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18 そして勇者と神は旅に出た

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 さてと、どこに行こうかな。あの三人組が帰ってくるまでに時間がありそうだし、まずはカリオスの故郷だというレーシア王国にでも行ってみるか。

「行き先なんだけど、レーシア王国でいい?」
「なにかご用事ですか? あの国に例の高慢姫がいますが」
「あー、そっか。特に用事はないけど、せっかくだからカリオスに案内してもらえる場所がいいかなと思ってさ。王都ならわかるだろ? 変装しとく?」
「お忍びデートですか。いいですね、そうしましょう」

 いやこれデートなのか? 俺は単に旅行のつもりだったけど……カリオスが楽しそうにしてるからまあいっか。

「せっかくですから、ツカサと同じ髪色になってみたいです」
「いいよ。ほい」

 カリオスの髪が黒く見えるよう幻惑をかける。おー、いつもと雰囲気が違うぞ?
 爽やかだったカリオスのイメージが、精悍という言葉がふさわしい雰囲気になってる。今カリオスが着てる灰色のコートとまとまりがいいな。

 これはこれでカッコよくていいけど、俺はいつものきんきら頭の方が好きかなあ。

「どうですかツカサ」
「まあまあ似合ってるんじゃない?」
「反応が薄いですね……」
「そうか? とりあえずパッと見た印象が別人に見えるし、これでいいよ。さ、飛ぶぞー」

 若干ガッカリした様子のカリオスを連れて、レーシア王国の首都に行くために、まずは王都がある場所の上空に飛ぶ。
 ……上空さっむ! そういや冬だったじゃん。なんで俺は半袖で来ちゃったんだ。慌てて上着を着こむ。

 カリオスはちゃっかりコートを着ていたのに、なんで気づかなかったかな俺よ。かれこれ三百年ぶりくらいのお出かけに浮かれすぎだ。

 気を取り直して都市を確認する。眼下には石造りで赤レンガ屋根の立派な城と、それと同じ色の屋根を持つたくさんの家や屋敷に囲まれた都市があった。

 街壁内に入りきらなかった民家が、壁の外にまでたくさん建っている。けっこう栄えてるみたいだな。

「カリオスの家はどこ?」
「ええと、城の東門は……あそこか。だとすると、あの家でしょうね。ほら、城門から五軒ほど隣の屋敷ですよ」
「アレな。ほんじゃあの近くにいったん降りるぞ」

 フッと掻き消えた次の瞬間には、俺達は地上にいた。カリオスの屋敷の裏手はちょうど人通りがなく、俺達は見咎められることなく王都に降りた。

「屋敷に寄っていきます? おそらく家人は誰もいませんが」
「いないんだ?」
「両親と兄夫婦は今頃領地で冬籠り中ですし、他の兄弟もとっくに親元を離れましたから。メイドや庭師しかいませんよ」
「カリオスってやっぱ貴族?」
「あれ、言っていませんでしたか? 伯爵家の三男です」

 あー、どおりで所作が綺麗だと思ったわ。でも貴族で冒険者って訳ありなんかなと思って、特に詳しく聞いたわけではないから初耳だ。


「貴族のいいところの坊ちゃんだったのに、なんで冒険者してたの?」
「あの頃の僕は、将来騎士になることを目指していました。剣の訓練はしていましたがまだ騎士団に入れる年齢ではなく、実力をつけたいと燻っていた。だから実戦を経験したいと思って、冒険者として活動していたんです」

 ふーん。そういや交換日記初日の自伝でそんなことをサラッと書いていた気がする。その後の手に汗握る展開が記憶に濃すぎて、今まで忘れていた。

「カリオスの家も寄ってみたいけど、今はまだ昼間だし、屋敷に寄るなら夜でいいんじゃね?」
「わかりました。では今夜訪問するとの知らせを、手紙でしたためておきましょう」

 カリオスはサラサラと手紙を一筆書き終えると、それを屋敷の扉に挟んだ。

「では行きましょうか。店でも見てまわりますか?」
「うんうん、そうしよ」
「ではこちらへどうぞ」

 レーシア王国は歴史こそ浅いものの魔法技術に抜きんでた国で、数々の優秀な魔術師を抱えているらしい。

 この国は俺の住む森と隣接しているわけだが、大体国の南西に森があり、その北側には鉱山が伸びている。この鉱山ではダイヤモンドと金がザクザクとれる。

 ちなみにダークレイはその北の鉱山に住んでいるわけだが、断崖絶壁の高高度に暮しているから、人間の住処とは隔てられている。

 そんな訳で、レーシア王都では宝石や金細工、魔導製品を扱う店が多く、冬でも商店街は賑わっていた。
 富裕層向けらしき商店街では、最新の魔導製品がディスプレイされ、宝石店がいくつも軒を連ねている。

「おー、前に街を訪れた時とだいぶ雰囲気違ってるな」
「なにが違うんですか?」
「そもそもこんな魔導製品の店とかなかったし、冬籠りで家から出てこないヤツがもっと多かった。この時期にこんなに通りが賑わってるのは初めて見たわ」

 大通りをぶらつきながら、その辺の店を冷やかしたり通行人に目を向けては、小さな驚きと共にそれを見送った。

 通行人の方もカリオスのイケメンぶりに目を見張っているが、カリオスは慣れているのかなんら気にする様子はなかった。

「視線がすごい」
「なにがですか? ああ」

 まるで今はじめて気づいたとでも言うかのように、あたりを見渡すカリオス。目があった使用人らしき女性が頬を染めたけれど、カリオスはなんら気にとめることなく俺と視線を再びあわせる。

「そんな僕と貴方に関わりのない大多数のことなんて気にせず、今はデートを楽しみましょう。ね?」
「お、おう……」

 カリオスさん、ハッキリしてるね。目についた知らん人に、いちいち愛想振りまくようなキャラじゃないもんな。
 話題を変えようと、ちょうど目についた店に入ることにする。

「ここ入ってみようぜ」
「いいですよ」

 適当に選んだ店は魔導具店だったようだ。簡易的な冷暖房の類や、色とりどりのランプ、おまじない程度の魔力が込められたお守りなどが、ところ狭しとディスプレイされている。

「通信魔導機はまだ売られてないんだな」
「軍事兵器の一種ですよ、自由に店で買えたら大変なことになります」
「そうか? 俺のいたとこでは一人一台持ってたけどなあ」
「想像がつかない世界です」

 冷やかすだけ冷やかして店を出る。やっぱり俺が隠居している間に、だいぶ魔法技術が発展したみたいだな。昔は王様でも暖炉生活が普通だったし、ランプももっとしょぼかった。

 この三百年、俺は一人で隠居ジジイみたいな生活をして外出しなくなっていた。
 正直もう俺は人間達の営みに興味が持てなくなっていた。その興味のなさが、彼らを自然と発展に導いたのだろう。

 俺が本来イメージしていたネメシアオンラインの世界観から変わりつつある。世界に興味を持てなくなったことで、俺が無意識に技術の発展を抑制していた枷が外れたのだろう。

 道行く人も、もはやどこの出身かもわからないヤツがチラホラいる。
 流石に魔族の特徴を持つものはいないが、ゲームには存在しなかったダークエルフみたいなお姉さんや、ホビットなのにオオカミらしき耳と尻尾がついてる獣人もどきのヤツもいた。混血が進みまくってる。

 そしてその誰もが、寒い寒いと言いながらも明るい顔をしていた。魔王が討伐されたことで平和になった世の中を、彼らは喜んでいるようだった。

「なんか、いいな」
「なにがです?」

 ポツリとこぼした独り言に、カリオスは耳聡く反応する。

「みんな表情が明るいからさ。なんて言えばいいのかわかんないけど、俺までちょっと楽しくなるというか……この笑顔をカリオスが守ったのかと思うと、褒めてやりたくなるっていうか」

 俺は彼の頭に手を伸ばすと、わしゃわしゃと遠慮なく撫でた。不思議だな、色が変わっただけで感触まで固くなったように感じる。

「……ありがとうございます、貴方に褒められるとくすぐったい気分になりますね」

 カリオスは照れたように笑った後、俺の手をギュッと握った。
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