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終章 旅の終わりと新たな決意

これから メイヴィル編

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 宿に戻って、食堂で夕食を食べた。隆臣さんやアルトさん、それにレオの話はするものの、この先のことについては誰もが触れずに食事を終える。

 どうやら日本には帰れないみたいってこともサラッと話したのに、不自然なくらい何も聞かれない……きっと三人とも船で話したことを覚えていて、俺が告白の返事をどうするのか待ってくれているんだね。

 俺が最後に食べ終えたみたいで、空になった食器の上に木のさじを置いた。チラリと気になる彼を窺う。
 メレは優雅な手つきでナフキンを使い口元を拭いていた。隣から視線を感じて振り向くと、クロノスと視線が交錯する。

「クロノス……この後話があるんだけど、時間もらっていいかな?」

 クロノスは、慣れ親しんだ優しげな微笑を口元に乗せて頷いた。

「ええ、もちろん構いません」
「待てよ、スバル!」

 クロノスが応えると間髪入れずにヘルが立ち上がって叫ぶ。メレがヘルの肩を掴んで、まあまあまあと宥めながら椅子に戻らせた。

「アンタにはこれから、アタシのヤケ酒につきあってもらうんだから。アンタだって飲みたい気分でしょ?」
「誰が……っ、離せ! 俺はテメーじゃなくてスバルに用があんだよ!!」
「えっ、メレはヘルとお酒飲みに行っちゃうの? 俺、クロノスの後でメレにも話したいことがあったんだけど……」
「へ? アタシに?」

 アタシ、と自分のことを指差して目を丸くするメレ。ヘルはますます顔を険しくして俺に詰め寄った。

「どういうことだよ!? スバル!」
「えっと、ヘルにも後で説明するから! でもそのためには、先にクロノス達に話をしないと」

 告白の返事をするからには、ずっと一緒にいられなくなるかもだからクロノスとの主従契約を解いた方がよさそうだし、その話をしてからじゃないとメレに返事なんてできないし……

 慌てる俺の肩に、クロノスがやんわりと手を置く。

「……スバル、私への話は後で構いません。メイヴィルに伝えたいことがあるのでしょう? 私が望むのは貴方が幸せでいることですから……邪魔な虫が湧かないように一仕事するとしましょうか」

 クロノスは淡い笑みを浮かべながらそう告げて、ヘルの側に移動し脇を固めた。

「邪魔ってなんだ、俺はスバルに言いたいことが……!!」
「スバルちゃん、ここはクロノスに任せて二階に上がりましょ」

 クロノスと立ち位置を交換したメレが、俺の肩を抱いて二階に促す。うん、この状態のヘルを説得するより、ここはクロノスに甘えてしまった方がよさそうだ。

 促されるまま二階に上がって、二室借りているうちの一室に入って扉を閉める。
 途端に残された二人の言い争う声が聞こえなくなり静寂が広がるが、メレはそれを吹き飛ばすかのような明るい笑顔で俺に笑いかけた。

「それじゃ、座ってお話しましょっか?」

 メレは椅子を引いて腰かけ、優雅に脚を組んだ。俺が隣に座るのを見計らってから話を切りだす。

「ふふ、スバルちゃんに呼びだされるなんてドキドキしちゃうわ。ひょっとして、ついにアタシに惚れちゃった?」

 茶化しながらも本気の色が覗く声音で話しかけられて、俺は今までのように戸惑ったり誤魔化したりせずに、コクリと頷いた。

「……うん、そうみたい」

 メレは俺の答えを聞いて三秒ほど笑顔のまま固まってから、カッと目を見開いた。

「ええぇ!? ほ、ほんとに!?」
「ほ、ほんとに」
「アタシに!? スバルちゃん、アタシに惚れちゃってくれたの!?」
「そうだよ、惚れちゃってた」

 答えを聞くなり椅子から立ちあがったメレは、椅子が倒れるのも構わず俺をぎゅうっと抱きしめた。

「嬉しい、嬉しいわ! こんなに嬉しいことってあるかしら!!」
「メレ……」

 万感の思いがこもった言葉に照れつつも、俺も意外と筋肉のついたメレの背中を抱きかえす。

 思えば、メレに最初に好意を仄めかされた時から、彼に惹かれていたんだと思う。

 機転がきいていて、その場の空気を軽くしてくれるメレの言葉にずいぶん助けられて、好意がどんどん膨らんでいった。

 明るい笑顔に、この人とならなんでも乗り越えられそうと思って、そう思った時には彼の好意に応えたいって気持ちがあることに気づいたんだ。

 メレは俺の髪に頬擦りしてから、やっと体を離して俺と目をあわせた。

「はあ、嘘でしょ夢みたい。アタシはアンタってヘルのことが好きなんだと思ってたけど……夢じゃないのよね?」
「え、なんで?」
「だって、船の上であんなにアイツのこと必死に庇ってたじゃない。普通は首絞められたりしたらドン引きよ? 二度と顔も見たくないと思っちゃう」
「そう思う人もいるかもしれないけど……俺はなんともなかったわけだし、ヘルが傷ついているなら仲間として、できることがあるならしてあげたいって気持ちだったんだよ」
「そうだったの……」

 そう言いつつも俺の背を撫でてみたり、髪を撫でてみたりと腕の中の存在を確かめるように忙しなく手を動かすメレ。かなり動揺してるみたい。

 俺は珍しいメレの様子につい笑ってしまいながら、メレの手と両手を繋いでみた。
 俺も告白なんて初めてだから、緊張してのぼせたのか手が熱くなっちゃってる。

「俺の手、あったかい? 伝わる? ほら、夢じゃないでしょ」

 メレはキュッと、ほどよい力で俺の手を握りしめた。

「ちゃんと伝わってくるわ。スバルちゃんの手の温度も、それに想いも……ねえスバルちゃん、惚れたって意味、わかってる? アタシの言う好きって、こういうことを含むのよ?」

 メレがゆっくりゆっくり顔を近づけてくるので、俺はそっと目を閉じた。
 メレは俺が嫌がっていないことを確かめながら、そっと触れるだけのキスをした。

 来る時と同じくらいゆっくりと離れていく顔を見ながら、俺も精一杯の想いを返す。

「う、うん……わかってるよ。むしろ触ってほしかったりして……」

 たまにあるメレからのスキンシップに、内心どきりとしていたんだ。
 くすぐったいような、微かに痺れるような、なんだかもう少し触られたら気持ちよくなってしまいそうでなそれに……続きを期待してしまいそうになるのを、返事ができないものだから毎回グッと堪えていたんだ。

 日本には帰れないってはっきりした今、もう堪える必要なんてないよね。

「うそ、やだ可愛い……そんな可愛いこと言われたら、止まらなくなっちゃうわよ?」

 メレの甘さを含んだチョコレート色の瞳の奥に炎が揺らめいている。俺と視線がパチリとあうと、力強さを増したような気がした。
 それに内心すくみながらも、勇気を出して返事を口にする。

「い……いい、よ……」

 言うなり、メレは俺をすぐそばにあったベッドに押し倒した。

 ドサリとそのままメレまで覆い被さってくる。
 覆い被さった姿勢のまま、耳元にいつもより低めの声が吹き込まれる。

「……本当にいいんだな?」

 本気モードのメレにドキドキと高鳴る心臓の音に耐えながらも、コクリと頷いた。

 メレは一度ぎゅうっと俺を抱きしめた後、フリルのついたオシャレな服を、いつになく素早い動作で脱ぎ捨てた。

「ね、スバルちゃんも脱いで?」
「ん、わかった」

 月明かりの中あらわになっていくシルエットに俺も興奮しながら、シャツを脱いでズボンに手をかけた。そこで手が止まってしまう。

「どうしたのスバルちゃん? 恥ずかしくなっちゃった?」

 そりゃ恥ずかしくなるよ! だってお腹はぷよんぷよんだし、全体的にたるんでて太ましいんだよね、俺の体って!

「うん、その……向こう向いててもらっていい?」
「ええー? こんなにキレイなのに……まあいいわよ。私準備してくるから」
「準備?」
「そうよ? スバルちゃんをトロットロにするじゅ・ん・び」

 語尾にハートマークをつけながらシーツを羽織ってベッドから離れていくメレ。
 なにをするつもりか、聞きたいような聞きたくないような……

 なんとか羞恥を堪えて全ての服を脱ぎ終えると、モジモジしながら三角座りでメレを待つ。

「お待たせ! あらスバルちゃん、そんな端っこにいないでアタシの方にいらっしゃい?」
「は、恥ずかしいよ……」
「やーね、アタシだってこんな貧相な体見せるの恥ずかしいのよ? でもスバルちゃんならきっとバカにしたりしないと思って、勇気を出して脱いだのに……」

 スルリとシーツを肩から落としたメレの体は、俺みたいに余計な脂肪がついていなくて、スレンダーで程よく筋肉もついて引き締まっていて。
 なんていうか俺がこうなりたいっていう理想的な体をしていた。

「メレ、綺麗……」
「ふふっ、そんなこと言ってくれるの、スバルちゃんだけよ?」

 いや恐らく、隆臣さんも言ってくれると思うけどね? と内心思っていると、メレが俺の頬を両手で包んだ。

「アタシね、アンタがアタシに綺麗って言ってくれるの、最初は信じられなかった。からかわれてるんだと思って、すっごく傷ついたわ。でも、アンタが本当に綺麗だって思ってくれてるのわかって……アタシ、救われたのよ」
「救われた?」
「そうね、なんて言えばいいのか……要するに、アタシが一番気にしてるところを包みこんでくれたスバルちゃんに、恋に落ちちゃったワケ」

 コツンとおでこをぶつけてきたメレは、それはそれは嬉しそうにたおやかに笑った。

 男前で華やかな顔が目の前にあると、自然と赤面してしまう。ま、まつ毛が長いよ、近いよ!!

「そ、そうなんだ……」
「んふふ、そうなのよ。その後は坂道を転がるように気持ちが膨らんじゃって。スバルちゃんが負担に思うとイケナイからって、ずいぶん我慢したわ。だからね……」

 メレは俺の顎をクイっと持ち上げると、真正面から宣言した。

「これまで我慢してた分、たっぷりと愛を伝えさせてもらうわ。……覚悟しろよ?」

 宣言された通り、愛の言葉をたっぷり耳に注ぎこまれながら、メレは俺の体を的確に高めていった。

「スバルちゃん、可愛い」
「真っ赤になって、健気に尖ってるわ。感じてるの?」
「んふふ、おつゆが漏れてきた。かーわいい、大好きよ。ほら、先っぽ触ったげる」

 もうやめて! と言いたいのに、縦横無尽に動きまわるメレの手が気持ちよすぎて、ろくに抵抗もできない。

 肌のお手入れ用のオイルを丹念に後腔に塗りたくられて、くちっくちっと音がたつくらいなぶられて。
 メレの言う準備が終わる頃には、俺はメレにされるがままになっていた。

「ふあ、あ、あぁ……っ」
「ああ、なんて綺麗なのスバルちゃん……アタシの手でこんなに乱れて。本番はこれからなのよ? ちゃんとついてこれる?」
「ん、がんばるぅ……」
「二人で気持ちよくなりましょ? スバルちゃん、大好きよ。愛してるわ」

 チュ、と乳首にキスを落とされる。びくりと跳ねた肩を撫でられ、俺が落ちついたのを確認したメレは、硬くなった雄を俺の胎内に挿入しはじめた。

「んく……ああ、ふぁあっ」
「スバルちゃん、ゆっくり息を吐いて……そう、上手よ」

 メレの誘導にあわせて力を抜くと、反りかえったモノが少しづつ奥へ奥へと入りこんでくる。
 やがてピタリと腰がくっつくと、メレは一度腰を止めた。

「はあ、あぅ……はいっ、た?」
「ん、入った……あぁ、もうアタシ、これだけでどうにかなっちゃいそうよ」

 メレはチュッチュッと顔中にキスの雨を降らせる。くすぐったくて身を捩ると、硬いのが俺のイイところを擦ったみたいで、高い声がもれてしまう。

「ふふ、ふ……あんっ!」
「……っ! スバルちゃん、ココがイイのね?」

 すかさずメレに見つかってしまい、腰がひけてしまうがガッチリホールドされて、抽送される。

「はぁっ、ああ!」
「ああ、たまんない……! スバルちゃん、好き、大好き」

 パチュパチュと恥ずかしい音が部屋に響くけど、もう止めようがなくて、頭の中が茹だって気持ちいいことしか考えられなくなる。

「ああーっ、メレ、あぁ、気持ちい……っ」
「アタシもよ、も、さいっこう……っ、スバルちゃん、アンタよすぎて、もう、もたない……!」
「あ、あぁっ、あん!」

 一層激しく突きあげられて、頭の中に星が飛ぶ。気持ち良すぎて我慢できずに射精すると同時に、お腹の中に熱いものが広がった。

「ふう、はあ……ごめんなさい、中に出しちゃったわ。後始末、後でさせて」

 メレはバツが悪そうに、上気した頬を逸らした。
 余裕のない珍しいメレの男前な顔を堪能しつつ、俺はメレをギュッと抱きしめた。

「ん、だいじょうぶ……俺も気持ちよくて、止まんなかった、から」

 しばらく黙って抱きしめかえしていたメレは、やがてポツリと一言漏らした。

「……ね、スバルちゃん。いつか、アタシとの子どもを産んでくれる?」
「……え?」
「いや、アンタがどこまで知ってるかわからないんだけど。つまりね、魔力と精を一緒にココに注ぐことでだんだん体が変化して、オトコでも子どもを孕むことができるワケ」

 ココよ、と俺の下腹を撫でるメレ。
 確かに俺がメレの魔力を操作してお腹に持ってくることができれば、可能なんだろうけど……え、体が変化するの? 怖くない??

 恐る恐る見上げるが、近すぎて桃色の髪しか見えない。

「アンタの覚悟が決まるまで、アタシいつまでも待つわ。だから……」

 耳のすぐ側で、美声が吹きこまれる。

「……俺の子を孕んでくれよ。な?」
「……!」

 ゾワッと背中に走った電流にドキリとして、バッと耳を手で塞ぐ。

 焦る俺に対してメレは余裕な表情で、ふふふ、とそれはそれは綺麗に笑った。





 それからというものの、一緒にイエルトで暮らしはじめたメレは、事業を軌道に乗せるために大層忙しくしている。

 本人いわく、スバルちゃんに苦労をさせないようにがんばるわ! だそうだけど、俺だってメレに任せてばかりは嫌なので、書類の計算とか商品の検品とかできることをやらせてもらっている。

 あれからクロノスにも話をして、主従関係はきっちりと清算した。したけれども、なぜかクロノスは今度はメレの部下として同じ商会で働いている。

 メレは最初クロノスを雇いいれるつもりはなく、絶対反対よ! なんて言っていたのに……事情を教えてくれないので、どんな裏取引があったのかクロノスを酔わせて聞いてみたいと思ってしまった。
 なにが起こるかわからないので、できないけどね。

 そうそう、隆臣さんの研究所でヘルの目のことを研究してくれることになったんだ。
俺とメレも隆臣さんと眼鏡の共同開発をしている関係で、時々研究所に行った時にバッタリ出くわすこともある。
 詳しいことはわからないけど、前よりも体が重い感じがなくなってきたみたいだよ。
 俺も研究を手伝えたらよかったんだけど、今は商会のことで手一杯だ。

 だから、子どものことも今はまだ考えられないよ! だ、大丈夫、落ちついたらそのうち考えるから……ほんとだよ?

 ところで、ヘルはなんの仕事をしてるんだろう? 告白を断った後は、ちょっと距離を置いているからよくわからない。
 一度銀髪の忍者を屋根の上でみかけたって噂を聞いたけど……まさかね?

 そして今日はクロノスと他の従業員と共に店番をしながら、隣町まで買いつけに行ったメレが帰ってくるのを待っていた。

「メレ、まだかなあ。道中山賊が出てないといいけど。大丈夫かな」
「メイヴィルならなにか問題があっても、適切に対処して戻ってきますよ」
「そうですってスバルさん! 会長のことはなにも心配いらないですよぉ~」
「そうかな、そうだよね。わかってるんだけど気になっちゃって」
「はあ~、会長愛されてるなあ。私もこんなに思ってくれる美人なお嫁さん欲しいわ~、どこかに泣きぼくろの美しい美女いないかな」

 いつも通りの同僚の様子に、クロノスと顔を見あわせて苦笑する。
 背後からガチャリ、バタンと音が聞こえて振り向くと、待ちわびた桃色の頭が髪を揺らしてこちらを振り向いた。

「メレ! おかえり!」
「ただいまスバルちゃーん!! 会いたかったわー!!!」

 ぎゅーっと抱きしめられて心地よい匂いにつつまれ、安堵と嬉しさから自然と顔が綻ぶ。

 毎日忙しなくてドキドキして、大変なこともあるけど、俺はこれからもメレと一緒に歩んでいきたい。
 きっとこれから先も、ずっと。
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