無いくらいに人が群がっていた。
これじゃひとまずどうしようも無いな……と近くのテーブル席に腰掛け、夜空と遊んでいると、テーブルを挟んで対面に誰か人が座った。
チラッと目だけ向けて見てみれば、なんだかすごい鎧が見えた気がする。ていうか鉄の塊みたいな鎧着てない? え、アレで動けるの? え、すごい。
「なぁ、嬢ちゃん。そう、チラチラ見てくるの止めないか?」
「ひぅっ!? ば、ばば……バレてました?」
「当たり前だろうが。最初は少しこっちを向いた程度だから無視してたけど、最後の方とか最早ほぼガン見だったじゃねぇか」
鎧の人はツルツルとした光る頭についた顔を僕の方に向けて、ちょっとため息交じりにそう言い放った。あと、僕は嬢ちゃんじゃない。でもそんなこと言えるほどに度胸は据わってない……!
「ご、ごめんなさい! ここに来たの昨日が初めてで、その……」
「まぁいいけどよ。あんまし他の奴にするんじゃねぇぞ? 冒険者には器の小せぇ奴が多いからよ」
「ありがとうございます。気を付けます」
器の大きい人で良かった……。やっぱり頭が光ってる人は良い人が多いんだなぁ……。入院してた時の院長先生も、綺麗な頭をしてたけどすごい優しかったし。
そんな風に僕がうんうん唸っていると、唐突に目の前で喧嘩が始まった。どうやら割の良いクエストを巡って、どっちが先に見つけたか、みたいな話をしてる。しかし誰も止めに入らない……結構頻繁にある事なのか、むしろ野次を飛ばして煽ってる人達がいるぐらいだ。
「おいおい、やめねぇか! みっともねぇ!」
誰か止めないのかなーと、静観していた僕の前方から、ナイスミドルな声が響いた。
そう、あの頭がツルツルと光ってる冒険者さんだ。さすが頭が光ってる冒険者さんは違うなぁ……。ちゃんと止めに入るなんて、尊敬してしまいそうだ。
「あぁ? 引っ込んでろハゲ!」
「そうだ! お前は関係ねぇだろハゲ!」
あ、なんかヤバそうな雰囲気がする。いや、きっと頭が光ってる冒険者さんだし、華麗にスルーして見事に場を収めてくれるはずだ。
「だから俺が先だっつってんだろ!」
「俺の方が先だったってんだよ!」
「お、お前ら……!」
「「うるせぇ、ハゲ! 黙ってろ!」」
その瞬間、何かが切れたような音が聞こえた気がする。
こう……ブチィ! って。
「お前ら……! 俺はハゲじゃねぇ! 剃ってんだよ! スキンヘッドなんだよ!」
「うるせえよ、ハゲ!」「ハゲには変わらねぇだろ、ハゲ!」
「ハゲじゃねぇってんだろうが!」
燃えさかる喧嘩の炎が、光り輝く頭に見事に引火。
……あの人にハゲは禁句。気を付けよう。
「あ、リヒトさん。ちょっといいですか?」
「……? なんですか?」
「あなた宛に依頼が来てるの。簡単なクエストだからお願いできないかしら?」
「僕宛ですか? まだ登録して二日目なのに指名とか、おかしくないですか?」
「大丈夫。リヒト君も知ってる人が依頼主だから」
大火災を起こしている喧嘩も気にせず、昨日担当してくれたエスメラルダさんが、僕の傍まで来てそんなことを言ってきた。
依頼主が知ってる人ってことだけど、僕が知ってる人って……まだ数人だよね?
ひとまず詳細を聞くために席を立ち、喧嘩を尻目にカウンターまで移動。そこで僕は、衝撃の事実を知った。
「依頼主って、ブランディさんじゃないですか!」
「はい。今日の朝、ティアさんが依頼をされていかれましたので」
「ああ、なるほど……」
だからティアちゃんは一緒に冒険者ギルドへ来てたのか……。でもこのことを言わなかったってことは、驚かせるつもりだったな!? 僕が先にクエスト受けてたらどうするつもりだったんだろう?
「これ、クエストを受ける時間に期限がありますから、その時間を過ぎたらティアさん自身が動く予定だったのではないでしょうか?」
「そ、そんなところまで根回しを……」
「ふふ。それでどうします? こちらのクエスト、受けてみられますか?」
クエストの内容自体はとても簡単。
“竜の羽休め亭”で荷物を受け取って、門にいる守備隊の隊長“モーガンさん”に荷物を届けるだけの仕事だ。
時間も午前中としか書かれてないし、運ぶものは生ものってことだから……これ、お弁当とかじゃないかな?
まぁ、その分報酬は少なく、本日の夕食代を無料にします、しか書かれていない。完全にお使いの代理だ、コレ!?
「う、ううむ……」
「きっと、初めてクエストを受けると言うことで、クエストの受理や報告なんかの練習をしてもらいたいのかもしれませんね。こういったお使い系クエストは、街の外から素材を取ってきたり、他の街へ届けたりと、沢山種類はありますが、やっていただくことはどれも似ているので、初めて受けるクエストとしては、勉強になるかと思いますよ」
「わかりました。それじゃあこれ、受けます。わざわざティアちゃん達も準備してくれたわけですし」
「はい、かしこまりました。それじゃ、まずはカードを出してもらえますか?」
「はい」と言いながら、空間収納に手を突っ込んで、真っ白なカードを取り出し、手渡す。そして、エスメラルダさんがそのカードを依頼書に重ねると、カードが一瞬光った。
「これで、このクエストを受けた事になります。今度からは、依頼を受ける際にクエストボードから依頼書を剥がして、受付まで持ってきてくださいね」
「はい。わかりました」
「クエストの登録が終わると、ギルドの方からクエストに必要な物をお渡しする場合があります。今回であれば、こちらの紙ですね。こちらの紙を持って“竜の羽休め亭”のブランディさんを訪ねてください」
渡された紙を見てみれば、依頼者のサインを求める箇所があった。それと、荷物を渡す予定のモーガンさんのサインが必要な箇所も。
つまり、これが荷物を受け取った、手渡したという確認用の書類になるんだろう。
「今回は、モーガンさんからサインを頂いたら、この紙をギルドにお持ちください。こちらで確認させていただいて、クエスト達成の認書をお渡し致します。報酬はそれをブランディさんへ見せると貰えると思いますよ」
「なるほど……」
今回のクエストは、達成報告がギルドだけど、達成報告が依頼主になる場合や、届け先になる場合もあるらしい。
もちろん、依頼主に全く会わず、ギルドだけで完結する仕事もあるらしいので、同じお使い系クエストだとしても、よく依頼書を読んで行動しないといけないみたいだ。
「それでは、初クエスト頑張ってきてくださいね!」
「はい。ありがとうございます!」
「ピ!」
僕に合わせて鳴いてくれた夜空に、エスメラルダさんも癒やされたのか表情柔らかく微笑んでくれた。
エスメラルダさんの前では全然機嫌悪くないんだけど、ティアちゃんの前ではなんであんなに機嫌が悪くなったんだろう?
よくわかんないなぁ……。
夜空の機嫌の上下に首を傾げつつ、ギルドの扉をくぐり抜ける。
ちなみに、あの喧嘩は未だに続いていた。……一番怒ってるのが光り輝く頭の人なんだけど、どうしてそうなった。
◇
「はい。じゃあコレをモーガンさんのところにお願いね」
その言葉と一緒に、パンや、お皿に入ったサラダを入れてあるカゴを受け取り、サインを貰う。
そして、宿を出る前に、僕は忘れそうになってた言葉を伝えた。
「あの、わざわざクエストを準備してくれて、ありがとうございました!」
「いいのよ。実際、門まで行くのは時間がかかるからね。お昼前はティアに手伝って貰いたいこともあったし……」
「なら良いんですが……」
「気にしないで。行ってらっしゃい。モーガンさんによろしくね」
「はい!」
最後に夜空が「ピー!」と鳴いたのを聞いてから、僕は宿を出た。
モーガンさんのいる門へは、宿の前の道をまっすぐ行けばいいみたいだし……のんびり向かうかな!
「ピッピピー」
「夜空、ご機嫌だねぇ」
「ピー」
僕の頭に乗って気持ちよく鳴いていたり、時折頭の周りを回ったり、横を一緒に飛んでくれたり。なんだかすごい楽しそうだなぁ……。そういえば夜空と二人(一人と一羽)っきりになるのは、宿の部屋とか朝食とかギルドとか以外では二日ぶりなんだっけ?
もしかすると、こうして二人だけで歩くのが楽しいのかも。
「モーガンさんに荷物届けたらどうしようか? 他のクエストでも受けてみる?」
「ピー……」
「あんまり気乗りしない感じ? 気になることがあるの?」
「ピ!」
門へと向かう道中、夜空の気持ちを確認してみると、どうやら僕の身体能力的なところに不安があるらしい。
僕自身も、まだ完全に歩くこととかに慣れたわけじゃないけど……。
「でも確かに、素材を取ってきたりとか……状況によっては戦ったりとかするかもしれないしね。もう少し街の中で訓練とかした方がいいのかも」
「ピィピィ」
どうやらその意見には賛成ってことらしい。
でも訓練か……。折角会うんだし、モーガンさんに聞いてみようかな?
戦い方とか、素材の集め方なんかはギルドで聞いて見てもいいし……よし!
「じゃあ、今日のお昼からなにかしらの訓練に当てよう!」
「ピィ!」
頑張ろう! と僕が強く手を握ると、夜空もなんだか真似をするみたいにグッと力を入れた。
やる気になってくれるのは嬉しいんですが……夜空さん、肩に爪が食い込むので、少し力を抜いてくれると嬉しいです。はい。
のんびり窓の外を眺めながら、この三日ほどの出来事を振り返っていた僕の前に、香ばしい匂いの料理が載ったプレートが置かれる。そして、小さいお皿が夜空の前にも。
僕らの料理を運び終わったティアちゃんは、さらにプレートをひとつ机に置いて、僕の対面に腰を下ろした。
「ほら、食べよ。いただきます」
「あ、うん。いただきます」
自然な形で僕らと一緒に卓を囲んだティアちゃんに思うところが無いわけじゃないけれど、今はそれよりも美味しそうなご飯が大事だ。
焼きたてっぽい柔らかいパンに、鮮やかな緑と黄色が目を引くサラダ。そこに湯気が立った良い匂いのスープがセットになっていた。
「んー! おいしぃ……!」
「ピィ!」
「リヒトも夜空も、美味しそうに食べるなぁ。……そんなに美味しい?」
舌鼓を打ちつつ堪能していた僕らを見ながら、少し呆れたような声でティアちゃんがそんなことを訊いてきた。
その問いに対して、僕は間髪入れる事もなく「美味しいよ。毎日食べたいくらい」って答えて、また食事に戻る。だって、美味しいもん。この朝ご飯が毎日ってそりゃ、嬉しいよね。
「そっか……そっかぁ……」
「ティアちゃん? 変な顔してどうかした?」
「べ、べべべつになんでもないよ! ほら、早く食べて! 今日はクエスト受けてみるんでしょ!」
僕の言葉に妙に慌てながら、ティアちゃんは一気に食事を終える。そして、「ごちそうさま!」と言って、そそくさと僕らから離れていった。
「な、何か悪いこと言っちゃったのかな?」
「ピー……」
不安になる僕の横で、夜空がいつもよりも若干低い声で鳴いた。
なんだろう、微妙に夜空も機嫌が悪いような……。
「ど、どうかした……?」
ご機嫌を伺う僕を置いて、夜空は自分の食事を終えたあと、すかさず僕の朝食も食べていく。
慌てて止めようと思った時点では、もう殆どのご飯が夜空のお腹の中に消えていた。
「あ、あぁ……」
「ピィ!」
夜空さんや、胸を張るところじゃないですよ。ああ、僕のご飯……。
◇
夜空にご飯を取られた後、うな垂れつつも僕は冒険者ギルドへと向かっていた。
同行者にはなぜかティアちゃん。どうも冒険者ギルドに用事があるらしい。
「ピー……!」
「ね、ねぇリヒト。なんだか夜空が怖いんだけど」
「なんだか朝食の時から機嫌悪いんだよねぇ……」
ちょうどティアちゃんとご飯の話をしたときくらいから、と伝えると、ティアちゃんの顔が赤く染まる。それに合わせて、夜空がまた低い声で鳴き……ティアちゃんの方を睨みつけるように顔を向けた。
「あ、あのねリヒト……あのご飯、作っ「ピッピィ!」……作ったのわ「ピー! ピッピ!」 夜空ァ!」
「ピー!」
おお、なんだかよく分からないけど、夜空とティアちゃんが戦い始めた。口を閉じさせようと手を伸ばすティアちゃんと、それを回避しつつティアちゃんの腕を翼で叩く夜空。
異種格闘技戦ってこういうのを言うんだっけ? 違ったっけ?
「あ、どちらかというと怪獣大決戦だっけ?」
「誰が怪獣よ! 誰が!」「ピィ! ピッピ!」
「ご、ごめんなさい!」
戦っていたはずの二人(一人と一羽)が、突然結託して僕を責めてくるとは……女の子って怖いなぁ……。片方は男だけど。
そんなこんなしながら歩いていれば、なんとか僕は生きたまま冒険者ギルドに辿り着くことが出来た。
死にそうになっていた原因は、夜空でもティアちゃんでもなく……その二人の声で集まった人の視線だったりはするんだけども。
「それじゃリヒト。私はあっちだから。頑張ってね」
「あ、うん」
入口でティアちゃんと別れて、僕は壁に作ってあるクエストボードに向かった。
そこには朝だというのに、すでに沢山の人がいて……ぶっちゃけ、ボードが全く見えない。自身の身長が低いというのもあるんだけど、そもそもそんなこと関係無いくらいに人が群がっていた。
これじゃひとまずどうしようも無いな……と近くのテーブル席に腰掛け、夜空と遊んでいると、テーブルを挟んで対面に誰か人が座った。
チラッと目だけ向けて見てみれば、なんだかすごい鎧が見えた気がする。ていうか鉄の塊みたいな鎧着てない? え、アレで動けるの? え、すごい。
「なぁ、嬢ちゃん。そう、チラチラ見てくるの止めないか?」
「ひぅっ!? ば、ばば……バレてました?」
「当たり前だろうが。最初は少しこっちを向いた程度だから無視してたけど、最後の方とか最早ほぼガン見だったじゃねぇか」
鎧の人はツルツルとした光る頭についた顔を僕の方に向けて、ちょっとため息交じりにそう言い放った。あと、僕は嬢ちゃんじゃない。でもそんなこと言えるほどに度胸は据わってない……!
「ご、ごめんなさい! ここに来たの昨日が初めてで、その……」
「まぁいいけどよ。あんまし他の奴にするんじゃねぇぞ? 冒険者には器の小せぇ奴が多いからよ」
「ありがとうございます。気を付けます」
器の大きい人で良かった……。やっぱり頭が光ってる人は良い人が多いんだなぁ……。入院してた時の院長先生も、綺麗な頭をしてたけどすごい優しかったし。
そんな風に僕がうんうん唸っていると、唐突に目の前で喧嘩が始まった。どうやら割の良いクエストを巡って、どっちが先に見つけたか、みたいな話をしてる。しかし誰も止めに入らない……結構頻繁にある事なのか、むしろ野次を飛ばして煽ってる人達がいるぐらいだ。
「おいおい、やめねぇか! みっともねぇ!」
誰か止めないのかなーと、静観していた僕の前方から、ナイスミドルな声が響いた。
そう、あの頭がツルツルと光ってる冒険者さんだ。さすが頭が光ってる冒険者さんは違うなぁ……。ちゃんと止めに入るなんて、尊敬してしまいそうだ。
「あぁ? 引っ込んでろハゲ!」
「そうだ! お前は関係ねぇだろハゲ!」
あ、なんかヤバそうな雰囲気がする。いや、きっと頭が光ってる冒険者さんだし、華麗にスルーして見事に場を収めてくれるはずだ。
「だから俺が先だっつってんだろ!」
「俺の方が先だったってんだよ!」
「お、お前ら……!」
「「うるせぇ、ハゲ! 黙ってろ!」」
その瞬間、何かが切れたような音が聞こえた気がする。
こう……ブチィ! って。
「お前ら……! 俺はハゲじゃねぇ! 剃ってんだよ! スキンヘッドなんだよ!」
「うるせえよ、ハゲ!」「ハゲには変わらねぇだろ、ハゲ!」
「ハゲじゃねぇってんだろうが!」
燃えさかる喧嘩の炎が、光り輝く頭に見事に引火。
……あの人にハゲは禁句。気を付けよう。
「あ、リヒトさん。ちょっといいですか?」
「……? なんですか?」
「あなた宛に依頼が来てるの。簡単なクエストだからお願いできないかしら?」
「僕宛ですか? まだ登録して二日目なのに指名とか、おかしくないですか?」
「大丈夫。リヒト君も知ってる人が依頼主だから」
大火災を起こしている喧嘩も気にせず、昨日担当してくれたエスメラルダさんが、僕の傍まで来てそんなことを言ってきた。
依頼主が知ってる人ってことだけど、僕が知ってる人って……まだ数人だよね?
ひとまず詳細を聞くために席を立ち、喧嘩を尻目にカウンターまで移動。そこで僕は、衝撃の事実を知った。
「依頼主って、ブランディさんじゃないですか!」
「はい。今日の朝、ティアさんが依頼をされていかれましたので」
「ああ、なるほど……」
だからティアちゃんは一緒に冒険者ギルドへ来てたのか……。でもこのことを言わなかったってことは、驚かせるつもりだったな!? 僕が先にクエスト受けてたらどうするつもりだったんだろう?
「これ、クエストを受ける時間に期限がありますから、その時間を過ぎたらティアさん自身が動く予定だったのではないでしょうか?」
「そ、そんなところまで根回しを……」
「ふふ。それでどうします? こちらのクエスト、受けてみられますか?」
クエストの内容自体はとても簡単。
“竜の羽休め亭”で荷物を受け取って、門にいる守備隊の隊長“モーガンさん”に荷物を届けるだけの仕事だ。
時間も午前中としか書かれてないし、運ぶものは生ものってことだから……これ、お弁当とかじゃないかな?
まぁ、その分報酬は少なく、本日の夕食代を無料にします、しか書かれていない。完全にお使いの代理だ、コレ!?
「う、ううむ……」
「きっと、初めてクエストを受けると言うことで、クエストの受理や報告なんかの練習をしてもらいたいのかもしれませんね。こういったお使い系クエストは、街の外から素材を取ってきたり、他の街へ届けたりと、沢山種類はありますが、やっていただくことはどれも似ているので、初めて受けるクエストとしては、勉強になるかと思いますよ」
「わかりました。それじゃあこれ、受けます。わざわざティアちゃん達も準備してくれたわけですし」
「はい、かしこまりました。それじゃ、まずはカードを出してもらえますか?」
「はい」と言いながら、空間収納に手を突っ込んで、真っ白なカードを取り出し、手渡す。そして、エスメラルダさんがそのカードを依頼書に重ねると、カードが一瞬光った。
「これで、このクエストを受けた事になります。今度からは、依頼を受ける際にクエストボードから依頼書を剥がして、受付まで持ってきてくださいね」
「はい。わかりました」
「クエストの登録が終わると、ギルドの方からクエストに必要な物をお渡しする場合があります。今回であれば、こちらの紙ですね。こちらの紙を持って“竜の羽休め亭”のブランディさんを訪ねてください」
渡された紙を見てみれば、依頼者のサインを求める箇所があった。それと、荷物を渡す予定のモーガンさんのサインが必要な箇所も。
つまり、これが荷物を受け取った、手渡したという確認用の書類になるんだろう。
「今回は、モーガンさんからサインを頂いたら、この紙をギルドにお持ちください。こちらで確認させていただいて、クエスト達成の認書をお渡し致します。報酬はそれをブランディさんへ見せると貰えると思いますよ」
「なるほど……」
今回のクエストは、達成報告がギルドだけど、達成報告が依頼主になる場合や、届け先になる場合もあるらしい。
もちろん、依頼主に全く会わず、ギルドだけで完結する仕事もあるらしいので、同じお使い系クエストだとしても、よく依頼書を読んで行動しないといけないみたいだ。
「それでは、初クエスト頑張ってきてくださいね!」
「はい。ありがとうございます!」
「ピ!」
僕に合わせて鳴いてくれた夜空に、エスメラルダさんも癒やされたのか表情柔らかく微笑んでくれた。
エスメラルダさんの前では全然機嫌悪くないんだけど、ティアちゃんの前ではなんであんなに機嫌が悪くなったんだろう?
よくわかんないなぁ……。
夜空の機嫌の上下に首を傾げつつ、ギルドの扉をくぐり抜ける。
ちなみに、あの喧嘩は未だに続いていた。……一番怒ってるのが光り輝く頭の人なんだけど、どうしてそうなった。
◇
「はい。じゃあコレをモーガンさんのところにお願いね」
その言葉と一緒に、パンや、お皿に入ったサラダを入れてあるカゴを受け取り、サインを貰う。
そして、宿を出る前に、僕は忘れそうになってた言葉を伝えた。
「あの、わざわざクエストを準備してくれて、ありがとうございました!」
「いいのよ。実際、門まで行くのは時間がかかるからね。お昼前はティアに手伝って貰いたいこともあったし……」
「なら良いんですが……」
「気にしないで。行ってらっしゃい。モーガンさんによろしくね」
「はい!」
最後に夜空が「ピー!」と鳴いたのを聞いてから、僕は宿を出た。
モーガンさんのいる門へは、宿の前の道をまっすぐ行けばいいみたいだし……のんびり向かうかな!
「ピッピピー」
「夜空、ご機嫌だねぇ」
「ピー」
僕の頭に乗って気持ちよく鳴いていたり、時折頭の周りを回ったり、横を一緒に飛んでくれたり。なんだかすごい楽しそうだなぁ……。そういえば夜空と二人(一人と一羽)っきりになるのは、宿の部屋とか朝食とかギルドとか以外では二日ぶりなんだっけ?
もしかすると、こうして二人だけで歩くのが楽しいのかも。
「モーガンさんに荷物届けたらどうしようか? 他のクエストでも受けてみる?」
「ピー……」
「あんまり気乗りしない感じ? 気になることがあるの?」
「ピ!」
門へと向かう道中、夜空の気持ちを確認してみると、どうやら僕の身体能力的なところに不安があるらしい。
僕自身も、まだ完全に歩くこととかに慣れたわけじゃないけど……。
「でも確かに、素材を取ってきたりとか……状況によっては戦ったりとかするかもしれないしね。もう少し街の中で訓練とかした方がいいのかも」
「ピィピィ」
どうやらその意見には賛成ってことらしい。
でも訓練か……。折角会うんだし、モーガンさんに聞いてみようかな?
戦い方とか、素材の集め方なんかはギルドで聞いて見てもいいし……よし!
「じゃあ、今日のお昼からなにかしらの訓練に当てよう!」
「ピィ!」
頑張ろう! と僕が強く手を握ると、夜空もなんだか真似をするみたいにグッと力を入れた。
やる気になってくれるのは嬉しいんですが……夜空さん、肩に爪が食い込むので、少し力を抜いてくれると嬉しいです。はい。
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