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屋内デートの話
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「あなたがもし明日死ぬとしたら、あなたは今日何をしたい?」
唐突に彼女がそんなことを言い出した。
デートというよりも、最早定番となった我が家での屋内デート中のことである。
明日死ぬって言われると、何か悪いことでもやってしまったのだろうか……と思いたくもなるが、彼女の性格を知っている自分からすると、これはいつものことである。
何かをやったわけではなく、何もないからこそ、彼女は訊いてきたのだ。
「そうか、明日死ぬとしたら、か」
「そう。明日死ぬとしたら、あなたは何をしたい?」
真っ先に思い付くのは、やはり好きなモノを食べて、楽しい思い出を作って……あと、親に感謝?
しかし、そういう意図ではない質問なのは、彼女が問うているという状況から、すぐにわかること。
つまり、彼女はこう言いたいのだ。
――暇だから、これから何かしない? と。
「そうだな。とりあえず、お前にハグかな?」
「ケダモノ」
「ケダモノでも構わないよ。だって、明日死ぬんだろ? だったら最後の日くらい、大切な彼女の抱き心地を堪能しておきたいじゃないか」
「そう……じゃあ、ん」
どうぞ、と言わんばかりに両腕を広げてくれる彼女に、俺は勢いよく抱きつく。
ああ、いい匂いと柔らかな感触……。
「それから?」
「そうだな。押し倒して……」
「それ以上はダメ」
「そうか。だったらとりあえずキスくらいはさせてくれないか?」
「それなら」
目を閉じてくれた彼女に、俺はゆっくり顔を近づけ、唇と唇をくっつける。
軽いフレンチキス。
しかし、男がそんなもので終われるわけがない!
いただきます!
「ダメ」
「oh……」
両手で顔を引っ剥がされたので、仕方なく身体を起こす。
しかしなんだ、ここまで誘ってる風を装いつつも、一線を越えさせないのは中々酷いものだと思わないか?
「仕方ないよ。これ以上はダメ」
「そう、だな」
彼女は部屋の中ではにかむように笑う。
その笑顔が、俺は何よりも大好きだった。
朱に染まる頬も、照れると下がる目尻も、何もかもが可愛らしい。
「あ、そろそろ時間だ」
落ち着いてから一時間程経って、彼女は突然そんなことを言う。
「もうなのか?」
「うん。あんまり遅いと、お母さんが心配しちゃうから」
「そうか。それじゃ仕方ないな。送っていくよ」
「いいよ、全然。じゃあまたね」
「ああ、またな」
背中を見せていた扉が閉まり、夕日が差し込んでいたはずの部屋が黒に染まる。
突如耳元で鳴る、目覚ましの音。
その音を聞きながら、俺はゆっくりと目を開いた。
「……また、はいつ来るんだろうな」
数年以上も前の記憶。
一生消えることのない面影。
あの日、送らなかった俺に、彼女はいつも問う。
「あなたがもし明日死ぬとしたら、あなたは今日何をしたい?」
と。
彼女の答えは、分からないまま。
唐突に彼女がそんなことを言い出した。
デートというよりも、最早定番となった我が家での屋内デート中のことである。
明日死ぬって言われると、何か悪いことでもやってしまったのだろうか……と思いたくもなるが、彼女の性格を知っている自分からすると、これはいつものことである。
何かをやったわけではなく、何もないからこそ、彼女は訊いてきたのだ。
「そうか、明日死ぬとしたら、か」
「そう。明日死ぬとしたら、あなたは何をしたい?」
真っ先に思い付くのは、やはり好きなモノを食べて、楽しい思い出を作って……あと、親に感謝?
しかし、そういう意図ではない質問なのは、彼女が問うているという状況から、すぐにわかること。
つまり、彼女はこう言いたいのだ。
――暇だから、これから何かしない? と。
「そうだな。とりあえず、お前にハグかな?」
「ケダモノ」
「ケダモノでも構わないよ。だって、明日死ぬんだろ? だったら最後の日くらい、大切な彼女の抱き心地を堪能しておきたいじゃないか」
「そう……じゃあ、ん」
どうぞ、と言わんばかりに両腕を広げてくれる彼女に、俺は勢いよく抱きつく。
ああ、いい匂いと柔らかな感触……。
「それから?」
「そうだな。押し倒して……」
「それ以上はダメ」
「そうか。だったらとりあえずキスくらいはさせてくれないか?」
「それなら」
目を閉じてくれた彼女に、俺はゆっくり顔を近づけ、唇と唇をくっつける。
軽いフレンチキス。
しかし、男がそんなもので終われるわけがない!
いただきます!
「ダメ」
「oh……」
両手で顔を引っ剥がされたので、仕方なく身体を起こす。
しかしなんだ、ここまで誘ってる風を装いつつも、一線を越えさせないのは中々酷いものだと思わないか?
「仕方ないよ。これ以上はダメ」
「そう、だな」
彼女は部屋の中ではにかむように笑う。
その笑顔が、俺は何よりも大好きだった。
朱に染まる頬も、照れると下がる目尻も、何もかもが可愛らしい。
「あ、そろそろ時間だ」
落ち着いてから一時間程経って、彼女は突然そんなことを言う。
「もうなのか?」
「うん。あんまり遅いと、お母さんが心配しちゃうから」
「そうか。それじゃ仕方ないな。送っていくよ」
「いいよ、全然。じゃあまたね」
「ああ、またな」
背中を見せていた扉が閉まり、夕日が差し込んでいたはずの部屋が黒に染まる。
突如耳元で鳴る、目覚ましの音。
その音を聞きながら、俺はゆっくりと目を開いた。
「……また、はいつ来るんだろうな」
数年以上も前の記憶。
一生消えることのない面影。
あの日、送らなかった俺に、彼女はいつも問う。
「あなたがもし明日死ぬとしたら、あなたは今日何をしたい?」
と。
彼女の答えは、分からないまま。
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