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29 討伐隊に参加しようと思います
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リックは大反対してきたが、ディミエルは意思を曲げなかった。村長に討伐隊に参加する旨を伝えると、厳かに頷いてくれる。
「わかった。私からお前の参加表明を伝えておこう。討伐自体は二日後に行われるそうだから、それまでは村で過ごすといい」
「お願いします」
村長と話を終えて家から出た時に、背後にピタリとくっついてきていたリックが、ディミエルの行く手を阻んだ。
「待てよ。本当に行くのか?」
「聞いていたでしょう? もちろんそのつもり」
「お前はなんでそう、思い込んだらすぐ行動しちまうんだ……」
リックはガリガリと頭を掻いてから、偉そうに腕を組んだ。
「しょうがねえな。できる限り一緒に行動してやるから、危ないことはするなよ」
「リックに言われなくたって、わざと危ないことをするつもりはないわ」
「そんなに王子のことが気になるのか? 無駄だって、王子は魔女になんて興味ないだろ」
「そうかもしれない……でも、気になるの」
王子に会ってみたい本当の理由は言えないから、王子が気になるということにしておいた。
するとリックは拗ねたように唇を尖らせながら、小さく独り言を呟く。
「んだよ、絶対に俺の方がいい男なのに」
「何か言った?」
「なんでもねえよ!」
「うわ、大きな声をいきなり出さないで、びっくりするじゃない」
「クッソ……とにかく、二日後迎えにくるからな! 一人で行くなよ!」
彼は怒って顔を真っ赤にしながら、走り去ってしまった。ディミエルは嘆息して、彼の後ろ姿を見守る。
(なんで怒ったんだろう、気に触るようなことしてないつもりだけど。リックはすぐ怒るところが苦手だな。悪い人じゃないけれど)
ディミエルが何かした訳でもないのに、すぐに大声を出して顔を真っ赤にして怒る癖があるので、びっくりしてしまう。
リックのことを気に入っている母には悪いが、結婚相手はもっと笑顔が素敵で穏やかな人がいい。
(いつもニコニコしていて、元気だけど優雅な雰囲気もあって……そう、ライシスみたいな人がいいな)
一度好きだと自覚すると、彼の素敵なところが際立ってよく見えてしまう。麗しい笑顔を脳裏に思い浮かべて、うっとりとため息をつく。
(たとえ討伐隊に参加したとして、王子様に会うことができるかわからない。でも、何もしないで落ち込んで過ごすよりも、人の役に立つことをしていた方がマシだわ)
ディミエルは自身の頬を軽く叩いて、気持ちを切り替えた。そうと決まれば、色々準備をしなければ。
(護身用の短剣の用意と、薬を新たに作り増しするのと、あと着替えとそれから……)
やることがある方が気が紛れていいと、ディミエルは前向きに考えながら家へと引き返した。
荷造りをしていると、母が心配そうにディミエルの様子を見にきた。討伐隊に参加することを伝えると、やはり反対される。
「ディミエル、危ないことはしないでちょうだい。せっかく無事に帰ってきたのに、貴女に何かあったらと思うと、私は気が気じゃないわ」
「心配しないで、リックも守ってくれるって言うし、大丈夫だよ」
「あら、そうなの? ひょっとしてリックがいるから、討伐隊に参加するって言い出したのかしら」
母が期待するような目を向けてくるので、曖昧に誤魔化してしまった。
「えーっと、そうね……リックが討伐隊の話をしていたから、私も参加したいなって思ったの」
「そうだったの、リックと一緒にいたいのね……そういうことなら反対はしないわ。けれど、くれぐれも気をつけてね」
何やら誤解を受けてしまったけれど、本当の理由は誰にも話すつもりがないので、そういうことにしておいた。
準備に追われているうちに、あっという間に討伐隊に参加する日となった。
鞄に荷物を詰め込んでいると、リックが家に訪れた。母が高い声を上げて歓迎する。
「まあ、リック! 討伐隊に参加するのよね、がんばってね。ディミエルのことも、くれぐれもお願いするわ」
「わかってます、おばさん。俺に任せてください」
「頼もしいわね」
緊張した面持ちで母と受け答えを交わしたリックは、ディミエルに手を差し出した。
「ほら、そろそろ出ないと遅刻するぞ」
「わかったわ、今行くね」
「二人とも、どうか無事に帰ってきて!」
母に手を振って、二人は村を後にした。
「わかった。私からお前の参加表明を伝えておこう。討伐自体は二日後に行われるそうだから、それまでは村で過ごすといい」
「お願いします」
村長と話を終えて家から出た時に、背後にピタリとくっついてきていたリックが、ディミエルの行く手を阻んだ。
「待てよ。本当に行くのか?」
「聞いていたでしょう? もちろんそのつもり」
「お前はなんでそう、思い込んだらすぐ行動しちまうんだ……」
リックはガリガリと頭を掻いてから、偉そうに腕を組んだ。
「しょうがねえな。できる限り一緒に行動してやるから、危ないことはするなよ」
「リックに言われなくたって、わざと危ないことをするつもりはないわ」
「そんなに王子のことが気になるのか? 無駄だって、王子は魔女になんて興味ないだろ」
「そうかもしれない……でも、気になるの」
王子に会ってみたい本当の理由は言えないから、王子が気になるということにしておいた。
するとリックは拗ねたように唇を尖らせながら、小さく独り言を呟く。
「んだよ、絶対に俺の方がいい男なのに」
「何か言った?」
「なんでもねえよ!」
「うわ、大きな声をいきなり出さないで、びっくりするじゃない」
「クッソ……とにかく、二日後迎えにくるからな! 一人で行くなよ!」
彼は怒って顔を真っ赤にしながら、走り去ってしまった。ディミエルは嘆息して、彼の後ろ姿を見守る。
(なんで怒ったんだろう、気に触るようなことしてないつもりだけど。リックはすぐ怒るところが苦手だな。悪い人じゃないけれど)
ディミエルが何かした訳でもないのに、すぐに大声を出して顔を真っ赤にして怒る癖があるので、びっくりしてしまう。
リックのことを気に入っている母には悪いが、結婚相手はもっと笑顔が素敵で穏やかな人がいい。
(いつもニコニコしていて、元気だけど優雅な雰囲気もあって……そう、ライシスみたいな人がいいな)
一度好きだと自覚すると、彼の素敵なところが際立ってよく見えてしまう。麗しい笑顔を脳裏に思い浮かべて、うっとりとため息をつく。
(たとえ討伐隊に参加したとして、王子様に会うことができるかわからない。でも、何もしないで落ち込んで過ごすよりも、人の役に立つことをしていた方がマシだわ)
ディミエルは自身の頬を軽く叩いて、気持ちを切り替えた。そうと決まれば、色々準備をしなければ。
(護身用の短剣の用意と、薬を新たに作り増しするのと、あと着替えとそれから……)
やることがある方が気が紛れていいと、ディミエルは前向きに考えながら家へと引き返した。
荷造りをしていると、母が心配そうにディミエルの様子を見にきた。討伐隊に参加することを伝えると、やはり反対される。
「ディミエル、危ないことはしないでちょうだい。せっかく無事に帰ってきたのに、貴女に何かあったらと思うと、私は気が気じゃないわ」
「心配しないで、リックも守ってくれるって言うし、大丈夫だよ」
「あら、そうなの? ひょっとしてリックがいるから、討伐隊に参加するって言い出したのかしら」
母が期待するような目を向けてくるので、曖昧に誤魔化してしまった。
「えーっと、そうね……リックが討伐隊の話をしていたから、私も参加したいなって思ったの」
「そうだったの、リックと一緒にいたいのね……そういうことなら反対はしないわ。けれど、くれぐれも気をつけてね」
何やら誤解を受けてしまったけれど、本当の理由は誰にも話すつもりがないので、そういうことにしておいた。
準備に追われているうちに、あっという間に討伐隊に参加する日となった。
鞄に荷物を詰め込んでいると、リックが家に訪れた。母が高い声を上げて歓迎する。
「まあ、リック! 討伐隊に参加するのよね、がんばってね。ディミエルのことも、くれぐれもお願いするわ」
「わかってます、おばさん。俺に任せてください」
「頼もしいわね」
緊張した面持ちで母と受け答えを交わしたリックは、ディミエルに手を差し出した。
「ほら、そろそろ出ないと遅刻するぞ」
「わかったわ、今行くね」
「二人とも、どうか無事に帰ってきて!」
母に手を振って、二人は村を後にした。
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