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15 川で水浴び

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 カリオスは水浴びが好きなようだ。川ができてからというものの、朝の鍛錬の後は必ず川で水浴びをしてから帰ってくる。

 交換日記を読み終えた後は、今日もやつを眺めるかーと鍛錬中のカリオスの元を訪れる。彼は汗を腕で拭いながら、宙に浮かんだ俺に笑いかけた。

「おはようございますツカサ、今日の貴方はまるで創世神話の神ネメシア様が流した一粒の涙が、麗しき人の姿をとり天から舞い降りてきたかのような神々しい御姿ですね」
「ジャージだけどな。まだ鍛錬の途中だった?」
「ええ。もう少し剣を振ったらまた川に行って汗を流してきます」
「川で水浴びって寒くない?」

 せっかく城に風呂があるんだから、そっち使えばいいのに。けれどカリオスは首を横に振った。

「いえ、少し冷たすぎるくらいがイイんです。火照った身体に冷水をかけると、一瞬身を刺すような感覚がしますし。身も心も洗われるようで、気持ちがいいですよ」
「ふーん、そうなんだー……」

 なんとなくマゾっ気のある返答にも感じられたが、気のせいだということにして流すことにする。

「ツカサも来ますか?」

 俺はチラリとカリオスを盗み見た。黒いチェニックに灰色のパンツといったラフな服装をしているからか、余計に均整のとれた体つきが際立っている。

 脱いだら筋肉すごそうだよな、顔が綺麗だと身体つきも綺麗なのか少し興味があった。

 なにせ俺の領域内であるわけで、その気になればカリオスの裸なんていつでも盗み見できるのだが、マナー違反かなと思って今まで特に見たことはなかった。

 でも水浴びに誘われるってことは、公然と見ていいってことで。

「行こっかな」
「では鍛錬が終わったら、ツカサを呼びますね」
「あ、うん」

 気がついたら口が勝手に答えていた。俺はカリオスの裸にも興味があるらしい。自分のことながら驚きつつも、努めて冷静に返事をする。

「だったら呼び石を渡しておくから使ってくれ」
「これは?」

 黒いつるりとしたスマホ大の大きさの石板を渡す。

「それに話しかけたら、俺に繋がるようになってるから」
「携帯式通信魔導機ということですね」
「ああ、うん。そんな感じ」

 ネットも繋がらないしタッチパネル式でもないけど、通信はバッチリできる。電波じゃなく俺の魔力を込めて動かす方式なので、魔力切れにならない限りどこからでも通じる。
 使い方を説明すると、カリオスはなんなく使いこなすことができた。

「では、後ほど呼びます」
「よろしくー」

 俺は努めてなんでもないように告げて、森の中をふよりと漂った。
 カリオスの姿が見えなくなるまで充分に離れたところで地面に降り立つと、そのまましゃがみこむ。

「あー……やっばい。沼にハマりそう」

 俺は自覚している以上にカリオスのことを気に入りはじめているのかもしれない。
 あの服の下はどうなっているんだろう、勇者だったわけだし傷跡とかあったりして……筋肉もきっとすごいんだろうなーとか色々想像していると、そわそわと落ち着かない気持ちになる。

「うー、なんだこれ。想像するな俺! どうせもうすぐわかることだし、気にすんなって!」

 もやもやと頭に浮かぶ妄想を振り払い、俺は立ち上がると歩き出した。鳥の声を聞いたり、木々のざわめきや風を感じながら無心になって歩いていると、ブルブルと腰元で黒い石板が震える。

「うぉっと。はいもしもし」
「もし? ツカサですか」
「おー。もう川に入るのか?」
「はい、今から入ります」
「そんなら行くわ」

 そう告げて、魔力を遮断し通話を切る。一足飛びにカリオスの元に転移すると、彼は川の側で靴を脱いでいるところだった。

「早いですね。さあ、入りましょうか」
「あ、うん」

 カリオスは恥じらいもなくガバッと服を脱いだ。白い腹が露出して視線が釘づけになるが、気づかれる前にそっと目を逸らす。

 俺は自分の服に手をかけた。ジャージの上着を脱ごうとしたところで、ハタと手が止まる。

「どうしました?」
「いや……」

 これどこまで脱ぐのが正解? と聞こうとしてカリオスを振り向くと、既に全裸だった。潔すぎだろ君……バッチリとお腰の剣も見えてしまった。

 あれは……かなりデカいぞ……インゲンでもキュウリでもなく、ナスサイズだ。あんなん俺の尻に入らんだろ。

 動揺したまま上着を脱いでTシャツ姿になる。というか俺のミニ松茸を晒すのが嫌になってきたんだが?
 中途半端にTシャツとトランクス姿になると、何か言われる前に我先にと川に飛びこんだ。

「うわっ、冷て!」

 派手に水飛沫をあげたせいで、一気に胸元まで水がかかり、白いTシャツがぐっしょり濡れた。
 ザブザブと腰まで川に浸かったカリオスはこちらに歩み寄ってくる。しげしげと俺を眺めた後、口元を押さえた。

「これは……まずいですね、はかどってしまう」
「なにが?」
「ツカサを組み敷く妄想が」
「やめてくれー」

 ふざけるように胸の前で腕をクロスして隠すようにしてみたが、むしろギンギンに目を光らせてこっちを見てくるカリオス。怖いんだが?

 つーか乳首めっちゃ透けてる! これか、カリオスが煽られている原因は……だがしかし脱いだところで状況が悪化するだけでは? どうする俺!

「……えいっ」

 俺は照れ隠しにカリオスに水をかけた。彼は機敏な動作でそれを除けると、俺に反撃を開始する。

「やりましたね」
「うひゃっ! 冷たいってそれ」

 そのまま水のかけあいになだれ込んだ。カリオスは的確に俺の動きを読んで水をかけてくるので、遊び半分で避けていた俺はあっという間にずぶ濡れになってしまう。

「やったな!」
「そんなつたない動きでは僕を捉えられませんよ」
「これならどうだ!」

 カリオスはしつこく俺の追撃を避けて避けて避けまくるので、俺は反則技を行使した。川の水をまるっと魔力で持ち上げて、カリオスの頭上から落としたのだ。

 流石のカリオスも巨大な水球を避けきれず、見事に全身ずぶ濡れになった。

「ふははっ、ざまあみろー」

 カリオスは犬のようにブルブルと首を振ると、水をかき分けながら真っ直ぐに俺の元に歩いてきた。なにごと?

 彼はガッと俺の肩に手を置くと、キラキラとした瞳で俺の顔をのぞきこんだ。

「ツカサ! 今、笑いましたか!?」
「え……」

 ああ、そういや笑ったかもな? 何百年ぶりってくらい久しぶりに声を出して笑ったわ。

 カリオスは至極嬉しそうに、口の端を綻ばせた。

「かわいい。とてもかわいいですツカサ。もう一度笑ってください」
「そ、そんな笑えって言われていきなり笑えるもんじゃないんだが」
「そうですか……ではまた僕が笑わせてみせます。また愛らしいツカサを見せてくださいね」

 愛らしいってなんだよ……と思った俺は返事を言いあぐねて曖昧に頷いた。それでもカリオスは俺の反応に満足したらしく、ギュッと俺のことを抱きしめた。

 ふわあ、やっばい。筋肉しゅごい。厚い胸板に頬をムギュッと押しつけられて語彙力が溶けた。

 ドキドキと高鳴る胸を持て余す。濡れた髪を撫でられながらしばらくそのまま動けないでいた。
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