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108死亡フラグと新たなフラグの話
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「この戦争が終わったら結婚しよう。必ず生きて帰ってくる」
想い人の兵士に告白されて、靴職人は顔を真っ赤にしながら頷いた。
生きて帰ってきますようにと、心を込めて作った靴を彼に渡して、戦の収束を願った。
一月後、雪が降り始め寒々しい景色と同化した森の家を尋ねてきたのは、想い人ではなく別の兵士だった。
ボロボロになった靴を持って、彼は沈んだ声で告げる。
「アイツは死んだ」
「……嘘だ」
「嘘じゃない。俺の目の前で死んだんだ」
膝から崩れ落ちる。靴は確かに、靴職人が贈った物に間違いない。
半分千切れた靴を呆然と受け取る。
「遺体は持ってこれなかった……せめて墓を作ってやりたい」
兵士の言葉で気力を振り絞り、森の狭間に墓を建てた。
「なぜ死んでしまったんだ……」
涙が止まらない靴職人の肩に、兵士は手を置く。
「アイツからの遺言だ。俺にお前を見守ってほしいらしい」
兵士は靴職人の隣の空き家を改築し、用心棒として村に住み着いた。
落ち込む靴職人の様子を見守り、なにくれとなく世話を焼く。
気落ちしていた靴職人も、春の訪れと共にだんだん笑えるようになっていった。
「ありがとう、もう見守らなくても一人で立てるよ」
「いや、まだ心配だ。もう少しこの村にいよう」
用心棒は村に馴染み、三年の月日が経った。
雪が降りしきる森の縁に立ち、こんな寒い日でも見回りを欠かさない彼に、差し入れの飲み物を配った。
「流石にもう大丈夫だよ」
「この村が気に入ったんだ。永住しようと思う」
「故郷に帰らなくていいのか?」
「そんなものはもうない。戦争で全てなくなってしまった」
ハッと顔を上げる。
靴職人は自分の悲しみにばかり囚われて、用心棒が同じように喪う悲しみを経験していることに、考えが及ばなかった。
「すまない……失礼なことを聞いてしまった」
「いや、いい。私には第二の故郷があるからな。これからはこの村を守っていきたい」
そう言って柔らかく笑った彼の表情は、目が離せないほどに印象的で。
心の深いところに、とすん、と刺さった。
初めて目の前の彼をまともに見たように思う。
「……そうか。いいね」
今までのお礼と、これからもよろしくの気持ちを込めて、靴を贈ろうと思った。
靴職人が自覚しないくらいに、小さく芽吹いた恋の種は、春の訪れを待ち侘びている。
想い人の兵士に告白されて、靴職人は顔を真っ赤にしながら頷いた。
生きて帰ってきますようにと、心を込めて作った靴を彼に渡して、戦の収束を願った。
一月後、雪が降り始め寒々しい景色と同化した森の家を尋ねてきたのは、想い人ではなく別の兵士だった。
ボロボロになった靴を持って、彼は沈んだ声で告げる。
「アイツは死んだ」
「……嘘だ」
「嘘じゃない。俺の目の前で死んだんだ」
膝から崩れ落ちる。靴は確かに、靴職人が贈った物に間違いない。
半分千切れた靴を呆然と受け取る。
「遺体は持ってこれなかった……せめて墓を作ってやりたい」
兵士の言葉で気力を振り絞り、森の狭間に墓を建てた。
「なぜ死んでしまったんだ……」
涙が止まらない靴職人の肩に、兵士は手を置く。
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兵士は靴職人の隣の空き家を改築し、用心棒として村に住み着いた。
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気落ちしていた靴職人も、春の訪れと共にだんだん笑えるようになっていった。
「ありがとう、もう見守らなくても一人で立てるよ」
「いや、まだ心配だ。もう少しこの村にいよう」
用心棒は村に馴染み、三年の月日が経った。
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「流石にもう大丈夫だよ」
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「いや、いい。私には第二の故郷があるからな。これからはこの村を守っていきたい」
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初めて目の前の彼をまともに見たように思う。
「……そうか。いいね」
今までのお礼と、これからもよろしくの気持ちを込めて、靴を贈ろうと思った。
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