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30 討伐が終わったら話があるそうです

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 森の小径を踏み分けながら、リックの後をついていく。彼は硬い声でディミエルに話しかけた。

「討伐隊の編成によっては、お前の近くにいられないかもしれない」
「そうだね。私は後方部隊とかに回されるだろうから、リックとは持ち場が違うかも」

 事前に村長から聞いた話では、討伐対象は巨大な熊の魔物らしい。熊の魔物は本来、森のもっと奥に出る魔物だ。

 それが森から平野の方に出てきたことで、魔物の分布がおかしくなった。

 原因となる魔物を討伐すれば、異常事態が収束するだろうとのことで、討伐隊が発足された。

 王都の兵士と冒険者及び、有志の者で結成された討伐隊は、全員で二百五十名ほどの大所帯となっている。

 熊の魔物と、それに釣られて活発化している他の凶暴な魔物を安全に退治するためには、この程度の人数が必要だろうと判断されたらしい。

「熊の魔物なんて、じいちゃんの武勇伝でしか聞いたことのない大物だな。爪のひと払いで、三人を薙ぎ倒すらしいぞ」
「怖いな……無理しないでね、リック」
「おう。お前も無理すんなよ、鈍臭いんだから」

(もう、一言余計なのよね。心配してくれているのなら、素直にそう言えばいいのに)

 森から出ると、平地には簡単なキャンプ地が作られていた。あの辺りが討伐隊の本拠地となるのだろう。

「……ディミエル、討伐が終わったら、お前に話したいことがあるんだ」
「何?」
「だから、終わったら話すって言ってるだろ。絶対に聞いてくれよ」
「……わかった」

 熱のこもった視線で見つめられて、思わず頷いた。リックも頷きを返してくる。

「行こう」

 キャンプ地につくとディミエルは衛生班に、リックは前衛部隊に回された。予想通りだったけれど、リックはディミエルと離れるのを渋った。

「キャンプ地から絶対に出るなよ」
「うん、わかってる」
「怪我したらもう二度と、危なそうなことには参加させないからな」
「怪我するつもりはないから、大丈夫」
「その辺に木の実とか落ちてても、拾い食いするんじゃねえぞ」
「もう、私をなんだと思ってるの!?」
「だってお前、気になったら後先考えずに動くことがあるじゃんか」
「私のことはいいから、自分のことに集中して」
「わかったよ……」

 リックはごまかすように頭を掻くと、持ち場の方へと足を向けた。

「じゃあな、絶対に危ない真似はするなよ!」
「リックもね!」

 案内された衛生班の待機場には、魔女が二人いた。黒髪とダークブラウンの髪の彼女達は、ディミエルの知り合いだ。

「よかった、二人も参加していたのね」
「あ、ディミー! 私達はほら、旦那が村の代表として討伐隊に参加するって言うから、手伝いについてきたのよ。どうして貴女まで?」
「私はちょっと、会いたい人がいて」

 姉さん魔女達はきゃあ、と嬉しそうな声を上げて盛り上がる。

「なになに、王都から派遣された兵士の中に、思い人がいるとか?」
「そんなんじゃないけど……王子様に会えたらいいなって思ってるの」
「ええっ⁉︎ 王子狙いなの⁉︎」
「違うわ!」
「そうなの? とっても素敵な方だから、ディミーが惚れてもおかしくないわよ。顔面も髪の色も、キラキラと輝いてたわ」
「まあ、高望みが過ぎるよね、王子様なんて」
「だから、別に狙ってないってば」

 姉さん達はカラカラとひとしきり笑ってから、真面目な話題に切り替えた。

「斥候に出た冒険者達が戻ってきたら、いよいよ森の奥の熊に挑むのでしょう?」
「今日の昼には出撃するだろうって聞いてるわ。午後から怪我人が出るだろうし、今のうちに物資を確認しておきましょう」

 テキパキと仕事をする姉さん魔女と一緒に、ディミエルも薬や包帯の位置や、数を把握していく。

「私、薬を追加で持ってきているの。足りなくなったらこれを使いましょう」
「いいのディミー? 貴女が作った物を寄付するって形になっちゃうわよ?」
「これで助かる人がいるなら、構わないわ。今はお金がほしいわけでもないし」
「そう、じゃあ遠慮なく使わせてもらうわね」

 ディミエルは持ってきた薬を、共同で使う薬箱に移しておいた。
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