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ふたつの嘘をつきました
ふたつの嘘をつきました 3
しおりを挟むひと通り洗いものを終え、先ほどまで東さんと談笑していたテーブルの掃除を始めた頃、ドアが開く音がした。
なんと健全なことか。
遊びに行った大助が、ほぼ東さんと入れ違いで帰ってきた。
そんなんなら大助の分も昼食を準備すればよかったと、呑気に思う一方で、少しだけ焦りを覚える。
「大助おかえり、今日はすごく早くない?」
そんな偶然が、――いや、もしかしたら、仕組まれていたのかもしれない――始まりで、終わりだった。
大助は僕の返事に、音もなく、温もりで返す。
「大、助」
突然の行動に、机を拭く手が止まる。
彼はこの、夏の暑い日に、僕を後ろから抱きすくめている。
先ほどまで太陽に当たっていたその服はとても暖かく、クーラーにあたって少し冷えた身体を火照らせる。
……もちろん、その物理的な熱だけでは、なかったけど。
「大助、暑くないの?」
「煙草」
大助は、僕の、誤魔化すような言葉には答えてくれなかった。
それってつまり、この行為は冗談じゃ、ないってこと。
そして、何が彼をそうさせたのか、というのも、彼の言葉から読み取れる。
「あのおまわりさん?」
「そ、そう。パトロールで、時々来てくれて」
「家の中まで?」
囁くような言葉が、聴覚を刺激する。
「……どうしたの、大助」
「あの人、俺に喧嘩売りにきてるよね」
彼の大きな右手が、僕の少し伸びた髪を掬う。
その、ひとつひとつの仕草が、ガラス細工でも扱ってるみたいで。
「暇つぶし、でしょ」
「民人くん、鈍感すぎない?」
指摘されれば、言葉に詰まる。
たしかに、鈍感かもしれない。
だって、僕は。
「まさか、俺の気持ちもわかってなかったなんて、言わないよね?」
今の今まで、確証は持てなかったから。
「……なんだよ、それ」
東さんの煙草の匂いが少しでもすると、大助は機嫌が悪くなる。
煙草が嫌いなわけでは、ないみたい。
東さんという他人が、大助のいない間にこの部屋に入っているのが気に入らないんだ。
「ここは、俺と民人くんだけの家だよ」
「ごめんね、大助。東さん、お仕事頑張ってるから、ついつい休ませてあげたいと思っちゃって」
だって、お前のもとめる僕は、きっとこれくらい純粋なんだから。
「民人くんのそんなところ、好きだけど」
――ほら、ね。
好きって、耳元で囁くように言われたら、もう、僕も我慢できなくて、本当のこと言っちゃいそう。
「困ったな、大助が僕を独り占めしてるみたいで」
でも、彼の前では純粋でいたいんだ。
愛とか、そんな劣情を知らないくらいに、純粋でいたいんだ。
「――独り占め、させてよ」
でも、もう、我慢できない。
これくらいは、許してほしい。
「ちゃんと言ってくれなきゃ、不安だよ」
彼の腕の力が緩まったのを感じて、彼と向き合うように振り向く。
そこには、本当に余裕のない顔をした大助がいた。
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