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29 目覚ましがうるさすぎて寝れない件
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もう一度結界に綻びがないことを確かめて、今度こそ永い眠りについた。
目覚める頃にはカリオスもダークレイも、俺を知るものは誰一人としていなくなっているだろう。そうしたら、今度こそ死のうと思う。
……ところで、こんなことわざを知っているだろうか。二度あることは三度ある。江戸時代の浄瑠璃で使われていたくらいに、由緒ある言葉なんだぜ?
で、なんでこんなことわざを持ちだしてきたかというとだな。また起こされたんだよ。リンリンうるさい鈴の音でね。
「なんだこの音……? ああ、ダークレイか……起きたくない……あと五分……」
……ダメだ、うるさくて寝れない。あいつどんだけ鳴らすんだよ。
一回だけ緊急事態に駆けつけてやるって渡したやつだよな……なーんか大変なピンチにでも陥っていんのかね? しゃーない、起きるかー。
「んー」
伸びをしながら窓の外を確認すると、昼を過ぎたくらいの時刻のようだった。音の出どころを確認する。魔法の鈴の音は結界のすぐ側で鳴り響いていた。
そんな場所になんの危険があるのかと思ったが、領域外だから詳しい状況は見てみないことにはわからない。
魔法でのぞくのもアリだけど、本当に何かしらの危機に陥っていた場合、最初から飛んだ方が早いからさ。寝起きの頭でなーんも考えずに飛んだよね。
そしたらさ、いたわけよ。ダークレイの背中の上に、規格外のイケメンがさ。ただし、今はそれが台無しになるような格好をしていた。
鎧が血と泥で汚れている上に、目の下のクマがヤバイレベルで真っ黒だ。なにがあったね?
「ツカサ、やはりここにいたんですね!? 苦労してダークレイを説得した甲斐がありました! ハハハッ」
……目を血走らせたカリオスが、俺を見て凄みのある笑みを浮かべる。うわあ……
その堂に入った高笑い、俺よかよっぽど魔王っぽいぞ? 勇者闇堕ちしてない? 大丈夫?
体の至るところに傷をつけたダークレイが、俺に抗議の念を飛ばす。
『ツカサ、こやつに守護を施したであろう? やりすぎだ! 払っても吹き飛ばしてもしつこく追いすがられて、ほとほと迷惑しておるのだが!?』
お、おう。そんなことやったっけかな? ……やったわ。うっかり鳩尾パンチを叩き込んだ時に。
自動修復魔法と防護壁、魔法反射、呪い無効、状態異常無効化、回復促進に体力増強その他エトセトラを、大盤振る舞いした覚えがある。
不死身の勇者と成り果てたカリオスは、俺とコンタクトがとれそうな黒いドラゴンを、どこまでも執拗に追いかけたらしい。ついに根負けしたダークレイが俺に助けを求めたのだろう。カリオス君、容赦ないな。
鱗の間にも細かくついている傷口を回復してやると、ダークレイはブルルと身じろぎした。カリオスは揺れる背中からシュタッと俺のもとに降り立ち、逃すまいと手を強く握った。
「ずいぶん遠回りをしてしまいましたが、やっと会えましたね。さあ、僕達の城に帰りましょう」
「ん? おかしいな、カリオスは姫様と結婚するんだろ?」
「なにか盛大な誤解があるようですね。僕はあの高慢女とは結婚しませんよ。今頃はとっくに婚約話はなかったことにされているでしょうし」
「なんで?」
目を白黒させる俺をよそに、ダークレイが傷の消えた翼をはためかせ、空へと飛び上がりながら捨て台詞を吐いた。
『まったく、痴話喧嘩に我を巻きこむな! お前達はよくよく話しあうことだな』
ダークレイはぷんすこ怒りながら、漆黒の鱗を陽の光にきらめかせ、空の彼方へと飛び去っていった。
行ってしまった……俺を逃がす気のないカリオスを置いて。
「さあ、帰りましょう?」
血まみれの鎧のままニコニコと圧をかけるカリオス。とはいっても俺より弱いし、その気になれば今からだって、また結界を張って閉じこもることはできる。
けれど俺は、カリオスを城に招き入れていた。気圧されたわけじゃないぞ? 流石にここで無視して閉じこもるのは人としてどうかなって思ったんだ。俺、人じゃなくて神様だけどさ。
カリオスの鎧は汚れていないところがないくらいに血と泥に塗れていたが、体にはなんの傷もなかった。自動修復魔法がいい仕事をしていた。
軽くシャワーを浴びれば爽やかイケメンに元通り……にはならなかったけど。なにせ目の下のクマがすごい。
俺の魔法の力をもってしても消えないクマって、カリオスくん君何徹目? まさかの十日寝てないパターン? それってやばくない?
「あのさ、もう逃げないから一回寝たら?」
「逃げないという確証が得られるまで寝られません。話が先です」
「そ、そうか……わかったよ」
リビングに移動したカリオスと、対面がけでソファーに座る。
若干緊張したまま無言で茶を差しだす。カリオスは戦闘の余韻でハイテンションなのか、それとも十徹目で攻撃的になっているのか、ギラギラと瞳を輝かせていた。
目覚める頃にはカリオスもダークレイも、俺を知るものは誰一人としていなくなっているだろう。そうしたら、今度こそ死のうと思う。
……ところで、こんなことわざを知っているだろうか。二度あることは三度ある。江戸時代の浄瑠璃で使われていたくらいに、由緒ある言葉なんだぜ?
で、なんでこんなことわざを持ちだしてきたかというとだな。また起こされたんだよ。リンリンうるさい鈴の音でね。
「なんだこの音……? ああ、ダークレイか……起きたくない……あと五分……」
……ダメだ、うるさくて寝れない。あいつどんだけ鳴らすんだよ。
一回だけ緊急事態に駆けつけてやるって渡したやつだよな……なーんか大変なピンチにでも陥っていんのかね? しゃーない、起きるかー。
「んー」
伸びをしながら窓の外を確認すると、昼を過ぎたくらいの時刻のようだった。音の出どころを確認する。魔法の鈴の音は結界のすぐ側で鳴り響いていた。
そんな場所になんの危険があるのかと思ったが、領域外だから詳しい状況は見てみないことにはわからない。
魔法でのぞくのもアリだけど、本当に何かしらの危機に陥っていた場合、最初から飛んだ方が早いからさ。寝起きの頭でなーんも考えずに飛んだよね。
そしたらさ、いたわけよ。ダークレイの背中の上に、規格外のイケメンがさ。ただし、今はそれが台無しになるような格好をしていた。
鎧が血と泥で汚れている上に、目の下のクマがヤバイレベルで真っ黒だ。なにがあったね?
「ツカサ、やはりここにいたんですね!? 苦労してダークレイを説得した甲斐がありました! ハハハッ」
……目を血走らせたカリオスが、俺を見て凄みのある笑みを浮かべる。うわあ……
その堂に入った高笑い、俺よかよっぽど魔王っぽいぞ? 勇者闇堕ちしてない? 大丈夫?
体の至るところに傷をつけたダークレイが、俺に抗議の念を飛ばす。
『ツカサ、こやつに守護を施したであろう? やりすぎだ! 払っても吹き飛ばしてもしつこく追いすがられて、ほとほと迷惑しておるのだが!?』
お、おう。そんなことやったっけかな? ……やったわ。うっかり鳩尾パンチを叩き込んだ時に。
自動修復魔法と防護壁、魔法反射、呪い無効、状態異常無効化、回復促進に体力増強その他エトセトラを、大盤振る舞いした覚えがある。
不死身の勇者と成り果てたカリオスは、俺とコンタクトがとれそうな黒いドラゴンを、どこまでも執拗に追いかけたらしい。ついに根負けしたダークレイが俺に助けを求めたのだろう。カリオス君、容赦ないな。
鱗の間にも細かくついている傷口を回復してやると、ダークレイはブルルと身じろぎした。カリオスは揺れる背中からシュタッと俺のもとに降り立ち、逃すまいと手を強く握った。
「ずいぶん遠回りをしてしまいましたが、やっと会えましたね。さあ、僕達の城に帰りましょう」
「ん? おかしいな、カリオスは姫様と結婚するんだろ?」
「なにか盛大な誤解があるようですね。僕はあの高慢女とは結婚しませんよ。今頃はとっくに婚約話はなかったことにされているでしょうし」
「なんで?」
目を白黒させる俺をよそに、ダークレイが傷の消えた翼をはためかせ、空へと飛び上がりながら捨て台詞を吐いた。
『まったく、痴話喧嘩に我を巻きこむな! お前達はよくよく話しあうことだな』
ダークレイはぷんすこ怒りながら、漆黒の鱗を陽の光にきらめかせ、空の彼方へと飛び去っていった。
行ってしまった……俺を逃がす気のないカリオスを置いて。
「さあ、帰りましょう?」
血まみれの鎧のままニコニコと圧をかけるカリオス。とはいっても俺より弱いし、その気になれば今からだって、また結界を張って閉じこもることはできる。
けれど俺は、カリオスを城に招き入れていた。気圧されたわけじゃないぞ? 流石にここで無視して閉じこもるのは人としてどうかなって思ったんだ。俺、人じゃなくて神様だけどさ。
カリオスの鎧は汚れていないところがないくらいに血と泥に塗れていたが、体にはなんの傷もなかった。自動修復魔法がいい仕事をしていた。
軽くシャワーを浴びれば爽やかイケメンに元通り……にはならなかったけど。なにせ目の下のクマがすごい。
俺の魔法の力をもってしても消えないクマって、カリオスくん君何徹目? まさかの十日寝てないパターン? それってやばくない?
「あのさ、もう逃げないから一回寝たら?」
「逃げないという確証が得られるまで寝られません。話が先です」
「そ、そうか……わかったよ」
リビングに移動したカリオスと、対面がけでソファーに座る。
若干緊張したまま無言で茶を差しだす。カリオスは戦闘の余韻でハイテンションなのか、それとも十徹目で攻撃的になっているのか、ギラギラと瞳を輝かせていた。
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