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35 大事な話があるそうです
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リックに釣られて怒りだすディミエルを見て、姉さん達はひそひそ話をしていた。
「ほんと、不器用だわ」
「見てられないわね。あんなだから、ディミエルに気づいてもらえないのよ」
「側から見てる分には、こんなにわかりやすいのにね」
「ディミエルもほら、どっちかって言うと鈍感な方だもの」
姉さん達の話が漏れ聞こえてきた。リックは頬を赤く染めて、声の勢いをなくす。
「う、うるさい」
「気づいてないってなんの話? もしかして、討伐が終わったら話をしたいって言ってたことと、関係があるのかな」
ディミエルが疑問を漏らすと、姉さん魔女達から感心したような声が上がる。
「ついに言うのね」
「遅すぎるわよ。この二年の間に、会いにいったらよかったのに」
「姉さん達! ちょっとの間黙っててくれ!」
リックは顔中を真っ赤にして、わざとらしく咳払いをした。
「あー、その、なんだ……今は暇なんだよな? ちょっと来てくれ」
「どうして? 話ならここでもいいじゃない」
「ダメだ! いいから来いって」
そう言ってディミエルの方に手を伸ばすリックの腕を、背後から掴む者がいた。美しい銀の髪が、ディミエルの視界に飛び込んでくる。
「君、ディミーに何の用があるんだ? 彼女は俺と先約があるんだけど」
「ライシス!」
ぱあっと笑顔になったディミエルは、愛しい人の元へ近づく。リックは乱入してきた男を睨みつけようとして、顔を確認してギョッとした。
「え、で、殿下……?」
「ディミー、彼と何か話すことがあるの?」
「えっと……」
ちょうど話があると言われたところだったから、振り向いてリックを確認すると、彼は訝しげに片眉を上げていた。
「……王子殿下こそ、ディミエルに何の用事なんですか」
「大切な話があるんだ。急ぐ用事でないのなら、後にしてもらってもいいかな」
「俺だってディミエルに大事な話があるんだ!」
言い争いになりそうな気配を感じて、ディミエルは二人をおろおろと見比べた。無意識のうちにライシスの方へ寄っていくと、優しく肩を抱き止められる。
「待たせちゃってごめんな」
「あ、ううん。彼、私の幼馴染なの。失礼なやつでこっちこそごめんね」
「気にしてないよ」
親しげに囁きあう二人を見て、姉さん魔女達はきゃあと喜んだ。リックは悔しそうに顔を歪める。
「なんだよ……お前、いつの間に王子と仲良くなったんだ?」
「ちょっと、色々あって」
リックは頬を染めたまま、キッとディミエルを睨みつけた。
「お前なんてなあ、地味だし抜けてるし、俺がいないとぴーぴー泣いて何にもできないだろ! 王子と一緒にいたって迷惑をかけるだけだ!」
「それは子どもの頃の話じゃない!」
小さい頃は泣き虫でリックに頼りきりだったことは、ディミエルにとって恥ずかしい過去の話だ。勝手に暴露話をされて、慌てて大きな声を出して反論した。
「俺はディミーに迷惑なんて、かけられたことはないよ。ちょっと危ういところもあるけれど、自立した女性だと思うし、地味なのは服装を変えればいいだけの話だろう?」
ライシスは穏やかな声でリックに語りかけたが、その目は笑っていなかった。
「今のディミーを見れていないんだな。俺の大切な人を侮辱しないでくれ」
「ラ、ライシス……大袈裟だよ」
「大袈裟なもんか。ディミーの聞かれたくない過去の話を、大声で吹聴して言うことを聞かせようなんて卑怯な行いだ。もうやらないように、ちゃんと釘を刺しておかないとな」
「な、俺はそんなつもりじゃ……!」
焦ったように声を上擦らせたリックは、ディミエルの方に手を伸ばした。触れる寸前で、魔石の作用によって弾かれてしまう。
「あ……」
ライシスの腕の中に大人しくおさまったディミエルを見て、リックは目を見開きながら後ずさった。
「もういいかな、彼女を借りていっても」
「王子様、どうぞ連れていってください」
「ディミエル、後でどうなったか聞かせてよ!」
立ちすくむリックの背後から、姉さん魔女達が声をかけてくる。ほとんど手伝いができていないことに申し訳なさを感じつつも、ライシスに連れられて彼らの元から去った。
「ほんと、不器用だわ」
「見てられないわね。あんなだから、ディミエルに気づいてもらえないのよ」
「側から見てる分には、こんなにわかりやすいのにね」
「ディミエルもほら、どっちかって言うと鈍感な方だもの」
姉さん達の話が漏れ聞こえてきた。リックは頬を赤く染めて、声の勢いをなくす。
「う、うるさい」
「気づいてないってなんの話? もしかして、討伐が終わったら話をしたいって言ってたことと、関係があるのかな」
ディミエルが疑問を漏らすと、姉さん魔女達から感心したような声が上がる。
「ついに言うのね」
「遅すぎるわよ。この二年の間に、会いにいったらよかったのに」
「姉さん達! ちょっとの間黙っててくれ!」
リックは顔中を真っ赤にして、わざとらしく咳払いをした。
「あー、その、なんだ……今は暇なんだよな? ちょっと来てくれ」
「どうして? 話ならここでもいいじゃない」
「ダメだ! いいから来いって」
そう言ってディミエルの方に手を伸ばすリックの腕を、背後から掴む者がいた。美しい銀の髪が、ディミエルの視界に飛び込んでくる。
「君、ディミーに何の用があるんだ? 彼女は俺と先約があるんだけど」
「ライシス!」
ぱあっと笑顔になったディミエルは、愛しい人の元へ近づく。リックは乱入してきた男を睨みつけようとして、顔を確認してギョッとした。
「え、で、殿下……?」
「ディミー、彼と何か話すことがあるの?」
「えっと……」
ちょうど話があると言われたところだったから、振り向いてリックを確認すると、彼は訝しげに片眉を上げていた。
「……王子殿下こそ、ディミエルに何の用事なんですか」
「大切な話があるんだ。急ぐ用事でないのなら、後にしてもらってもいいかな」
「俺だってディミエルに大事な話があるんだ!」
言い争いになりそうな気配を感じて、ディミエルは二人をおろおろと見比べた。無意識のうちにライシスの方へ寄っていくと、優しく肩を抱き止められる。
「待たせちゃってごめんな」
「あ、ううん。彼、私の幼馴染なの。失礼なやつでこっちこそごめんね」
「気にしてないよ」
親しげに囁きあう二人を見て、姉さん魔女達はきゃあと喜んだ。リックは悔しそうに顔を歪める。
「なんだよ……お前、いつの間に王子と仲良くなったんだ?」
「ちょっと、色々あって」
リックは頬を染めたまま、キッとディミエルを睨みつけた。
「お前なんてなあ、地味だし抜けてるし、俺がいないとぴーぴー泣いて何にもできないだろ! 王子と一緒にいたって迷惑をかけるだけだ!」
「それは子どもの頃の話じゃない!」
小さい頃は泣き虫でリックに頼りきりだったことは、ディミエルにとって恥ずかしい過去の話だ。勝手に暴露話をされて、慌てて大きな声を出して反論した。
「俺はディミーに迷惑なんて、かけられたことはないよ。ちょっと危ういところもあるけれど、自立した女性だと思うし、地味なのは服装を変えればいいだけの話だろう?」
ライシスは穏やかな声でリックに語りかけたが、その目は笑っていなかった。
「今のディミーを見れていないんだな。俺の大切な人を侮辱しないでくれ」
「ラ、ライシス……大袈裟だよ」
「大袈裟なもんか。ディミーの聞かれたくない過去の話を、大声で吹聴して言うことを聞かせようなんて卑怯な行いだ。もうやらないように、ちゃんと釘を刺しておかないとな」
「な、俺はそんなつもりじゃ……!」
焦ったように声を上擦らせたリックは、ディミエルの方に手を伸ばした。触れる寸前で、魔石の作用によって弾かれてしまう。
「あ……」
ライシスの腕の中に大人しくおさまったディミエルを見て、リックは目を見開きながら後ずさった。
「もういいかな、彼女を借りていっても」
「王子様、どうぞ連れていってください」
「ディミエル、後でどうなったか聞かせてよ!」
立ちすくむリックの背後から、姉さん魔女達が声をかけてくる。ほとんど手伝いができていないことに申し訳なさを感じつつも、ライシスに連れられて彼らの元から去った。
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