16 / 40
15 川で水浴び
しおりを挟む
カリオスは水浴びが好きなようだ。川ができてからというものの、朝の鍛錬の後は必ず川で水浴びをしてから帰ってくる。
交換日記を読み終えた後は、今日もやつを眺めるかーと鍛錬中のカリオスの元を訪れる。彼は汗を腕で拭いながら、宙に浮かんだ俺に笑いかけた。
「おはようございますツカサ、今日の貴方はまるで創世神話の神ネメシア様が流した一粒の涙が、麗しき人の姿をとり天から舞い降りてきたかのような神々しい御姿ですね」
「ジャージだけどな。まだ鍛錬の途中だった?」
「ええ。もう少し剣を振ったらまた川に行って汗を流してきます」
「川で水浴びって寒くない?」
せっかく城に風呂があるんだから、そっち使えばいいのに。けれどカリオスは首を横に振った。
「いえ、少し冷たすぎるくらいがイイんです。火照った身体に冷水をかけると、一瞬身を刺すような感覚がしますし。身も心も洗われるようで、気持ちがいいですよ」
「ふーん、そうなんだー……」
なんとなくマゾっ気のある返答にも感じられたが、気のせいだということにして流すことにする。
「ツカサも来ますか?」
俺はチラリとカリオスを盗み見た。黒いチェニックに灰色のパンツといったラフな服装をしているからか、余計に均整のとれた体つきが際立っている。
脱いだら筋肉すごそうだよな、顔が綺麗だと身体つきも綺麗なのか少し興味があった。
なにせ俺の領域内であるわけで、その気になればカリオスの裸なんていつでも盗み見できるのだが、マナー違反かなと思って今まで特に見たことはなかった。
でも水浴びに誘われるってことは、公然と見ていいってことで。
「行こっかな」
「では鍛錬が終わったら、ツカサを呼びますね」
「あ、うん」
気がついたら口が勝手に答えていた。俺はカリオスの裸にも興味があるらしい。自分のことながら驚きつつも、努めて冷静に返事をする。
「だったら呼び石を渡しておくから使ってくれ」
「これは?」
黒いつるりとしたスマホ大の大きさの石板を渡す。
「それに話しかけたら、俺に繋がるようになってるから」
「携帯式通信魔導機ということですね」
「ああ、うん。そんな感じ」
ネットも繋がらないしタッチパネル式でもないけど、通信はバッチリできる。電波じゃなく俺の魔力を込めて動かす方式なので、魔力切れにならない限りどこからでも通じる。
使い方を説明すると、カリオスはなんなく使いこなすことができた。
「では、後ほど呼びます」
「よろしくー」
俺は努めてなんでもないように告げて、森の中をふよりと漂った。
カリオスの姿が見えなくなるまで充分に離れたところで地面に降り立つと、そのまましゃがみこむ。
「あー……やっばい。沼にハマりそう」
俺は自覚している以上にカリオスのことを気に入りはじめているのかもしれない。
あの服の下はどうなっているんだろう、勇者だったわけだし傷跡とかあったりして……筋肉もきっとすごいんだろうなーとか色々想像していると、そわそわと落ち着かない気持ちになる。
「うー、なんだこれ。想像するな俺! どうせもうすぐわかることだし、気にすんなって!」
もやもやと頭に浮かぶ妄想を振り払い、俺は立ち上がると歩き出した。鳥の声を聞いたり、木々のざわめきや風を感じながら無心になって歩いていると、ブルブルと腰元で黒い石板が震える。
「うぉっと。はいもしもし」
「もし? ツカサですか」
「おー。もう川に入るのか?」
「はい、今から入ります」
「そんなら行くわ」
そう告げて、魔力を遮断し通話を切る。一足飛びにカリオスの元に転移すると、彼は川の側で靴を脱いでいるところだった。
「早いですね。さあ、入りましょうか」
「あ、うん」
カリオスは恥じらいもなくガバッと服を脱いだ。白い腹が露出して視線が釘づけになるが、気づかれる前にそっと目を逸らす。
俺は自分の服に手をかけた。ジャージの上着を脱ごうとしたところで、ハタと手が止まる。
「どうしました?」
「いや……」
これどこまで脱ぐのが正解? と聞こうとしてカリオスを振り向くと、既に全裸だった。潔すぎだろ君……バッチリとお腰の剣も見えてしまった。
あれは……かなりデカいぞ……インゲンでもキュウリでもなく、ナスサイズだ。あんなん俺の尻に入らんだろ。
動揺したまま上着を脱いでTシャツ姿になる。というか俺のミニ松茸を晒すのが嫌になってきたんだが?
中途半端にTシャツとトランクス姿になると、何か言われる前に我先にと川に飛びこんだ。
「うわっ、冷て!」
派手に水飛沫をあげたせいで、一気に胸元まで水がかかり、白いTシャツがぐっしょり濡れた。
ザブザブと腰まで川に浸かったカリオスはこちらに歩み寄ってくる。しげしげと俺を眺めた後、口元を押さえた。
「これは……まずいですね、はかどってしまう」
「なにが?」
「ツカサを組み敷く妄想が」
「やめてくれー」
ふざけるように胸の前で腕をクロスして隠すようにしてみたが、むしろギンギンに目を光らせてこっちを見てくるカリオス。怖いんだが?
つーか乳首めっちゃ透けてる! これか、カリオスが煽られている原因は……だがしかし脱いだところで状況が悪化するだけでは? どうする俺!
「……えいっ」
俺は照れ隠しにカリオスに水をかけた。彼は機敏な動作でそれを除けると、俺に反撃を開始する。
「やりましたね」
「うひゃっ! 冷たいってそれ」
そのまま水のかけあいになだれ込んだ。カリオスは的確に俺の動きを読んで水をかけてくるので、遊び半分で避けていた俺はあっという間にずぶ濡れになってしまう。
「やったな!」
「そんなつたない動きでは僕を捉えられませんよ」
「これならどうだ!」
カリオスはしつこく俺の追撃を避けて避けて避けまくるので、俺は反則技を行使した。川の水をまるっと魔力で持ち上げて、カリオスの頭上から落としたのだ。
流石のカリオスも巨大な水球を避けきれず、見事に全身ずぶ濡れになった。
「ふははっ、ざまあみろー」
カリオスは犬のようにブルブルと首を振ると、水をかき分けながら真っ直ぐに俺の元に歩いてきた。なにごと?
彼はガッと俺の肩に手を置くと、キラキラとした瞳で俺の顔をのぞきこんだ。
「ツカサ! 今、笑いましたか!?」
「え……」
ああ、そういや笑ったかもな? 何百年ぶりってくらい久しぶりに声を出して笑ったわ。
カリオスは至極嬉しそうに、口の端を綻ばせた。
「かわいい。とてもかわいいですツカサ。もう一度笑ってください」
「そ、そんな笑えって言われていきなり笑えるもんじゃないんだが」
「そうですか……ではまた僕が笑わせてみせます。また愛らしいツカサを見せてくださいね」
愛らしいってなんだよ……と思った俺は返事を言いあぐねて曖昧に頷いた。それでもカリオスは俺の反応に満足したらしく、ギュッと俺のことを抱きしめた。
ふわあ、やっばい。筋肉しゅごい。厚い胸板に頬をムギュッと押しつけられて語彙力が溶けた。
ドキドキと高鳴る胸を持て余す。濡れた髪を撫でられながらしばらくそのまま動けないでいた。
交換日記を読み終えた後は、今日もやつを眺めるかーと鍛錬中のカリオスの元を訪れる。彼は汗を腕で拭いながら、宙に浮かんだ俺に笑いかけた。
「おはようございますツカサ、今日の貴方はまるで創世神話の神ネメシア様が流した一粒の涙が、麗しき人の姿をとり天から舞い降りてきたかのような神々しい御姿ですね」
「ジャージだけどな。まだ鍛錬の途中だった?」
「ええ。もう少し剣を振ったらまた川に行って汗を流してきます」
「川で水浴びって寒くない?」
せっかく城に風呂があるんだから、そっち使えばいいのに。けれどカリオスは首を横に振った。
「いえ、少し冷たすぎるくらいがイイんです。火照った身体に冷水をかけると、一瞬身を刺すような感覚がしますし。身も心も洗われるようで、気持ちがいいですよ」
「ふーん、そうなんだー……」
なんとなくマゾっ気のある返答にも感じられたが、気のせいだということにして流すことにする。
「ツカサも来ますか?」
俺はチラリとカリオスを盗み見た。黒いチェニックに灰色のパンツといったラフな服装をしているからか、余計に均整のとれた体つきが際立っている。
脱いだら筋肉すごそうだよな、顔が綺麗だと身体つきも綺麗なのか少し興味があった。
なにせ俺の領域内であるわけで、その気になればカリオスの裸なんていつでも盗み見できるのだが、マナー違反かなと思って今まで特に見たことはなかった。
でも水浴びに誘われるってことは、公然と見ていいってことで。
「行こっかな」
「では鍛錬が終わったら、ツカサを呼びますね」
「あ、うん」
気がついたら口が勝手に答えていた。俺はカリオスの裸にも興味があるらしい。自分のことながら驚きつつも、努めて冷静に返事をする。
「だったら呼び石を渡しておくから使ってくれ」
「これは?」
黒いつるりとしたスマホ大の大きさの石板を渡す。
「それに話しかけたら、俺に繋がるようになってるから」
「携帯式通信魔導機ということですね」
「ああ、うん。そんな感じ」
ネットも繋がらないしタッチパネル式でもないけど、通信はバッチリできる。電波じゃなく俺の魔力を込めて動かす方式なので、魔力切れにならない限りどこからでも通じる。
使い方を説明すると、カリオスはなんなく使いこなすことができた。
「では、後ほど呼びます」
「よろしくー」
俺は努めてなんでもないように告げて、森の中をふよりと漂った。
カリオスの姿が見えなくなるまで充分に離れたところで地面に降り立つと、そのまましゃがみこむ。
「あー……やっばい。沼にハマりそう」
俺は自覚している以上にカリオスのことを気に入りはじめているのかもしれない。
あの服の下はどうなっているんだろう、勇者だったわけだし傷跡とかあったりして……筋肉もきっとすごいんだろうなーとか色々想像していると、そわそわと落ち着かない気持ちになる。
「うー、なんだこれ。想像するな俺! どうせもうすぐわかることだし、気にすんなって!」
もやもやと頭に浮かぶ妄想を振り払い、俺は立ち上がると歩き出した。鳥の声を聞いたり、木々のざわめきや風を感じながら無心になって歩いていると、ブルブルと腰元で黒い石板が震える。
「うぉっと。はいもしもし」
「もし? ツカサですか」
「おー。もう川に入るのか?」
「はい、今から入ります」
「そんなら行くわ」
そう告げて、魔力を遮断し通話を切る。一足飛びにカリオスの元に転移すると、彼は川の側で靴を脱いでいるところだった。
「早いですね。さあ、入りましょうか」
「あ、うん」
カリオスは恥じらいもなくガバッと服を脱いだ。白い腹が露出して視線が釘づけになるが、気づかれる前にそっと目を逸らす。
俺は自分の服に手をかけた。ジャージの上着を脱ごうとしたところで、ハタと手が止まる。
「どうしました?」
「いや……」
これどこまで脱ぐのが正解? と聞こうとしてカリオスを振り向くと、既に全裸だった。潔すぎだろ君……バッチリとお腰の剣も見えてしまった。
あれは……かなりデカいぞ……インゲンでもキュウリでもなく、ナスサイズだ。あんなん俺の尻に入らんだろ。
動揺したまま上着を脱いでTシャツ姿になる。というか俺のミニ松茸を晒すのが嫌になってきたんだが?
中途半端にTシャツとトランクス姿になると、何か言われる前に我先にと川に飛びこんだ。
「うわっ、冷て!」
派手に水飛沫をあげたせいで、一気に胸元まで水がかかり、白いTシャツがぐっしょり濡れた。
ザブザブと腰まで川に浸かったカリオスはこちらに歩み寄ってくる。しげしげと俺を眺めた後、口元を押さえた。
「これは……まずいですね、はかどってしまう」
「なにが?」
「ツカサを組み敷く妄想が」
「やめてくれー」
ふざけるように胸の前で腕をクロスして隠すようにしてみたが、むしろギンギンに目を光らせてこっちを見てくるカリオス。怖いんだが?
つーか乳首めっちゃ透けてる! これか、カリオスが煽られている原因は……だがしかし脱いだところで状況が悪化するだけでは? どうする俺!
「……えいっ」
俺は照れ隠しにカリオスに水をかけた。彼は機敏な動作でそれを除けると、俺に反撃を開始する。
「やりましたね」
「うひゃっ! 冷たいってそれ」
そのまま水のかけあいになだれ込んだ。カリオスは的確に俺の動きを読んで水をかけてくるので、遊び半分で避けていた俺はあっという間にずぶ濡れになってしまう。
「やったな!」
「そんなつたない動きでは僕を捉えられませんよ」
「これならどうだ!」
カリオスはしつこく俺の追撃を避けて避けて避けまくるので、俺は反則技を行使した。川の水をまるっと魔力で持ち上げて、カリオスの頭上から落としたのだ。
流石のカリオスも巨大な水球を避けきれず、見事に全身ずぶ濡れになった。
「ふははっ、ざまあみろー」
カリオスは犬のようにブルブルと首を振ると、水をかき分けながら真っ直ぐに俺の元に歩いてきた。なにごと?
彼はガッと俺の肩に手を置くと、キラキラとした瞳で俺の顔をのぞきこんだ。
「ツカサ! 今、笑いましたか!?」
「え……」
ああ、そういや笑ったかもな? 何百年ぶりってくらい久しぶりに声を出して笑ったわ。
カリオスは至極嬉しそうに、口の端を綻ばせた。
「かわいい。とてもかわいいですツカサ。もう一度笑ってください」
「そ、そんな笑えって言われていきなり笑えるもんじゃないんだが」
「そうですか……ではまた僕が笑わせてみせます。また愛らしいツカサを見せてくださいね」
愛らしいってなんだよ……と思った俺は返事を言いあぐねて曖昧に頷いた。それでもカリオスは俺の反応に満足したらしく、ギュッと俺のことを抱きしめた。
ふわあ、やっばい。筋肉しゅごい。厚い胸板に頬をムギュッと押しつけられて語彙力が溶けた。
ドキドキと高鳴る胸を持て余す。濡れた髪を撫でられながらしばらくそのまま動けないでいた。
26
お気に入りに追加
405
あなたにおすすめの小説
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
逃げる銀狐に追う白竜~いいなずけ竜のアレがあんなに大きいなんて聞いてません!~
結城星乃
BL
【執着年下攻め🐲×逃げる年上受け🦊】
愚者の森に住む銀狐の一族には、ある掟がある。
──群れの長となる者は必ず真竜を娶って子を成し、真竜の加護を得ること──
長となる証である紋様を持って生まれてきた皓(こう)は、成竜となった番(つがい)の真竜と、婚儀の相談の為に顔合わせをすることになった。
番の真竜とは、幼竜の時に幾度か会っている。丸い目が綺羅綺羅していて、とても愛らしい白竜だった。この子が将来自分のお嫁さんになるんだと、胸が高鳴ったことを思い出す。
どんな美人になっているんだろう。
だが相談の場に現れたのは、冷たい灰銀の目した、自分よりも体格の良い雄竜で……。
──あ、これ、俺が……抱かれる方だ。
──あんな体格いいやつのあれ、挿入したら絶対壊れる!
──ごめんみんな、俺逃げる!
逃げる銀狐の行く末は……。
そして逃げる銀狐に竜は……。
白竜×銀狐の和風系異世界ファンタジー。
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。
姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王
ミクリ21
BL
姫が拐われた!
……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。
しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。
誰が拐われたのかを調べる皆。
一方魔王は?
「姫じゃなくて勇者なんだが」
「え?」
姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる