30 / 38
30 討伐が終わったら話があるそうです
しおりを挟む
森の小径を踏み分けながら、リックの後をついていく。彼は硬い声でディミエルに話しかけた。
「討伐隊の編成によっては、お前の近くにいられないかもしれない」
「そうだね。私は後方部隊とかに回されるだろうから、リックとは持ち場が違うかも」
事前に村長から聞いた話では、討伐対象は巨大な熊の魔物らしい。熊の魔物は本来、森のもっと奥に出る魔物だ。
それが森から平野の方に出てきたことで、魔物の分布がおかしくなった。
原因となる魔物を討伐すれば、異常事態が収束するだろうとのことで、討伐隊が発足された。
王都の兵士と冒険者及び、有志の者で結成された討伐隊は、全員で二百五十名ほどの大所帯となっている。
熊の魔物と、それに釣られて活発化している他の凶暴な魔物を安全に退治するためには、この程度の人数が必要だろうと判断されたらしい。
「熊の魔物なんて、じいちゃんの武勇伝でしか聞いたことのない大物だな。爪のひと払いで、三人を薙ぎ倒すらしいぞ」
「怖いな……無理しないでね、リック」
「おう。お前も無理すんなよ、鈍臭いんだから」
(もう、一言余計なのよね。心配してくれているのなら、素直にそう言えばいいのに)
森から出ると、平地には簡単なキャンプ地が作られていた。あの辺りが討伐隊の本拠地となるのだろう。
「……ディミエル、討伐が終わったら、お前に話したいことがあるんだ」
「何?」
「だから、終わったら話すって言ってるだろ。絶対に聞いてくれよ」
「……わかった」
熱のこもった視線で見つめられて、思わず頷いた。リックも頷きを返してくる。
「行こう」
キャンプ地につくとディミエルは衛生班に、リックは前衛部隊に回された。予想通りだったけれど、リックはディミエルと離れるのを渋った。
「キャンプ地から絶対に出るなよ」
「うん、わかってる」
「怪我したらもう二度と、危なそうなことには参加させないからな」
「怪我するつもりはないから、大丈夫」
「その辺に木の実とか落ちてても、拾い食いするんじゃねえぞ」
「もう、私をなんだと思ってるの!?」
「だってお前、気になったら後先考えずに動くことがあるじゃんか」
「私のことはいいから、自分のことに集中して」
「わかったよ……」
リックはごまかすように頭を掻くと、持ち場の方へと足を向けた。
「じゃあな、絶対に危ない真似はするなよ!」
「リックもね!」
案内された衛生班の待機場には、魔女が二人いた。黒髪とダークブラウンの髪の彼女達は、ディミエルの知り合いだ。
「よかった、二人も参加していたのね」
「あ、ディミー! 私達はほら、旦那が村の代表として討伐隊に参加するって言うから、手伝いについてきたのよ。どうして貴女まで?」
「私はちょっと、会いたい人がいて」
姉さん魔女達はきゃあ、と嬉しそうな声を上げて盛り上がる。
「なになに、王都から派遣された兵士の中に、思い人がいるとか?」
「そんなんじゃないけど……王子様に会えたらいいなって思ってるの」
「ええっ⁉︎ 王子狙いなの⁉︎」
「違うわ!」
「そうなの? とっても素敵な方だから、ディミーが惚れてもおかしくないわよ。顔面も髪の色も、キラキラと輝いてたわ」
「まあ、高望みが過ぎるよね、王子様なんて」
「だから、別に狙ってないってば」
姉さん達はカラカラとひとしきり笑ってから、真面目な話題に切り替えた。
「斥候に出た冒険者達が戻ってきたら、いよいよ森の奥の熊に挑むのでしょう?」
「今日の昼には出撃するだろうって聞いてるわ。午後から怪我人が出るだろうし、今のうちに物資を確認しておきましょう」
テキパキと仕事をする姉さん魔女と一緒に、ディミエルも薬や包帯の位置や、数を把握していく。
「私、薬を追加で持ってきているの。足りなくなったらこれを使いましょう」
「いいのディミー? 貴女が作った物を寄付するって形になっちゃうわよ?」
「これで助かる人がいるなら、構わないわ。今はお金がほしいわけでもないし」
「そう、じゃあ遠慮なく使わせてもらうわね」
ディミエルは持ってきた薬を、共同で使う薬箱に移しておいた。
「討伐隊の編成によっては、お前の近くにいられないかもしれない」
「そうだね。私は後方部隊とかに回されるだろうから、リックとは持ち場が違うかも」
事前に村長から聞いた話では、討伐対象は巨大な熊の魔物らしい。熊の魔物は本来、森のもっと奥に出る魔物だ。
それが森から平野の方に出てきたことで、魔物の分布がおかしくなった。
原因となる魔物を討伐すれば、異常事態が収束するだろうとのことで、討伐隊が発足された。
王都の兵士と冒険者及び、有志の者で結成された討伐隊は、全員で二百五十名ほどの大所帯となっている。
熊の魔物と、それに釣られて活発化している他の凶暴な魔物を安全に退治するためには、この程度の人数が必要だろうと判断されたらしい。
「熊の魔物なんて、じいちゃんの武勇伝でしか聞いたことのない大物だな。爪のひと払いで、三人を薙ぎ倒すらしいぞ」
「怖いな……無理しないでね、リック」
「おう。お前も無理すんなよ、鈍臭いんだから」
(もう、一言余計なのよね。心配してくれているのなら、素直にそう言えばいいのに)
森から出ると、平地には簡単なキャンプ地が作られていた。あの辺りが討伐隊の本拠地となるのだろう。
「……ディミエル、討伐が終わったら、お前に話したいことがあるんだ」
「何?」
「だから、終わったら話すって言ってるだろ。絶対に聞いてくれよ」
「……わかった」
熱のこもった視線で見つめられて、思わず頷いた。リックも頷きを返してくる。
「行こう」
キャンプ地につくとディミエルは衛生班に、リックは前衛部隊に回された。予想通りだったけれど、リックはディミエルと離れるのを渋った。
「キャンプ地から絶対に出るなよ」
「うん、わかってる」
「怪我したらもう二度と、危なそうなことには参加させないからな」
「怪我するつもりはないから、大丈夫」
「その辺に木の実とか落ちてても、拾い食いするんじゃねえぞ」
「もう、私をなんだと思ってるの!?」
「だってお前、気になったら後先考えずに動くことがあるじゃんか」
「私のことはいいから、自分のことに集中して」
「わかったよ……」
リックはごまかすように頭を掻くと、持ち場の方へと足を向けた。
「じゃあな、絶対に危ない真似はするなよ!」
「リックもね!」
案内された衛生班の待機場には、魔女が二人いた。黒髪とダークブラウンの髪の彼女達は、ディミエルの知り合いだ。
「よかった、二人も参加していたのね」
「あ、ディミー! 私達はほら、旦那が村の代表として討伐隊に参加するって言うから、手伝いについてきたのよ。どうして貴女まで?」
「私はちょっと、会いたい人がいて」
姉さん魔女達はきゃあ、と嬉しそうな声を上げて盛り上がる。
「なになに、王都から派遣された兵士の中に、思い人がいるとか?」
「そんなんじゃないけど……王子様に会えたらいいなって思ってるの」
「ええっ⁉︎ 王子狙いなの⁉︎」
「違うわ!」
「そうなの? とっても素敵な方だから、ディミーが惚れてもおかしくないわよ。顔面も髪の色も、キラキラと輝いてたわ」
「まあ、高望みが過ぎるよね、王子様なんて」
「だから、別に狙ってないってば」
姉さん達はカラカラとひとしきり笑ってから、真面目な話題に切り替えた。
「斥候に出た冒険者達が戻ってきたら、いよいよ森の奥の熊に挑むのでしょう?」
「今日の昼には出撃するだろうって聞いてるわ。午後から怪我人が出るだろうし、今のうちに物資を確認しておきましょう」
テキパキと仕事をする姉さん魔女と一緒に、ディミエルも薬や包帯の位置や、数を把握していく。
「私、薬を追加で持ってきているの。足りなくなったらこれを使いましょう」
「いいのディミー? 貴女が作った物を寄付するって形になっちゃうわよ?」
「これで助かる人がいるなら、構わないわ。今はお金がほしいわけでもないし」
「そう、じゃあ遠慮なく使わせてもらうわね」
ディミエルは持ってきた薬を、共同で使う薬箱に移しておいた。
0
お気に入りに追加
548
あなたにおすすめの小説
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
義妹を溺愛するクズ王太子達のせいで国が滅びそうなので、ヒロインは義妹と愉快な仲間達と共にクズ達を容赦なく潰す事としました
やみなべ
恋愛
<最終話まで執筆済。毎日1話更新。完結保障有>
フランクフルト王国の辺境伯令嬢アーデルは王家からほぼ選択肢のない一方的な命令でクズな王太子デルフリと婚約を結ばされた。
アーデル自身は様々な政治的背景を理解した上で政略結婚を受け入れるも、クズは可愛げのないアーデルではなく天真爛漫な義妹のクラーラを溺愛する。
貴族令嬢達も田舎娘が無理やり王太子妃の座を奪い取ったと勘違いし、事あるごとにアーデルを侮辱。いつしか社交界でアーデルは『悪役令嬢』と称され、義姉から虐げられるクラーラこそが王太子妃に相応しいっとささやかれ始める。
そんな四面楚歌な中でアーデルはパーティー会場内でクズから冤罪の後に婚約破棄宣言。義妹に全てを奪われるという、味方が誰一人居ない幸薄い悪役令嬢系ヒロインの悲劇っと思いきや……
蓋を開ければ、超人のようなつよつよヒロインがお義姉ちゃん大好きっ子な義妹を筆頭とした愉快な仲間達と共にクズ達をぺんぺん草一本生えないぐらい徹底的に叩き潰す蹂躙劇だった。
もっとも、現実は小説より奇とはよく言ったもの。
「アーデル!!貴様、クラーラをどこにやった!!」
「…………はぁ?」
断罪劇直前にアーデル陣営であったはずのクラーラが突如行方をくらますという、ヒロインの予想外な展開ばかりが続いたせいで結果論での蹂躙劇だったのである。
義妹はなぜ消えたのか……?
ヒロインは無事にクズ王太子達をざまぁできるのか……?
義妹の隠された真実を知ったクズが取った選択肢は……?
そして、不穏なタグだらけなざまぁの正体とは……?
そんなお話となる予定です。
残虐描写もそれなりにある上、クズの末路は『ざまぁ』なんて言葉では済まない『ざまぁを超えるざまぁ』というか……
これ以上のひどい目ってないのではと思うぐらいの『限界突破に挑戦したざまぁ』という『稀にみる酷いざまぁ』な展開となっているので、そういうのが苦手な方はご注意ください。
逆に三度の飯よりざまぁ劇が大好きなドS読者様なら……
多分、期待に添えれる……かも?
※ このお話は『いつか桜の木の下で』の約120年後の隣国が舞台です。向こうを読んでればにやりと察せられる程度の繋がりしか持たせてないので、これ単体でも十分楽しめる内容にしてます。
受験なので好きな子との時間を減らしたいと思います
陸沢宝史
恋愛
俺には葉梨名という一個下の想い人がいる。週の半分を遊ぶ仲だが未だに告白すらしていない。そんな俺も受験生。葉梨名と遊びすぎて勉強の時間をあまり捻出できておらず成績は下降中。だから葉梨名と遊ぶ時間を減らさないといけない状況に陥っていた。
余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~
藤森フクロウ
ファンタジー
相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。
悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。
そこには土下座する幼女女神がいた。
『ごめんなさあああい!!!』
最初っからギャン泣きクライマックス。
社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。
真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……
そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?
ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!
第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。
♦お知らせ♦
余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!
漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。
よかったらお手に取っていただければ幸いです。
書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。
7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。
今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。
コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。
漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。
※基本予約投稿が多いです。
たまに失敗してトチ狂ったことになっています。
原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。
現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。
タラコ唇さんの趣味の世界(14)
みのる
大衆娯楽
毎度足をお運びくださり誠にありがとうございます。
タラコ唇さんの趣味に走りまくった、
いつものヤツですよぉーーー?
(今日からチラ見してみようかな?というお方も大歓迎でございます)
ご自分が見たいところで足を止めてみてくださいね♡
(14)を生み出すのには数々の葛藤がございましたが、結果作っちゃった♪
多分『いつもどおり』になるんじゃないかな?
例え価値のない小説であろうとも、誰かのこころに何かしら残すことが出来たらば···スゴイよね?
(いや、コレはなぁんも残らんと思うぞ)
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!
音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。
頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。
都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。
「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」
断末魔に涙した彼女は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる