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第88話 王子との面会

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 三日間の『軍事選定展覧会』が無事終了した。

 コウ達は目的も果たせたし、すぐにでもエルダーロックの村に帰りたいところではあるが、『軍事選定展覧会』の本来の目的、それは仕事の受注である。

 通常、『軍事選定展覧会』で評価されたブランド商会に仕事を依頼すべく、展覧会事務局を通して、各騎士団や戦士団、傭兵団に個人の冒険者などまで、色々な層から面会を申し出られることがある。

 そして、老舗から無名ブランドまで数日待機して事務局の連絡を待つこともざらだ。

 ただし、拠点が王都周辺にあってすぐに連絡がつくブランド商会は待たないことも多い。

 コウとイッテツの『コウテツ』ブランドを代理で扱う『マウス総合商会』の代表こと大鼠族のヨースは基本的に無名ブランドだし待つ側だが、素直に待つつもりはなかった。

 待つ側に回ると、自分が大鼠族である以上、人間の依頼者と駆け引きする場合、何かと交渉において不利になりやすい。

 要は異種族の時点で舐められやすいからだ。

 だから、今回の事務局を通しての面会要求は全て断ることにした。

 まあ、コウとイッテツの二人しか職人がいない『コウテツ』ブランドとしては、オーダーメイドでしか作れないこともある。

 ただし、一人だけ断れそうにないので、面会を承諾している相手はいた。

 それが、このバルバロス王国のもっとも高いところにいる人物である。

「オーウェン第三王子殿下……かぁ。──ヨース、何か情報はないの?」

 コウは宿屋の一室で、面会を断れなかった相手の情報をヨースに改めて聞く。

「俺が何でも知っていると思うなよ? 相手は王族だからな、そう易々と情報が得られるかよ。あ、でも、確かオーウェン王子殿下は──」

 ヨースが、何かをコウに伝えようとすると、部屋の扉をノックする音がした。

「はい?」

 コウがダークエルフの友人ララノアか村長の娘で同じく友人のカイナだと思って気の抜けた返事をした。

「お客様、王家の使者を名乗る方がお越しになられていますが、どういたしましょうか?」

 と宿屋の主人が少し慌てた声色で扉越しに声をかけてきた。

「「あ!」」

 コウとヨースはすぐに誰の使者かはすぐに思い浮かんだが、やはり驚かずにはいられない。

「すぐに、行きます!」

 コウは慌てて身だしなみを整えると、ヨースと共に下の階へと向かうのであった。


「『コウテツ』ブランドの代理である『マウス総合商会』のコウ殿で間違いないでしょうか?」

 使者は前日飲んだお酒の臭いをさせている少年姿のコウと一緒にいる大鼠族の組み合わせに主から聞いた特徴に合うものの、こんな者達で大丈夫なのかと心配になりながら確認する。

「はい」

 コウは使者が怪訝な表情をしているので、お酒の臭いをさせる少年と大鼠族相手だとそうもなるかと思い、返事をすると宿屋の主人にお水をお願いし、持ってきてもらった杯の中身をすぐに飲み干した。

「……主から今日の正午に第一大広場南通りにある料亭『金獅子』で会食するとのことです。よろしいですか?」

「は、はい! わかりました!」

 コウは使者の言った言葉を頭で復唱すると返事をする。

「それでは後ほど」

 使者はそう言うと、表に止まっている馬車に乗り込むと去っていく。

「本当に来たね……」

 コウが本当は来て欲しくなかった使者が来たことに思わず、本音を漏らす。

「相手は王子。極力失礼がないように、そして、下手なことは言わないように気を付けろよ? 俺達が口を利くのは憚れる相手だから王子殿下への応答は側近に確認する方がいいかもしれない」

 ヨースが自分の持ち合わせている知識を引っ張り出してコウにアドバイスをしておく。

「う、うん。わかった。そうするよ」

 コウもヨースの緊張する素振りから、ようやくとんでもない相手と会うということを自覚するのであった。


 第一大広場南通りにある料亭『金獅子』。

 コウとヨースと剣歯虎《サーベルタイガー》のベルは、ララノアとカイナを宿屋に待たせて二人と一頭で面会場所を訪れていた。

 お店の従業員に名前を名乗ると、少し驚いた様子でコウとヨース、そして剣歯虎ベルを奥に通してくれる。

 後から聞いた話だとこの料亭『金獅子』は普段、上級貴族御用達のお店でお忍びで王族も使用する名店なのだという。

 そんなところに、平民ぽい少年に大鼠族、従魔の組み合わせは異様に映っていたようである。

 その『金獅子』の敷地は庭も併せたら、数店舗のお店が入る程の広さだ。

 奥の部屋の作りは一見地味で渋めだが、よく見ると一流職人の繊細な仕事がなされている柱や壁、扉、装飾品などであり、ヨースはしきりに「これは凄い……!」と漏らしながら席についてきょろきょろ見回していた。

 そこに、

「お客様がおいでになりました」

 と従業員から知らせが来る。

 二人は席から立って出向かえた。

 入ってきたのは前日に会ったオーウェン第三王子その人である。

 代理を立てるわけでもなく本人自ら交渉するということだろうか?

 傍には側近と思わる男性と前日もいた護衛の騎士二人がいる。

「──そっちの大鼠族は誰だ?」

 オーウェン王子は挨拶をすることなく、視界に入ってきたヨースに気づいて問うた。

 前日の展覧会ではヨースは衝立越しに隠れていたから、初見なのだ。

 その言葉に反応するように護衛の騎士二人が王子の前に出て警戒する素振りを見せる。

「すみません。こちらはヨース、『コウテツ』ブランドを扱う『マウス総合商会』の代表です。実は僕、その護衛役であって責任者でも何でもないんです」

 コウは慌てて謝ると、事情を説明した。

「……そういうことか。まあ、いい。二人とも座るがいい。食事をしながら話そう」

 オーウェン王子はあっさりそう答えると、奥の席にドカッと座り、側近にいくつか注文をさせる。

「ついでにお前達の分も注文してやろう。私の奢りだから安心しろ」

 オーウェン王子はそう告げると、早速、用件に入るのであった。


「コウ、お前の身の上話を聞かせろ。雑種だということはすでに知っている。お前はそっちの大鼠族、ヨースの護衛だというが、製作者もしくはその関係者だろう?」

 オーウェン王子はぶっきら棒に鋭い指摘をする。

「……僕は確かに王子殿下のおっしゃられるなのかもしれませんが、誇りを持っています。とはいえそんな僕にもこの王都では生きづらい土地なのも事実ですので、わざわざそれを打ち明けるつもりはありません」

 コウは王子の真意がわからない以上、わざと噛みつくように答えることで製作者である事実には答えない。

「小僧、王子殿下の質問に答えぬか……!」

 護衛騎士はそんなコウの態度に怒るように応じた。

「カイン、その高圧的な演技はもうよい。下がっていよ」

 オーウェン王子は護衛騎士になにかしらの役割を与えているのかそう指摘する。

 すると護衛騎士のカインは先程までの怒りが嘘のように、すっと冷静沈着な面持ちに変化し、静かになった。

「……今日は仕事のお話だと思っていたのですが、目的はなんでしょうか?」

 コウはオーウェン王子の真意がわからず、目的を問いただす。

「そうだな……。そろそろ料理が来るだろうから、そのあとにしよう」

 オーウェン王子がそう告げると、タイミングよく扉がノックされて、料理を手にした従業員達が入ってくるのであった。
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