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第96話 自治の村

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 バルバロス王国南西部の辺境であるダーマス伯爵領がある隣国ヘレネス連邦王国との国境線で両国の緩衝地帯にアイダーノ山脈地帯が存在する。

 その、山脈地帯に今、バルバロス王国側だけが密かに認める自治区が出現していた。

 自治区と言ってもただの村であり、バルバロス王国側も大きな声でこの村を自治区とは宣言していない。

 それは、隣国との緩衝地帯にあることから、相手を刺激しない為である。

 大きな声でうちが認めた自治区です、と宣言しようものなら、隣国との間に戦争が起きかねないのだ。

 バルバロス王国はヘレネス連邦王国と今、揉めるつもりはない。

 現在、バルバロス王国は他の国と国境線について揉めている最中であり、これ以上問題を抱えるつもりがないからだ。

 そんな、国の事情によって、ダーマス伯爵との間で揉めていたこの村、『エルダーロック』は、意図せずに自治区扱いになっていた。

 そんな馬鹿な話があるかと言いたいところだが、国の王子がそう決めたのだ。

 これは、ダーマス伯爵がほぼ騙したと言っていいような『エルダーロック』の村側との契約が元だったが、契約はしっかり結ばれていたので、それを王家が一方的に破棄して売買自体を無くすこともできなかったから、折衷案として両者の了承を得て、契約を結び直した形である。

 だが、これも、ヘレネス連邦王国側が緩衝地帯に勝手に村を作るな! と怒れれば、トラブルの元であったので、ダーマス伯爵と『エルダーロック』の間の問題のある契約に王家はただ仲裁しただけという形をとり、いつでも切ることができるように自治区という扱いにしていた。

 だから、税金も徴収しない。

 ただし、『エルダーロック』側からの自主的な貢物は別であるが。

 まあ、そのような理由で『エルダーロックの村』は、存在を許される形であった。

 それに村の主体となる種族が、ドワーフというのも、穏便に済ませそうな理由ではある。

 人族であったら、完全に領地を広げる為の侵略行為と受け取れられそうだが、差別を受ける種族が行き場を失い国境線の荒れ地に勝手に住みつくのは往々にしてよくあることなのだ。

 人が住めない土地ということで、そのまま放置していても数年後には勝手に滅んでいるということは、どこの国でも国境線ではよくなる事例だったから、有益な土地でもない限り見逃し、税金だけ搾取して滅びるのを静観する形である。

『エルダーロック』の村も元は人が放棄した土地だったから、同じ例になると思われるだろう。

 もちろん、コウの活躍やドワーフ達の逞しさでもって、この土地は短期間で前例のない発展を続けているのであったが。

「バルさんには感謝の意を込めて、技術代金はいくらか負けておきますよ」

 コウはイッテツの鍛冶屋で、バルことオーウェン王子に注文された刀を一振り、製作し仕上げ前の状態のものを渡した。

「なんと美しい……。うん? ちょっと待て……!? これはもしかして……。──セバス、鑑定を」

 バルことオーウェン王子は、コウから渡された刀の白銀に輝くその美しい出来栄えに嘆息すると、鑑定持ちの側近セバスに鑑定をお願いした。

「! こ、これは……!? そんなまさか……。──バル様、この刀の等級は『一』でございます!」

 セバスは自分の目を一瞬疑いながら、主に鑑定結果を報告する。

「え!? 鍛錬は手を抜いたつもりだったのに、魔力込めすぎちゃったかぁ……」

 バルことオーウェン王子が驚く前にコウが驚いてそう漏らす。

 バルことオーウェン王子はコウがふざけた理由で驚くので、自分が驚くタイミングを失うのであったが、改めて驚こうとすると代わりに、

「やっぱりそうだったか……。仕上げの段階でおかしいとは思ったのだ……。──コウ、あれだけ、加減をしっかりしろといっただろ! 注文の品は二等級だ、打ち直すぞ!」

 と師匠であるイッテツが加減をミスったコウのことを先に𠮟りつけることになった。

 だから、また、驚くタイミングを奪われたバルことオーウェン王子は、

「……待て、待て! 一等級だぞ!? 『軍事選定博覧会』でも二等級が最高品質だったのに、これを打ち直すって勿体ないだろう!」

 と完成した一等級の刀を庇うように、打ち直しを断固拒否する姿勢を見せた。

「でも、注文では二等級でしたし、イッテツさんもこう言っているので……」

 コウはやり過ぎたことを反省して、やり直しをするつもりだ。

「いや、いいから! お金はこの一等級に見合う金額をしっかり払う! だから最後までしっかり仕上げてくれ!」

 バルことオーウェン王子は、真剣な顔で打ち直ししようとする二人を説得して、最終仕上げをするように必死に訴えるのであった。


 こうして、刀の製作現場を見せてもらい、さらには注文以上のものを作ってもらったバルことオーウェン王子は、満足な表情を浮かべていた。

「なんと見事な出来よ……。まさか、『軍事選定博覧会』での展示物以上のものが手に入るとはな……。──セバス、報酬を支払ってやってくれ」

 バルことオーウェン王子は、そう言うと、側近のセバスに支払いをお願いする。

「承知しました」

 セバスは主に従うと、魔法収納付き鞄から、小さい袋を一つ出してコウとイッテツの前に置いた。

「え、少なくないですか?」

 コウは沢山のお金が入った袋がドンと置かれると思っていたから、思わずそう応じた。

「はははっ! 早まるな、中身を確かめてみよ」

 バルことオーウェン王子は、笑うとコウとイッテツにそう答える。

 二人は疑問符を頭に浮かべながら、小さい革袋を開いて中を覗き込む。

 するとそこには、たった四枚の見たことがない金貨が入っている。

 ちなみに、こちらの世界の金貨と言えば一枚が、前世では約百万円の価値だ。

 やはり、少ない。

 こう言っては何だが、無名とはいえ、『軍事選定博覧会』で一番だったブランドの一等級製品である。

 今なら、もう数枚価値が付いてもおかしくないはずだ。

 不審な面持ちでコウとイッテツが目を見合わせた。

 傍で黙って見ていたヨースは、二人の不満そうな様子を見て、なぜか笑っている。

「不服そうだな。よく大きさを確認してみよ。──セバス、比較対象に金貨を出して比べさせよ」

 バルことオーウェン王子は、そう言うと、側近に机の上に新たに一枚、金貨を出させた。

 コウとイッテツはその金貨と支払われた金貨四枚を確認する。

 よく見るとデザインが違うし、大きさも全然違う。

「わかったか? それは大金貨だ」

 バルことオーウェン王子は、にやり笑みを浮かべた。

「「大金貨?」」

 コウとイッテツは初めて見る大金貨にオウム返しのように口を揃えて応じる。

 大金貨はつまり、前世でいうところの一枚一千万円の価値がある代物ということだ。

「つまり……、大金貨四枚は……、金貨四十枚(約四千万円)分!?」

 コウはすぐに計算すると驚く。

 イッテツもコウの言葉に停止していた思考が動き出し、驚いた。

「はははっ! そういうことだ。王族の腰に納まる一等級の武器だからな。そのくらいの価値がお互い箔が付き、そっちも高収入で嬉しいだろう?」

 バルことオーウェン王子は、二人の驚く顔を見て笑うと、満足するのであった。
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