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37 父との和解
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ブライトンはユースに詰め寄るようにして問いかけた。
「そうだ、もしや貴殿は母の姉を知っているのか!?」
「直接言葉を交わしたことはございません。しかし記録によると、彼女も我が国の国民として五十年ほど前に水妖精の伴侶が登録したようで、今は村の水車番として活躍されています」
「なんと……なんということだ。母が生きていたら心から喜んだだろうに」
昨日の夜の話からそこまで調べたんだ、ユースは本当に勤勉な方だわとアレッタは感心した。
「妖精に連れ去られた姉は酷い目にあっているに違いないと母から聞かされて育ってきたが、そうではなかったのだな」
「妖精は一度決めた伴侶を心から愛し、心変わりすることはありません。きっと今でもカレン嬢は水妖精の伴侶から愛され、仕事でも活躍し充実した毎日を過ごしておられると思います。ご希望でしたらお調べ致しますが」
「いや、いい。私も母の言葉は全て真実ではないと思っていたからな。今更私が彼女のことを知ってもどうにもなるまい。余生を大切に過ごしてほしいと願うばかりだ」
余生って言い方は違うような……ああそうか、お父様は妖精が人間の五倍は生きるってことを知らないんだわ。
「お父様、私はユースと結婚して妖精になったとしても、お父様が許してくれるなら会いにきます。その、私が妖精になったら寿命が伸びて年をとらないように見えるので、そこを気にしないでもらえたら嬉しいのですが」
「なに、どういうことだ」
疑問を口にする父に、アレッタは人間と妖精の違いをできるだけ詳しく話した。
アレッタが妖精になっても見えなくはならないこと、人間界には頻繁に来ようと思えば来れること。けれど妖精になった後は魔力がない場所だと息苦しいらしいので、町に長く滞在はできないであろうことも伝える。
父はしばらく額を指で押さえて考えこんでいたが、やがてゆっくりと顔を上げた。
「なるほど、話はわかった。お前達の結婚を認めよう」
「ほ、本当に? ありがとうございます、お父様!」
ユースも嬉しそうに声を弾ませる。
「ありがとうございますユクシー卿。義父上と呼ばせてもらっていいでしょうか」
「構わん。どうせいつか娘は嫁にやるものだ。勝手に消えていなくなるのは我慢がならんが、今お前達の仲を無理矢理引き裂いてアレッタをどこかに嫁がせるとしても、まともな嫁ぎ先はほとんどない」
ブライトンは疲れたように自嘲する。アレッタがいなくなってからも色々と心労があったのだろう、前に見た時よりも白髪が増えている。
「最近の王家のやり方、貴族のあり様には思うところがある……これを機に貴族間の結びつきを強めるよりも、内政に力を入れるべきかもしれんな」
父の変わり様に胸を痛めながらもわかってもらえたことに感動するアレッタを見て、ブライトンは眩しい物でも見るかのように目を細めた。
「アレッタ、好きな時に顔を見せるといい。今後は屋敷に花を絶やさず飾り、庭を花で埋めることを約束しよう」
「……っはい!」
アレッタが胸の前で指を組むと、今度はブライトンは正面からユースを見つめた。
「ユスティニアンよ、貴殿に娘を託そう。妖精の目を持つこの子のことをわかってやれるのは、妖精である貴殿が適任だろう」
「はい。必ずやアレッタ嬢を幸せにしてみせます」
ブライトンがユースに握手を求め、握手すると像が消えてしまうからと申し訳なさそうにユースが断る場面はあったものの、和やかに顔合わせが済んでアレッタは心からホッとした。
不意に扉の外が騒がしくなる。ルーチェがパッと扉を振り向いて警戒を露わにした。
「……ったく、気がきかないわね。お姉様が帰ってきたのなら、どうしてもっと早く教えてくれないの? お父様! わたくしお姉様に伝えたいことがありますの、ここを開けてくださいませ!」
「なんだ、騒々しい。まだ話の途中だ」
ブライトンが返事をすると、許可も得ないうちにレベッカが黒い髪を振り乱しながら部屋に乱入してくる。
いつも派手ながらも綺麗に整えている化粧も今日はケバケバしすぎていて、アレッタは目の周りに塗りたくられた真っ赤なアイシャドウにギョッとした。
「レベッカ、どうしたのその顔……」
レベッカはキッと姉を睨みつけて、一方的に言いたいことをぶちまけるために口を開いた。
「お姉様酷いですわ! ……っと、お客様がいらしていたの? まあ……」
レベッカはユースの姿を見とめて言葉を切る。
テオドール殿下よりも美しく凛々しいユースの顔に、ポカンと口を開けたまま見惚れて言葉も出ない様子だった。
ハッと気を取り直したレベッカは、耳を赤くしながら髪を慌てて整えようとする。ちなみに頬は白粉を塗りたくりすぎて真っ白なままだった。
「し、失礼しました。わたくしはレベッカ・ユクシーと申します。はしたないところをお見せして申し訳ありません。まさかお客様がいらしているとは存じあげませんでしたわ。お父様のお客様ですの?」
ユースは非常識なレベッカ相手にも丁寧に自己紹介をした。
「レベッカ嬢、私はユスティニアン・レトゥ・アルストロメリアと申します。この度はアレッタ嬢との結婚の許しをいただきにご挨拶に参りました」
「えっ? はっ?」
レベッカは信じられない物を見るような顔でアレッタを凝視する。
「そうだ、もしや貴殿は母の姉を知っているのか!?」
「直接言葉を交わしたことはございません。しかし記録によると、彼女も我が国の国民として五十年ほど前に水妖精の伴侶が登録したようで、今は村の水車番として活躍されています」
「なんと……なんということだ。母が生きていたら心から喜んだだろうに」
昨日の夜の話からそこまで調べたんだ、ユースは本当に勤勉な方だわとアレッタは感心した。
「妖精に連れ去られた姉は酷い目にあっているに違いないと母から聞かされて育ってきたが、そうではなかったのだな」
「妖精は一度決めた伴侶を心から愛し、心変わりすることはありません。きっと今でもカレン嬢は水妖精の伴侶から愛され、仕事でも活躍し充実した毎日を過ごしておられると思います。ご希望でしたらお調べ致しますが」
「いや、いい。私も母の言葉は全て真実ではないと思っていたからな。今更私が彼女のことを知ってもどうにもなるまい。余生を大切に過ごしてほしいと願うばかりだ」
余生って言い方は違うような……ああそうか、お父様は妖精が人間の五倍は生きるってことを知らないんだわ。
「お父様、私はユースと結婚して妖精になったとしても、お父様が許してくれるなら会いにきます。その、私が妖精になったら寿命が伸びて年をとらないように見えるので、そこを気にしないでもらえたら嬉しいのですが」
「なに、どういうことだ」
疑問を口にする父に、アレッタは人間と妖精の違いをできるだけ詳しく話した。
アレッタが妖精になっても見えなくはならないこと、人間界には頻繁に来ようと思えば来れること。けれど妖精になった後は魔力がない場所だと息苦しいらしいので、町に長く滞在はできないであろうことも伝える。
父はしばらく額を指で押さえて考えこんでいたが、やがてゆっくりと顔を上げた。
「なるほど、話はわかった。お前達の結婚を認めよう」
「ほ、本当に? ありがとうございます、お父様!」
ユースも嬉しそうに声を弾ませる。
「ありがとうございますユクシー卿。義父上と呼ばせてもらっていいでしょうか」
「構わん。どうせいつか娘は嫁にやるものだ。勝手に消えていなくなるのは我慢がならんが、今お前達の仲を無理矢理引き裂いてアレッタをどこかに嫁がせるとしても、まともな嫁ぎ先はほとんどない」
ブライトンは疲れたように自嘲する。アレッタがいなくなってからも色々と心労があったのだろう、前に見た時よりも白髪が増えている。
「最近の王家のやり方、貴族のあり様には思うところがある……これを機に貴族間の結びつきを強めるよりも、内政に力を入れるべきかもしれんな」
父の変わり様に胸を痛めながらもわかってもらえたことに感動するアレッタを見て、ブライトンは眩しい物でも見るかのように目を細めた。
「アレッタ、好きな時に顔を見せるといい。今後は屋敷に花を絶やさず飾り、庭を花で埋めることを約束しよう」
「……っはい!」
アレッタが胸の前で指を組むと、今度はブライトンは正面からユースを見つめた。
「ユスティニアンよ、貴殿に娘を託そう。妖精の目を持つこの子のことをわかってやれるのは、妖精である貴殿が適任だろう」
「はい。必ずやアレッタ嬢を幸せにしてみせます」
ブライトンがユースに握手を求め、握手すると像が消えてしまうからと申し訳なさそうにユースが断る場面はあったものの、和やかに顔合わせが済んでアレッタは心からホッとした。
不意に扉の外が騒がしくなる。ルーチェがパッと扉を振り向いて警戒を露わにした。
「……ったく、気がきかないわね。お姉様が帰ってきたのなら、どうしてもっと早く教えてくれないの? お父様! わたくしお姉様に伝えたいことがありますの、ここを開けてくださいませ!」
「なんだ、騒々しい。まだ話の途中だ」
ブライトンが返事をすると、許可も得ないうちにレベッカが黒い髪を振り乱しながら部屋に乱入してくる。
いつも派手ながらも綺麗に整えている化粧も今日はケバケバしすぎていて、アレッタは目の周りに塗りたくられた真っ赤なアイシャドウにギョッとした。
「レベッカ、どうしたのその顔……」
レベッカはキッと姉を睨みつけて、一方的に言いたいことをぶちまけるために口を開いた。
「お姉様酷いですわ! ……っと、お客様がいらしていたの? まあ……」
レベッカはユースの姿を見とめて言葉を切る。
テオドール殿下よりも美しく凛々しいユースの顔に、ポカンと口を開けたまま見惚れて言葉も出ない様子だった。
ハッと気を取り直したレベッカは、耳を赤くしながら髪を慌てて整えようとする。ちなみに頬は白粉を塗りたくりすぎて真っ白なままだった。
「し、失礼しました。わたくしはレベッカ・ユクシーと申します。はしたないところをお見せして申し訳ありません。まさかお客様がいらしているとは存じあげませんでしたわ。お父様のお客様ですの?」
ユースは非常識なレベッカ相手にも丁寧に自己紹介をした。
「レベッカ嬢、私はユスティニアン・レトゥ・アルストロメリアと申します。この度はアレッタ嬢との結婚の許しをいただきにご挨拶に参りました」
「えっ? はっ?」
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