ツイノベ倉庫〜1000文字程度の短編集

44.恋の咲く花の話

俺は出歩くことを禁じられた夜の学園で、暗視魔法を使ってまである花を探し求めていた。

(くそっ、ないぞ……どこにあるんだ、恋が叶う花は！）

三年に一度だけ咲く花を手に入れた者は、婚約者など関係なく恋した相手と結ばれることが認められる。

陰険年増侯爵に無理やり婚約させられた俺は、どうしても奴から逃れたかった。

誰でもいいから恋の花の作用で、俺に恋をしてくれっ、お願いだ……っ！

祈るような気持ちで庭園を探し歩く。

「あ、あれは……！」

仄かに光る鱗粉は、あの形状は間違いない！　幻の恋の花だ！

近づいて茎ごとむしりとったところで、眩しい光を浴びせられた。

「何をしている！」
「あ、生徒会長……！」

なぜこんなところに？　それよりも、花を隠さなければ。

「それはなんだ、花か？」
「あっ」

まずい、見られてしまった。
もし生徒会長が誰かに恋をしていたら、彼の恋が叶ってしまう。

もし好きな人がいない者同士が同時に花を見れば、その場で恋に落ちることがあるらしいが……

彼の反応をドキドキしながら待っていると、生徒会長は突然跪いた。

「君が好きだ、どうかつきあってくれないか」

こうして俺は陰険侯爵とおさらばし、生徒会長と新たに婚約を結ぶことができた。

悪いことをしたと後悔している。

生徒会長には元々婚約者がいたのだ。

愛しあってはいなかったようだが、人の物を奪ってしまったようで気まずい。

「どうしたの？　眉間に皺が寄ってる顔も可愛いね」

甘い言葉を囁き真摯に愛してくれる生徒会長を、いつしか俺は本気で好きになっていた。

けれどこれは作られた気持ちの、偽物の恋だ。

恋の花の期限は三年で終わるらしい。
きっと三年後には俺は振られてしまうだろう。

そう思って暮らしていたのに……三年後、改めてプロポーズをされて俺は目を剥いた。

「期間限定の恋じゃなかったのか？」
「私は元から君のことが好きだったんだよ。だからあの日、夜の学園に思い詰めた様子で向かった君を追いかけたんだ。恋の花を摘んだ君を手に入れるためにね」

どうやら両思いだったらしい。俺は喜んで彼の腕に飛び込んだ。

いつしか恋が愛に変わる程の月日が経っても、俺たちは隣に寄り添っている。