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34 お話しあいをするようです
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待ち望んでいた人の腕の中に引き込まれて、安堵と共に頬が暑くなる。
「あ、ありがとうライシス……」
「ディミー、無事でよかった」
「殿下、その人は僕の妻なんですから、勝手な真似はやめてくださいとお願いしましたよね?」
セレストの苛立ち混じりの声に、リリーは驚く。
「えっ、すでにセレストは妻帯者なの?」
ライシスがすかさず否定した。
「そうじゃないよ、彼らは正式に婚姻していない。ディミーは俺の大切な人で、セレストは彼女に片想いしてるだけだから、どんどん迫っていい。必ず落としてくれ、俺も全力で応援する」
「へえ、そうなんだあ。だったら遠慮なく迫っちゃおうっと」
「な……っ、や、やめてください、私は貴女のような幼児体型……失敬、その、色気のない……いや、男装が似合いすぎる方は好みでなくてですね」
失礼な本音がダダ漏れているのにも関わらず、リリーは瞳を輝かせて微笑んだ。
「とっても正直な人だね、ますます気に入ったよセレスト。おべっかを使われるのはもう、うんざりなんだよね。もっと君のことを知りたいから、ちょっとあっちで話そうか」
「待ってください、王女殿下……! ディミエル! 戻ってきなさい!」
誰が行くもんですかとそっぽを向くと、セレストの情けない声がだんだん遠ざかっていった。
リリーはセレストを護衛ごと引き連れて、天幕の方に連れていく。ライシスは二人の様子を見届けた後、ディミエルのことをそっと抱きしめた。
「ディミー、ここで会えてよかった」
「あ、ライシス……ごめんなさい、急に理由も言わずに、故郷に帰ったりして」
「今のやりとりで大体予想はついたよ。セレストに無茶を言われて、町にいられなくなったんだろう?」
「そう……急に僕と結婚するんだって言われて、どうしても嫌だったから後先考えず逃げ出してしまったの」
「逃げてくれてよかったよ。ディミーがアイツと結婚していたら……」
ライシスは感極まったように、ぎゅうっとディミエルのことを抱きしめた。ほこりっぽい匂いと共に爽やかなライシス自身の香りがして、トクトクと胸が高鳴る。
「ライシス……助けてくれて嬉しかった、私どうしても貴方に伝えたいことがあったの」
「俺もだ」
端正な顔が真剣な表情を浮かべていて、ドキリとする。言葉もなく見入っていると、伝令らしき騎士がライシスの方に近づいてきた。
「殿下、よろしいでしょうか。残党について報告があります」
「……ごめんディミエル、後で必ず会いにいくから、持ち場に戻っていてくれ」
名残惜しそうに体を離される。ディミエルは頷いた。
「うん、忙しいよね。私は夕方までキャンプに滞在して、怪我人の様子を見ているから。待ってる」
「なるべく早く行くから。部下に送らせるよ」
騎士に守られながら、怪我人の待つ場所へと戻った。ディミエルの姿を見て、姉さん魔女の一人が駆け寄ってくる。
「おかえりディミエル、あら、騎士様に送っていただいたの?」
騎士は敬礼をして帰っていく。その姿を見届けてから、ディミエルは彼女に返事をした。
「ええ。実は、王子様に会うことができたの」
「なんですって!? すごいじゃないディミエル!」
もう一人の姉さんも寄ってきて、きゃあきゃあと二人でディミエルを囲み、盛り上がっている。
「噂通りかっこいい見た目だったでしょう? 間近で見てどうだった?」
「話って何を話したの? 王子様の側には護衛の方がいたけど、そんなに簡単に話ができるものなの?」
「待って、いっぺんに質問されても答えられないよ」
苦笑いしながらも事情を説明していると、更にもう一人見知った人物がやってきた。
「おいディミエル、どこに行ってたんだよ!」
「あ、リック」
「まあ」
「来たわね」
姉さん達は意味深に目配せしあって、リックの方へとディミエルの背を押した。何がなんだかわからないものの、肩を怒らせたリックと相対する。
「リック、どうしてそんなに怒っているの?」
「さっき様子を見にきてやったのに、お前がいなかったからだよ! しかも王子に会いにいったとか聞いたぞ、危ないことするなって言っただろ!」
「そんなに怒らなくてもいいじゃない、こうして無事に帰ってこれたわ」
「戦いが終わった後の男の群れに飛び込むなんざ、襲ってくれって言ってるようなもんだろうが! この馬鹿!」
「ば、馬鹿は酷いんじゃないかな? 確かに、考えなしだったかもしれないけれど!」
実際に嫌な目にあったし、無謀なことをしてしまったと思った。けれど頭ごなしに怒鳴られて、ディミエルも引っ込みがつかなくなる。
「あ、ありがとうライシス……」
「ディミー、無事でよかった」
「殿下、その人は僕の妻なんですから、勝手な真似はやめてくださいとお願いしましたよね?」
セレストの苛立ち混じりの声に、リリーは驚く。
「えっ、すでにセレストは妻帯者なの?」
ライシスがすかさず否定した。
「そうじゃないよ、彼らは正式に婚姻していない。ディミーは俺の大切な人で、セレストは彼女に片想いしてるだけだから、どんどん迫っていい。必ず落としてくれ、俺も全力で応援する」
「へえ、そうなんだあ。だったら遠慮なく迫っちゃおうっと」
「な……っ、や、やめてください、私は貴女のような幼児体型……失敬、その、色気のない……いや、男装が似合いすぎる方は好みでなくてですね」
失礼な本音がダダ漏れているのにも関わらず、リリーは瞳を輝かせて微笑んだ。
「とっても正直な人だね、ますます気に入ったよセレスト。おべっかを使われるのはもう、うんざりなんだよね。もっと君のことを知りたいから、ちょっとあっちで話そうか」
「待ってください、王女殿下……! ディミエル! 戻ってきなさい!」
誰が行くもんですかとそっぽを向くと、セレストの情けない声がだんだん遠ざかっていった。
リリーはセレストを護衛ごと引き連れて、天幕の方に連れていく。ライシスは二人の様子を見届けた後、ディミエルのことをそっと抱きしめた。
「ディミー、ここで会えてよかった」
「あ、ライシス……ごめんなさい、急に理由も言わずに、故郷に帰ったりして」
「今のやりとりで大体予想はついたよ。セレストに無茶を言われて、町にいられなくなったんだろう?」
「そう……急に僕と結婚するんだって言われて、どうしても嫌だったから後先考えず逃げ出してしまったの」
「逃げてくれてよかったよ。ディミーがアイツと結婚していたら……」
ライシスは感極まったように、ぎゅうっとディミエルのことを抱きしめた。ほこりっぽい匂いと共に爽やかなライシス自身の香りがして、トクトクと胸が高鳴る。
「ライシス……助けてくれて嬉しかった、私どうしても貴方に伝えたいことがあったの」
「俺もだ」
端正な顔が真剣な表情を浮かべていて、ドキリとする。言葉もなく見入っていると、伝令らしき騎士がライシスの方に近づいてきた。
「殿下、よろしいでしょうか。残党について報告があります」
「……ごめんディミエル、後で必ず会いにいくから、持ち場に戻っていてくれ」
名残惜しそうに体を離される。ディミエルは頷いた。
「うん、忙しいよね。私は夕方までキャンプに滞在して、怪我人の様子を見ているから。待ってる」
「なるべく早く行くから。部下に送らせるよ」
騎士に守られながら、怪我人の待つ場所へと戻った。ディミエルの姿を見て、姉さん魔女の一人が駆け寄ってくる。
「おかえりディミエル、あら、騎士様に送っていただいたの?」
騎士は敬礼をして帰っていく。その姿を見届けてから、ディミエルは彼女に返事をした。
「ええ。実は、王子様に会うことができたの」
「なんですって!? すごいじゃないディミエル!」
もう一人の姉さんも寄ってきて、きゃあきゃあと二人でディミエルを囲み、盛り上がっている。
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「話って何を話したの? 王子様の側には護衛の方がいたけど、そんなに簡単に話ができるものなの?」
「待って、いっぺんに質問されても答えられないよ」
苦笑いしながらも事情を説明していると、更にもう一人見知った人物がやってきた。
「おいディミエル、どこに行ってたんだよ!」
「あ、リック」
「まあ」
「来たわね」
姉さん達は意味深に目配せしあって、リックの方へとディミエルの背を押した。何がなんだかわからないものの、肩を怒らせたリックと相対する。
「リック、どうしてそんなに怒っているの?」
「さっき様子を見にきてやったのに、お前がいなかったからだよ! しかも王子に会いにいったとか聞いたぞ、危ないことするなって言っただろ!」
「そんなに怒らなくてもいいじゃない、こうして無事に帰ってこれたわ」
「戦いが終わった後の男の群れに飛び込むなんざ、襲ってくれって言ってるようなもんだろうが! この馬鹿!」
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